中国の自動車大手、吉利汽車(ジーリー) (Geely) が、新たな自動運転AI技術「WAM (World Action Model)」を発表した。Li Auto(リ・オート) (Li Auto) やXPeng(シャオペン)汽車 (XPeng) といった新興EVメーカーも大規模モデルの開発を加速させており、高度運転支援システム (ADAS) を巡る競争が新たな段階に入った。
吉利が発表した新AIモデル「WAM」
吉利汽車(ジーリー)が発表した「WAM」は、自己修正と自己進化能力を持つ「世界行動モデル」と位置付けられる。このモデルは階層型設計を採用し、周囲環境の「理解」から「計画」「シミュレーション」「判断」「修正」までを完結させるフィードバックループを特徴とする。これにより、車両のインテリジェント機能が継続的に進化するという。
このAIモデルの訓練には、グループ傘下のボルボが蓄積した安全関連のビッグデータが活用されている。さらに、車両全体の各ドメインのパラメーターを融合し、インターネットエコシステムの要素も組み込むことで、より高度な判断能力の実現を目指す。中国メディアによると、この技術を搭載した同社の運転支援システム「G-ASD」は、走行、安全、駐車などの領域で明確な進化を遂げている。
大規模モデルが変える自動運転の未来
2025年以降、自動車の運転支援機能は、大規模言語モデル (LLM) などを活用する段階に入ると見られている。上海NIO(ニオ)汽車 (NIO) やLi Auto(リ・オート)は、視覚言語エージェント (VLA) の導入に積極的で、パラメータ数が40億を超える車載モデルの実装を目指している。主な狙いは、大規模モデルの言語理解能力を運転支援に応用し、より自然な対話型インターフェースを提供することだ。
しかし、現状では車載チップの計算能力やコストが制約となり、これらの先進技術がもたらす量産モデルでの効果は、まだ限定的との見方が業界では一般的だ。一方で、ファーウェイ技術 (ファーウェイ) などは、言語モデルを介さず、物理環境の認識から車両の動作出力までを単一の「ワールドモデル」で完結させるアプローチが最終的な解決策だと主張している。
各社の搭載状況と今後の展開
吉利の運転支援システム「G-ASD」の最新版は、OTA (Over-the-Air) アップデートを通じて、同社傘下のEVブランド「Zeekr (Zeekr(極氪))」や「Lynk & Co (領克)」の多くの車種に順次導入されている。
具体的には、Zeekrブランドでは「001」「009」「007」などに、Lynk & Coブランドでは「09 EM-P」や新型「07 EM-P」、新型「08 EM-P」といったモデルに搭載が進んでいる。各社がソフトウェア主導で車両の付加価値を高める開発競争は、今後さらに激化する見通しだ。
日本市場への影響
吉利汽車が発表した自動運転AI「WAM」は、ボルボの安全関連ビッグデータを活用し、自社EVブランドZeekrやLynk & CoへのOTAアップデートを通じて展開される。これは、日本企業にとって、中国市場における競争環境の激化を意味する。
第一に、トヨタやホンダといった日本の自動車メーカーは、中国EV市場でソフトウェア定義型車両(SDV)への対応が急務となる。吉利が「パラメータ数が40億を超える」車載モデルの実装を目指すLi AutoやXPengと競合するように、中国勢はAIとビッグデータを活用した高度運転支援システム(ADAS)で先行している。日本企業が従来のハードウェア優位性のみに固執すれば、中国市場でのシェア喪失リスクは高まる。
第二に、日本の部品サプライヤーは、中国EVメーカーの技術動向に合わせた戦略転換が求められる。例えば、ルネサスエレクトロニクスやデンソーは、車載AIチップやセンサー技術で中国勢との連携を模索するか、あるいはソフトウェア開発能力を強化し、中国市場のニーズに合致したソリューションを提供する必要がある。吉利の「WAM」が示すように、中国では「世界行動モデル」のような統合型AIが主流になりつつあり、個別の部品供給だけでは競争力を維持しにくくなる。
第三に、日本企業は中国EVメーカーとの提携機会を探るべきである。中国勢のAI技術や迅速な開発サイクルは、日本の自動車メーカーにとって、自社のSDV開発を加速させる潜在的なパートナーシップの源泉となり得る。特に、自動運転技術の標準化が進む中で、中国市場での協業は、グローバルな競争力強化に繋がる可能性がある。