中国指導部が経済の立て直しと並行し、半導体技術の完全自給に向けた国内体制の強化を急いでいる。2025年12月に北京で開かれた全国政治協商会議の主席会議で示された方針は、米国の輸出規制が直接及ばない成熟・旧世代技術領域での供給網構築を加速させることを示唆する。これは、EUV(極端紫外線)向けフォトレジストやシリコンウエハーで世界市場を掌握する日本の信越化学工業やJSR、製造装置大手の東京エレクトロンなどにとって、新たな事業環境と地政学リスクの到来を告げるものだ。

政治協商会議が映す「信頼感」の裏側

12月24日の会議で王滬寧主席が強調した「経済発展への信頼感を高める」との発言は、現在の中国経済が直面する構造的課題の裏返しと見られる。中国国家統計局が2025年10月に発表した第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比4.1%増と、政府目標の「5%前後」の達成に黄信号が灯る。不動産市場の低迷は続き、地方政府の財政悪化も深刻さを増している。こうした閉塞感を打破し、国内の求心力を維持する上で、科学技術の自立、とりわけ「産業のコメ」である半導体の国産化は最重要の国家目標と位置づけられている。

この動きを裏付けるのが、国内半導体産業への集中的な資源配分だ。中国最大のファウンドリ(半導体受託製造)、SMIC中芯国際集成電路製造)の2024年度の設備投資額は、前年比約5%増の78億ドルに達する見込みで、米国の制裁下でも高水準を維持している(同社2025年2月期決算説明会)。また、半導体産業育成を目的とする国家集積回路産業投資基金(通称「大基金」)は、総額4兆円超とされる第三期分の設立準備を進めていると報じられており、資金は国産の製造装置や材料開発に重点的に投下されると見られる。政治協商会議は、こうした党の強力な意志を産業界や学術界に伝達し、挙国一致体制を構築する上で不可欠な機関として機能している。

なぜ今、2026年計画が重要なのか?

今回の会議で2026年の活動計画が審議された意味は大きい。2026年は、中国の第14次五カ年計画(2021〜2025年)の成果を総括し、次期計画へ移行する節目の年にあたる。半導体分野では、米国の制裁が及ばない「成熟プロセス」での自給体制確立が喫緊の課題だ。具体的には、回路線幅28ナノメートル(nm)以上の汎用半導体が主戦場となる。この領域は、自動車、産業機器、家電など幅広い用途で需要が根強く、中国の国内需要だけでも巨大な市場を形成する。

米商務省産業安全保障局(BIS)は2022年10月、16nm/14nm以下のロジック半導体製造に関わる米国製装置・技術の対中輸出を厳しく制限した。これにより、ASML(オランダ)製のEUV露光装置の導入は完全に断たれた。しかし、一世代前のDUV(深紫外線)露光装置、特に液浸ArF(フッ化アルゴン)露光装置は、複数回の露光(マルチパターニング)技術を駆使すれば、理論上7nm世代までの製造が可能とされる。中国は、国産の露光装置開発を進めつつ、日本やオランダから輸入可能な旧世代DUV装置を大量に導入し、成熟プロセスでの生産能力を急拡大している。業界調査会社TrendForceの2025年11月の報告によれば、世界の成熟プロセス(28nm以上)のウエハー生産能力に占める中国の割合は、2024年の29%から2027年には33%に達すると予測される。2026年は、この生産能力増強が一つのピークを迎え、供給網の国内循環が本格化する転換点となる可能性がある。

日本の材料・装置メーカーへの二重圧力

中国の技術自給路線は、サプライチェーンの上流を握る日本の半導体材料・装置メーカーに二重の圧力をかける。第一は、中国市場での競争激化だ。中国政府は国産化推進のため、国内の半導体工場に対して国産の装置や材料の採用比率を高めるよう非公式に指導している模様だ。例えば、半導体の回路パターンをウエハーに転写するフォトレジスト市場では、JSR、東京応化工業、信越化学工業、富士フイルムの日本勢がEUV向けで世界シェアの9割以上を占める。しかし、より汎用的なKrF(フッ化クリプトン)やi線向けでは、中国国内メーカーが品質を向上させ、着実にシェアを侵食している。CMP(化学機械研磨)工程で用いるスラリーや、洗浄工程で不可欠な高純度フッ化水素なども同様の構図にある。日本の素材メーカーは、先端分野での優位性を保ちつつ、汎用品市場での価格競争と現地勢の追い上げに直面する。

第二の圧力は、米国の対中規制強化に伴う地政学リスクだ。米国は、先端半導体だけでなく、成熟半導体分野における中国の生産能力拡大にも警戒を強めている。米商務省は2025年、中国製成熟半導体のサプライチェーンに関する調査を開始しており、将来的に関税引き上げなどの対抗措置に踏み切る可能性が指摘されている。そうなれば、日本企業は中国の顧客への製品供給が制限される「米国の規制」と、中国国内での国産品優遇という「中国の規制」の板挟みになりかねない。シリコンウエハーで世界シェア約6割を握る信越化学やSUMCOにとっても、最大の輸出先である中国市場の動向は経営の根幹を揺るがす問題だ。

「情報統制」が隠す供給網の脆弱性

王滬寧主席が言及した「インターネット空間の健全化」は、表向きは法治の徹底を掲げるが、実質的には経済・技術情報に関する統制強化を意味する。中国国内の半導体工場の稼働実態や国産装置の歩留まり率、先端研究の進捗といった情報は、外部から正確に把握することが一段と困難になっている。これは、外国企業が中国市場のリスクを評価する上での大きな障害となる。

一方で、この情報統制は中国自身の供給網の脆弱性を覆い隠す側面も持つ。例えば、上海微電子装備(SMEE)が開発中とされる国産DUV露光装置「SSA/800-10W」は、28nm対応と発表されているが、その量産安定性や生産性は依然として不透明だ。また、製造装置は数万点の部品から構成される複雑なシステムであり、主要な構成品(コンポーネント)だけでなく、特殊なネジ一本、真空を保つシール材一つに至るまで、サプライチェーンは国境を越えて複雑に絡み合う。特に、レンズを駆動させる精密モーターや、レーザー発振器の制御部品などでは、依然として日本やドイツの専業メーカーへの依存度が高いと見られる。中国が真の技術自給を達成するには、こうした裾野の広い部品・素材産業全体を底上げする必要があり、その道のりは2026年時点でもまだ遠いとの見方が業界では支配的だ。

日本企業が直面する選択

中国の政治協商会議が示した方針は、単なる国内の経済政策に留まらない。米国の技術覇権に対抗し、独自の経済・技術圏を構築しようとする長期戦略の一環である。この巨大な潮流の中で、日本の半導体関連企業は厳しい選択を迫られている。中国市場の巨大な需要を取り込み続けるのか、それとも米国の主導する技術同盟の枠組みに軸足を置き、中国との関与を段階的に縮小していくのか。

どちらの道を選ぶにせよ、戦略の鍵となるのは技術的優位性の維持と多様化だ。EUV関連技術や、次世代のパワー半導体に使われるSiC(炭化ケイ素)ウエハー、3D実装に不可欠なボンディング装置など、他国が容易に追随できない中核技術を深化させることが、交渉力を維持する上で不可欠となる。ディスコやSCREENホールディングスが強みを持つウエハーの「切る・削る・磨く」といった後工程分野も、チップレット(複数の半導体を組み合わせる技術)の普及に伴い戦略的重要性が増している。同時に、インドや東南アジア、米国など、中国以外の地域での生産・販売体制を強化し、特定市場への過度な依存から脱却する「チャイナ・プラスワン」の動きを加速させることが、地政学リスクを分散させる上で急務となる。中国の政策意図を深く読み解き、技術と市場の両面から複眼的な戦略を構築できるかどうかが、日本企業の今後を左右する。