中国の謝峰駐米大使が米経済界に呼びかけた協調姿勢の裏で、同国の技術戦略が新たな局面に入ろうとしている。2026年から始まる「第15次5カ年計画」の策定作業が本格化するなか、その核心は半導体の国内供給能力の抜本的な向上にある。米国による先端技術への制裁強化に対し、中国はEUV(極端紫外線)露光装置に依存しない独自の技術経路を確立し、2030年までに国内需要の70%を国産半導体で満たすという野心的な目標を維持する構えだ。この動きは、世界の半導体供給網で枢要な地位を占める日本の製造装置・素材メーカーに、事業戦略の再考を迫るものとなる。
第14次計画の到達点と残された課題
現行の「第14次5カ年計画」(2021〜2025年)は、半導体国産化を国家の最重要課題と位置づけた。この期間、中国は巨額の国家資金を投じ、上海集成電路産業投資基金(通称「大基金」)などを通じて国内の半導体製造企業を支援。その結果、中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)などが一定の技術水準を達成した。しかし、国産化率は依然として目標に遠い。米ボストン・コンサルティング・グループの2021年4月の報告書によれば、中国の半導体自給率は当時16%程度に留まり、2025年の目標である70%(2015年時点の目標値)の達成は困難視されている。特に、演算処理を担う論理半導体では自給率が5%未満と、海外依存の構造は変わっていない。この乖離の最大の原因は、2022年10月に米国が発動した包括的な輸出規制である。これにより、オランダASML製のEUV露光装置の輸入が完全に途絶。7ナノメートル(nm)以下の最先端プロセスの開発が公式には停滞を余儀なくされた。第15次計画は、この制裁下でいかに技術的活路を見いだすかという、極めて困難な問いへの回答となる。
なぜEUVなき7nm製造が現実味を帯びるのか
米国の規制は最先端のEUV技術に集中しているが、中国は一つ前の世代のDUV(深紫外線)液浸露光技術を駆使して微細化の限界に挑んでいる。DUV液浸露光で用いられるArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーの波長は193nmであり、本来は38nm程度の解像度が限界とされる。しかし、「マルチプル・パターニング」と呼ばれる回路パターンを複数回重ねて焼き付ける技術を組み合わせることで、理論上は7nm、さらには5nmプロセスまで実現可能とされる。SMICは、既存のDUV露光装置を用いて、すでに7nm世代の半導体を限定的に生産していると見られる。これは、回路パターンを自己整合的に形成するSADP(Self-Aligned Double Patterning)やSAQP(Self-Aligned Quadruple Patterning)といった高度な工程技術に依存する。この手法は、EUVを用いる場合に比べて工程数が1.5倍から2倍に増え、製造費用と時間が増大する欠点を持つ。台湾の調査会社TrendForceが2024年3月に公表した分析では、SMICの7nmプロセスは台湾積体電路製造(TSMC)の同世代プロセスに比べ、費用が40〜50%高いと試算されている。しかし、国家の安全保障を優先する中国政府にとって、費用は二の次であり、技術的な自立こそが至上命令である。第15次計画では、このDUV活用路線をさらに推し進め、量産安定性を高めるための研究開発に資源が重点配分される見通しだ。
「新質生産力」が示す次なる重点領域
2024年3月の全国人民代表大会で提起された「新質生産力(新たな質の生産力)」という概念は、第15次計画の方向性を読み解く鍵となる。これは、従来の労働集約型・資本集約型の成長モデルから脱却し、技術革新を核とした生産性の向上を目指す方針を示す。半導体分野では、3つの領域が重点になると見られる。第一は、先端パッケージング技術だ。異なる機能を持つ複数の半導体チップ(チップレット)を高密度に実装する「Chiplet」技術は、単一チップの微細化の限界を補う代替策として注目される。中国の長電科技(JCET)や通富微電子(TFME)は、この分野で世界有数の技術力を持ち、米国の規制対象外である後工程で競争力を確保する戦略を描く。第二は、オープンソースの命令セット設計であるRISC-Vの推進だ。英国アーム社の設計に依存する現状からの脱却を目指し、国内企業がRISC-Vに基づく独自のCPU開発を加速させている。第三は、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を材料とする次世代パワー半導体である。電気自動車(EV)や再生可能エネルギー関連設備に不可欠なこれらの半導体は、米国の規制が比較的緩やかで、中国が世界市場で主導権を握る可能性がある領域だ。中国汽車工業協会の2024年1月の発表によると、2023年の中国国内のEV販売台数は前年比37.9%増の949万5000台に達しており、パワー半導体の巨大な国内市場が技術開発を後押ししている。
成熟工程での膨張と日本の装置産業
米国の規制が先端分野に集中する一方、28nm以上の成熟・旧世代(レガシー)工程では、中国の半導体生産能力が急速に拡大している。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が2024年3月に発表した予測によれば、中国は2024年から2026年にかけて、世界で建設される半導体工場の約半数を占める見込みだ。これにより、世界の28nm以上の製造能力に占める中国のシェアは、2023年の31%から2027年には39%に達するとされる。この膨張を支えているのが、日本の半導体製造装置メーカーである。財務省の貿易統計によれば、2023年の日本の半導体製造装置の対中輸出額は、前年比で約15%増加し、過去最高を記録した。特に、東京エレクトロンの塗布・現像装置(コータ・デベロッパ)やSCREENホールディングスの洗浄装置、ディスコの切断・研削装置(ダイサ・グラインダ)などは、成熟工程において世界的に高い市場占有率を誇り、米国の規制対象外であるため輸出が続いている。中国がDUV多重露光やチップレット技術で先端領域を追い上げる一方、成熟工程では日本製の装置を大量に導入して生産能力を増強するという二正面作戦を展開しているのが実態だ。この状況は、日本の装置メーカーに短期的な収益機会をもたらすが、長期的には中国の半導体産業を利し、米国の安全保障政策との間で難しい舵取りを迫られるリスクを内包する。
日本企業が直面する選択
中国の第15次5カ年計画が具体化するにつれ、日本の半導体関連企業は、地政学的な「踏み絵」を迫られる局面が増えるだろう。シリコンウエハーで世界首位の信越化学工業や2位のSUMCO、EUV用フォトレジスト(感光材)で世界市場をほぼ独占するJSRや東京応化工業といった素材メーカーは、中国が巨大な顧客であると同時に、米国の規制強化の潜在的な対象でもある。2019年に日本政府が実施した韓国向けフッ化水素などの輸出管理厳格化は、特定国への素材供給が外交上の手段となり得ることを示した。米国が対中規制をさらに強化し、日本の素材・装置メーカーに同調を求めた場合、企業は巨大市場へのアクセスと、日米同盟を基軸とする西側供給網への参画という二者択一を迫られかねない。一方で、経済産業省の支援で設立されたRapidus(ラピダス)が目指す2nm以下の次世代半導体の国内生産プロジェクトは、日本の技術力を国内に再結集させる動きでもある。日本の素材・装置メーカーにとって、中国市場での事業継続と、Rapidusを核とする国内エコシステムへの貢献のバランスをどう取るかは、今後5年間の経営を左右する最重要課題となる。中国の技術的挑戦は、回り道を経て、日本の産業構造そのものに変革を突きつけている。その選択は、一企業の利益を超え、国家の技術的立ち位置を決定づける重みを持つことになるだろう。
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