中国が掲げる「貿易の質の高い発展」は、単なる経済政策の転換ではない。米国の先端半導体規制に対抗し、技術的自立を達成するための国家戦略そのものである。その核心は、半導体の設計から製造、材料に至る供給網の国産化だ。2022年の米国の厳格な輸出管理を受け、中国は製造装置や先端材料の内製化を国策として加速させている。中国政府が非公式に目標としてきた2025年までの自給率70%は現実的でないものの、IC Insightsの分析では30%前後への引き上げは視野に入る。この巨大な構造転換は、世界の半導体製造装置や材料市場で圧倒的な占有率を誇る日本企業に対し、規制の網をかいくぐる新たな商機と、技術代替という長期的な脅威を同時に突きつけている。

「双循環」が狙う半導体供給網の内製化

習近平政権が提唱する「双循環」経済戦略は、国内の巨大市場を経済成長の主軸とし(国内大循環)、国際経済との連携を従とする(国際循環)方針を示す。この理念が最も先鋭的に適用される分野が半導体である。中国海関総署の2023年統計によれば、同年の集積回路輸入額は3494億ドルに達し、依然として最大の輸入項目であり続けている。これは、先端技術における対外依存という国家的な脆弱性を浮き彫りにする数字だ。2022年10月に米国商務省産業安全保障局(BIS)が発表した包括的な対中半導体輸出規制は、この脆弱性を突き、中国の技術的発展を直接的に抑制する狙いがあった。具体的には、14ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以下のロジック半導体や128層以上のNAND型フラッシュメモリーを製造可能な米国製装置・技術の輸出を事実上禁止した。この規制強化が、中国指導部に供給網の内製化、すなわち「質の高い発展」を掛け声とした技術的鎖国とも言える動きを決定づけたと見られる。日本の関連産業にとって、これは対岸の火事ではない。シリコンウエハーで信越化学工業とSUMCOが世界市場の約6割、半導体製造に不可欠な感光材フォトレジストではJSRや東京応化工業などがEUV(極端紫外線)向けで9割以上の占有率を握るなど、日本の素材・装置メーカーは供給網の根幹を担っているからだ。

なぜ成熟世代の半導体装置が活況なのか?

米国の規制が先端プロセスに集中した結果、中国では逆説的に成熟・旧世代(28nm以上)の半導体製造能力を増強する動きが加速している。先端品の製造が困難になった中国の半導体受託製造(ファウンドリー)やメモリーメーカーは、電力制御、自動車、産業機器向けなど、依然として需要が旺盛な成熟世代の半導体に巨額の設備投資を振り向けている。国際的な半導体製造装置・材料の業界団体であるSEMIが2023年12月に公表した予測では、中国は2024年に半導体製造装置の販売額で世界最大の市場となり、その額は300億ドルを超えるとされる。この投資の大半が、28nm以上のプロセス技術を対象としたものだ。この状況は、日本の装置メーカーにとって短期的な追い風となっている。東京エレクトロンやSCREENホールディングス、ディスコといった企業は、成熟世代向けの露光装置、洗浄装置、研削装置で高い競争力を持つ。財務省の貿易統計を見ても、2023年における日本の対中半導体製造装置輸出額は、米国の規制強化にもかかわらず堅調を維持した。しかし、この活況には二つの大きなリスクが伴う。一つは、中国での成熟半導体の過剰生産による世界的な価格下落圧力だ。二つ目は、米国が規制対象を28nm世代にまで拡大する可能性である。米商務省はすでに、中国の成熟半導体供給網に関する調査を開始しており、国家安全保障上の脅威と判断されれば、追加規制に踏み切る公算は大きい。

SMICの7nm開発と国産化装置の現在地

中国の半導体国産化の象徴的存在が、国内最大のファウンドリーである中芯国際集成電路製造SMIC)だ。同社は、米国の規制によってオランダASML製の最先端EUV露光装置の輸入が絶たれている。にもかかわらず、既存のDUV(深紫外線)露光装置を改良し、多重露光技術を駆使することで7nm相当のプロセスを開発したとされる。この技術は、液浸DUV装置(例えばASML製「TWINSCAN NXT:2000i」など)を用い、回路パターンを複数回に分けて転写する「自己整合型ダブルパターニング(SADP)」などを応用したものと推測される。これはかつてTSMCが7nmプロセスの初期段階で採用した手法だが、工程数が大幅に増加し、製造コストと歩留まり(良品率)の悪化を招くため、EUV技術に対する競争力は低い。それでもなお、中国国内の特定用途向けに供給を開始した事実は、米国の規制下でも技術的活路を見出そうとする執念の表れだ。一方、国産装置メーカーの育成も急ピッチで進む。北方華創科技集団(Naura Technology Group)はエッチング装置や成膜装置、中微半導体設備(AMEC)はエッチング装置で技術力を高め、一部は国内の半導体工場で採用され始めている。しかし、これらの装置に使われる真空ポンプ、高周波電源、精密バルブといった基幹部品の多くは、依然として日本や欧州からの輸入に依存しており、供給網全体での自立には程遠いのが実情である。

日本の材料メーカーを襲う「代替」と「模倣」の波

製造装置と並行し、中国政府が国家的な総力を挙げて推進しているのが半導体材料の国産化だ。フォトレジスト、高純度フッ化水素、CMP(化学的機械的研磨)スラリー、シリコンウエハーといった、これまで日本企業が牙城を築いてきた分野がその主たる標的となっている。例えば、半導体回路の原版となるフォトマスクの材料である石英ガラス基板では信越石英や東ソーが、ウエハー上に回路を形成するフォトレジストではJSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムが世界市場を寡占する。特に、最先端のEUVリソグラフィーに用いるフォトレジストは、日本の数社で世界市場の9割以上を供給する戦略的物資だ。中国はこれらの分野で、巨額の補助金と政府系ファンドによる投資を通じて国内企業を育成している。江蘇南大光電材料(Nantah)はArF(フッ化アルゴン)液浸リソグラフィー用フォトレジストの量産を、上海新昇半導体科技(Zing Semiconductor)は300mmシリコンウエハーの増産を計画する。SEMIの分析によれば、中国の半導体材料市場は2025年までに200億ドル規模に成長する見込みだが、国産化率は依然として20%未満にとどまる。この差分を埋めるべく、中国企業による技術者の引き抜きや、リバースエンジニアリングを通じた模倣が活発化している。2019年に日本政府が実施した韓国向けフッ化水素などの輸出管理強化が、結果として韓国国内での材料内製化を促した前例は、日本企業にとって重い教訓となるはずだ。

日本企業が直面する選択

中国の半導体国産化戦略は、日本の関連企業に複雑な選択を迫っている。短期的には、米国の規制が及ばない成熟世代向けの装置や、汎用材料の輸出は拡大が見込める。中国の巨大な内製化投資は、当面の間、日本のサプライヤーにとって魅力的な市場であり続けるだろう。しかし、その蜜月は長く続かない可能性が高い。中国が目指すのは、あくまで「脱日本依存」である。今日の発注は明日の競合を育てる投資となりかねない。日本企業は、中国市場との関与を維持しつつも、三つの戦略的対応を同時に進める必要がある。第一に、技術的優位性の維持・拡大だ。EUV関連材料や次世代のパワー半導体材料(SiC、GaN)、3D実装技術など、模倣が困難な先端領域への研究開発投資を加速させることが不可欠である。第二に、供給網の多元化だ。インドや東南アジア、米国での半導体工場新設の動きに合わせ、生産・供給拠点を地政学的リスクの低い地域へ分散させることが急務となる。経済産業省が主導するRapidus(ラピダス)の次世代半導体国産化プロジェクトも、国内に先端技術の生態系を維持する上で重要な試金石となる。第三に、経済安全保障の観点からの輸出管理の精緻化である。軍事転用リスクのある汎用技術が意図せず流出することを防ぐため、政府と企業は連携し、国際的な枠組みと協調しながら、より実効性のある管理体制を構築する必要がある。中国の技術的挑戦は、日本が自らの立ち位置を再定義し、次なる成長分野へ舵を切るための警鐘と捉えるべきだろう。