中国政府が、低迷する国内株式市場の安定化に向けた動きを本格化させている。不動産市場の不況と景気の先行き不透明感を背景とした株価下落を受け、通によると「国家隊」と呼ばれる政府系ファンドが上場投資信託(ETF)を大規模に購入。市場介入を強める一方、金融市場の対外開放を加速させ、海外からの資金流入を促す構えだ。
なぜ今、重要か
今回の強力な市場介入の背景には、習近平指導部の強い危機感がある。上海総合指数は2024年2月上旬、心理的節目の2700ポイントを割り込み、2019年以来の安値を記録。市場の動揺が深刻化し、個人の含み損が拡大したことで社会不安への懸念も高まった。これを受け、中国証券監督管理委員会(CSRC)のトップが事実上更迭されるなど、指導部が市場安定を最優先課題に掲げた格好だ。
Bloombergの推計によると、2月だけで「国家隊」は約4100億元(約8兆5000億円)を市場に投じた可能性がある。この介入は、単なる株価対策に留まらず、中国共産党の統治能力と経済運営に対する国内外の信頼を維持するための、体制の威信をかけた動きと位置づけられる。
「国家隊」によるETF買い入れの実態
「国家隊」の中核を担う政府系投資会社の中央匯金投資公司は2月6日、ETFの買い入れを拡大したと公式に発表。市場の信頼回復を目指す姿勢を明確にした。買い入れは、上海・深圳市場の主に300銘柄で構成されるCSI300指数や、上海市場の主に50銘柄からなるSSE50指数などに連動するETFに集中している。これにより、特定の銘柄ではなく市場全体を底上げし、投資家心理の悪化に歯止めをかける狙いだ。
CSRCもこの動きを後押しし、悪質な空売りへの取り締まり強化や、新規株式公開(IPO)のペース調整といった追加策を打ち出している。新華社通信は、当局が「断固として市場の異常な変動を防ぐ」との強い決意を示したと伝えており、政策総動員で相場を支える構えを見せている。
対外開放策の狙いと限界
市場介入と並行して、中国人民銀行(PBoC)と国家外貨管理局は金融市場の対外開放を一段と推進する方針だ。具体的には、適格外国機関投資家(QFII)制度の対象拡大や手続きの簡素化、香港との株式・債券相互取引制度(ストックコネクト、ボンドコネクト)の利便性向上などを通じて、海外投資家が中国市場へアクセスしやすくする措置を講じる。
しかし、海外投資家の対中投資への姿勢は依然として慎重だ。米中間の地政学的緊張や、予測不能な規制変更といった「政策リスク」への警戒感が根強い。実際、2023年には海外投資家による中国株の売り越しが目立ち、過去最大規模の資金が流出した。対外開放策だけでこの流れを反転させ、持続的な資金流入を確保するのは容易ではないとの見方が大勢だ。
技術解説:中国の市場介入と開放制度
中国の金融市場を理解する上で、以下の3つの制度は欠かせない。
- 国家隊 (National Team): 2015年の株価急落時に本格的に組織された政府系ファンド群の通によると。政府系金融機関の中央匯金投資公司や中国証券金融股份有限公司などが中核をなす。平時は大手国有企業の安定株主として機能し、市場の危機時には今回のように大規模な買い支えを実行する「市場の最後の砦」としての役割を担う。
- QFII/RQFII制度: 適格外国機関投資家(Qualified Foreign Institutional Investor)制度は、認可された海外の機関投資家が、一定の投資枠内で中国本土の株式(A株)や債券に直接投資できる仕組み。人民元建てのRQFII(Renminbi QFII)もある。近年、投資枠の上限が撤廃されるなど規制緩和が進んでいるが、資本移動の自由度は依然として限定的だ。
- ストックコネクト (株式市場相互接続): 香港取引所を経由して、海外投資家が上海・深圳証券取引所の上場株を、中国本土の投資家が香港の上場株を売買できる制度。「滬港通(上海-香港)」と「深港通(深圳-香港)」の2つがある。QFIIのような資格審査が不要で、中国の資本規制下で本土市場へアクセスできる重要なルートとなっている。
日本の関連性
中国当局による「国家隊」を通じたETF買い入れは、日系金融機関にとって新たな機会とリスクを同時にもたらす。中国市場の底堅さが演出されれば、日系証券会社はストックコネクトやボンドコネクトを通じたクロスボーダー取引の増加を見込める。特に、中国人民銀行と国家外貨管理局がQFII制度の対象拡大を打ち出しているため、日本の機関投資家が中国の株式や債券市場へアクセスしやすくなり、運用機会が広がる可能性がある。
一方で、政府系ファンドによる市場介入は、市場原理に基づく価格形成を歪めるリスクを孕む。例えば、CSRCが空売り規制を強化している状況下では、短期的な株価上昇は期待できるものの、市場の透明性や公正性が損なわれ、日系投資家が予期せぬリスクに直面する可能性がある。また、不動産不況という根本的な問題が解決されない限り、表面的な株価安定は持続せず、日系企業が中国市場で事業を展開する上での不確実性は依然として高い。例えば、中国に進出している日系製造業は、国内需要の低迷から収益悪化に直面する可能性があり、サプライチェーンの再構築や生産拠点の多様化を検討する必要がある。
出典・参考
- [Bloomberg] (2024-02-20) "China’s ‘National Team’ Spends Estimated $57 Billion on Stocks" ― https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-02-20/china-s-national-team-spends-estimated-57-billion-on-stocks
- [新華社] (2024-02-06) "Central Huijin expands ETF holdings to safeguard capital market" ― http://www.xinhuanet.com/english/20240206/43a60a3b827e452296711585c57b01d3/c.html
- [日本経済新聞] (2024-02-20) "中国「国家隊」、2月に株8兆円購入か 相場下支え" ― https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM2018A0Q4A220C2000000/