米国の厳しい輸出規制を受け、中国の半導体産業が国産化を急いでいる。2024年には約7兆円規模の国家基金第3期も設立され、政府主導の投資で成熟プロセスの生産能力は拡大している。しかし、先端分野では依然として高い壁に直面しており、特にSMIC中芯国際集積回路製造)の7nmプロセスは歩留まりの低さが課題となっている。米中間の技術デカップリングが現実のものとなる中、中国の半導体戦略は岐路に立たされている。

なぜ今、重要か

米中技術覇権争いの最前線である半導体分野で、中国の動向は世界のサプライチェーンを揺るがす。2024年5月、中国政府は国家集積回路産業投資基金(通によると「大基金」)の第3期として、過去最大となる3440億元(約7.4兆円)の設立を決定した。これは、米国の規制強化に対抗し、半導体の設計から製造、材料、装置に至るまでの完全にな国内エコシステム構築への強い意志を示すものだ。

この動きは、特に28nm以上の成熟プロセス半導体の市場に大きな影響を与える可能性がある。中国勢の増産による価格下落は、世界の半導体メーカーにとって直接的な脅威となる。一方で、先端プロセスでの停滞は、ファーウェイ(ファーウェイ技術)などが開発する高性能スマートフォンやAIサーバーの国際競争力を左右し、世界のテクノロジー勢力図を塗り替える可能性があるため、その動向が注視されている。

国家主導で進む「二極化」戦略

米国政府は2022年10月以降、安全保障上の懸念を理由に、中国に対する先端半導体および製造装置の輸出規制を段階的に強化してきた。これにより、中国最大のファウンドリであるSMICや通信機器大手のファーウェイなどが米商務省のエンティティリスト(事実上の禁輸措置対象リスト)に追加され、米国の技術を利用した製品の調達が著しく困難になった。

これに対し、中国政府は「大基金」などを通じて国内企業に巨額の資金を供給。半導体の自給率向上を国家戦略として掲げ、国内での設計・製造能力の強化を強力に後押ししている。新華社通信が報じたように、特に自動車や産業機器向けの成熟プロセス半導体では、国産化が着実に進展している。しかし、その裏で先端プロセス開発は難航しており、中国の半導体産業は成熟と先端で格差が広がる「二極化」が進んでいるのが実情だ。

競合との差: TSMC・Samsungとの技術格差

SMICは2023年、ファーウェイのスマートフォン「Mate 60 Pro」向けに7nmプロセスで製造したチップを供給し、世界に衝撃を与えた。しかし、このプロセスは台湾のTSMCや韓国のサムスン電子が数年前に確立した技術であり、性能や効率には依然として大きな差が存在する。

業界調査会社TrendForceの分析によると、SMICの7nmプロセスの歩留まり(良品率)は30~50%程度と推定されている。これは、同世代のプロセスで80%以上の歩留まりを達成しているTSMCと比較して著しく低い水準だ。歩留まりの低さは製造コストの増大に直結し、大規模な量産を困難にする。結果として、中国製の先端チップは、性能面だけでなくコスト競争力においても、国際市場で劣位に立たされている。

技術解説: EUVなき微細化の限界と国産化の現在地

中国の先端プロセス開発における最大のボトルネックは、リソグラフィ(露光)技術にある。回路線幅が7nm以下の微細化に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置は、オランダのASMLが市場を100%独占しており、米国の規制によって中国への輸出が事実上不可能となっている。

  • リソグラフィの壁: SMICの7nmプロセスは、旧世代のDUV(深紫外線)露光装置を複数回使用する「多重露光(マルチパターニング)」技術に依存している。この手法は工程が複雑で時間がかかり、歩留まり低下の主因となる。中国の国産装置メーカーSMEE上海微電子装備)はDUV露光装置の開発を進めているが、現時点では28nmプロセス対応が限界とされ、先端分野での実用化には至っていない。
  • 歩留まりとコスト: 前述の通り、歩留まりの低さがSMICの最大のアキレス腱だ。歩留まりが50%の場合、ウェハーの半分が不良品となり、製造コストは単純計算で2倍になる。これが、TSMCなどが3nmプロセスの量産を進める中で、中国が先端分野で追いつけない構造的な要因となっている。
  • 国産材料・装置: 中国はフォトレジストや高純度化学薬品、各種製造装置の国産化も急いでいるが、多くは日本のJSRや東京応化、米国のラムリサーチやアプライドマテリアルズといった海外企業が高いシェアを握る。これらの分野での技術格差を埋めるには、まだ長い時間が必要と見られている。

日本にとっての意味

米国の輸出規制強化により、中国の半導体国産化が加速する一方、日本企業には新たな事業機会とリスクが顕在化している。まず、成熟プロセス半導体の国産化進展は、日本の自動車や産業機器メーカーにとって、中国製部品の調達リスク増大を意味する。特に、中国政府が「国家集積回路産業投資基金」を通じて国内企業に巨額の資金を供給し、成熟プロセス半導体の国産化を強力に推進している現状は、コスト競争力やサプライチェーンの安定性において、既存の日本サプライヤーが中国企業との競争に直面する可能性を示唆する。

一方で、スマートフォンやAIサーバーに不可欠な7ナノメートル(nm)以下の最先端プロセス技術において、中国が「技術の壁」に直面している点は、日本の半導体製造装置・材料メーカーにとって重要な機会となる。オランダのASMLが独占するEUV露光装置以外の分野、例えば検査装置や洗浄装置、フォトレジストやシリコンウェハーといった高機能材料において、中国は国産化を急ぐものの、性能や歩留まりの面で課題を抱えている。このため、日本のSCREENホールディングスや東京エレクトロン、JSRなどの企業は、中国の先端半導体産業が国産化を進める上で不可欠な技術パートナーとして、引き続き重要な役割を担うことができる。ただし、米国のエンティティリストに追加されたファーウェイSMICとの取引においては、輸出管理規制を厳格に遵守する必要がある。

出典・参考