2024年、中国の光半導体企業である老鷹半導体技術有限公司 (LaoYing Semiconductor) が、単波100GのVCSEL (垂直共振器面発光レーザー) チップの量産と出荷を開始した。これは中国国内では初の事例であり、これまで米半導体大手ブロードコムが3年間にわたり独占してきた市場に参入する動きとして、世界の注目を集めている。

100G VCSELチップ量産で米ブロードコムの独占市場に参入

VCSELは、AIデータセンターの高速光通信や自動運転向けのLiDAR (ライダー) など、次世代技術に不可欠な光半導体デバイスだ。特に100Gクラスの高速チップ市場は、2021年に量産を成功させた米ブロードコムがクラウド事業者やデータセンター向けに大量供給し、市場を独占してきた。

老鷹半導体による今回の量産開始は、この独占状態を崩す可能性を秘めており、世界の高速光通信チップ市場における競争を激化させるとみられる。同社の躍進は、半導体の国産化を推進する中国の国家戦略を象徴する事例でもある。

6インチ対応のIDM体制で開発から製造まで一貫

老鷹半導体の強みは、チップの設計から製造、販売までを自社で一貫して行うIDM (垂直統合型) モデルを採用している点にある。同社は浙江省諸曁市に拠点を置き、中国で初めて6インチウエハーによる高性能VCSELチップの全工程量産能力を持つ工場を稼働させた。

研究開発人員が全体の50% 以上を占める技術主導の企業であり、設計と製造の緊密な連携によって高性能チップの迅速な市場投入を可能にしている。このIDM体制が、米企業の牙城を崩す上での原動力となっている。

創業者・辺迪斐氏と巨額の資金調達

同社を率いるのは、創業者で会長 (会長職) を務める辺迪斐氏だ。同氏はモトローラ (中国) やLEDチップ大手の華燦光電 (HC Semitek) での要職を歴任した経歴を持つ。辺氏は同社の株式の約39%を保有し、経営の実権を握る中心人物である。

老鷹半導体は、国家系ファンドなどから大規模な資金調達にも成功している。新華社通信によると、2025年10月のB+ラウンドでは、一度に7億元 (約154億円) 超の資金を調達した。これは中国のVCSEL分野における単一ラウンドの資金調達額として過去最大規模であり、国家的な期待の高さを示している。

日本市場への影響

老鷹半導体による100G VCSELチップの量産開始は、日本企業にとって複数の影響をもたらす。まず、AIデータセンター向け光通信部品市場における競争激化は避けられない。これまで米ブロードコムが独占してきた市場に中国企業が参入することで、価格競争が激化し、日本の光部品メーカーは収益性の圧迫に直面する可能性がある。特に、富士通やNECといった通信機器メーカーは、部品調達先の多様化とコスト削減の機会を得る一方で、自社製光部品の競争力維持が課題となる。

次に、自動運転向けLiDAR市場への影響である。老鷹半導体がVCSEL技術をLiDARに転用する可能性は高く、日本企業が強みを持つ車載LiDAR分野への中国勢の本格参入を意味する。例えば、パイオニアやデンソーといったLiDAR関連技術を持つ企業は、中国市場での新たな競合出現に備える必要がある。特に、老鷹半導体が研究開発人員の50%以上を占める技術主導型企業であること、さらに7億元超(約154億円)の巨額資金を調達している点は、その技術開発力と市場投入のスピードが極めて速いことを示唆しており、日本企業は製品開発サイクルの加速が求められる。

最後に、サプライチェーンのリスク分散と機会創出である。中国企業が先端VCSELチップの量産能力を持つことで、日本の通信機器メーカーや自動車部品メーカーは、米中間の地政学的リスクが高まる中で、ブロードコム一辺倒ではない新たな調達先を確保できる可能性が出てくる。これは、サプライチェーンの安定化に寄与する一方で、中国製部品の品質や安定供給に関する評価を慎重に行う必要がある。