中国商務省は2026年5月2日、米国による中国企業5社への制裁に対し、国内法に基づく初の「ブロッキング命令」を発動した。米国の制裁措置を「承認せず、執行せず、遵守しない」よう命じるもので、米国の「ロングアーム管轄権(法の域外適用)」に対抗する強力な法的手段を初めて行使した。米中間の経済摩擦が、法的な応酬という新たな段階に入ったことを示している。
ブロッキング法、施行後初の適用
中国商務省が発表した公告は、米国がイラン産原油の取引を理由に中国企業5社に科した制裁措置を対象とするものだ。この命令の核心は、中国国内のいかなる組織や個人も、当該の米国制裁を認め、それに従うことを禁じる点にある。新華社通信によると、米国の制裁に従って中国企業の合法的権益を損なった場合、中国の裁判所で損害賠償請求の対象となる可能性も示唆している。
今回の措置は、2021年1月に施行された『外国の法律・措置の不当な域外適用を阻止する規則』(通によると「ブロッキング法」)に基づく初の発動となる。これまで米国による一方的な圧力に対し、中国は報復関税などで対抗してきたが、今回は米国の制裁そのものの法的効力を国内で否定するという、より直接的な対抗策に踏み切った。
制裁対象の拡大が引き金か
中国が5年以上も行使してこなかったブロッキング法を発動した背景には、米国の制裁対象の変化があるとみられる。米国はこれまで、イラン産原油を扱う「ティーポット」と呼ばれる中国の小規模な独立系製油所を主な標的としてきた。しかし、2026年4月24日、制裁対象を中国の民営石油化学大手である恒力集団(Hengli Group)にまで拡大した。
恒力集団は中国の産業チェーンで重要な位置を占める大企業であり、この制裁は中国側が「対応せざるを得ない一線」を越えたと判断した模様だ。さらに米財務省は金融機関に対し、中国の独立系製油所との取引に関する監視強化を警告したするなど、二次的制裁(セカンダリー・サンクション)のリスクもちらつかせていた。
米イラン対立と外交的駆け引き
今回の措置は、米イラン間の緊張激化という国際情勢とも密接に関連する。米国は直接的な軍事行動が制約される中、金融・石油制裁を強化してイランへの圧力を維持しようとしている。そのためには、イラン産原油の主な買い手である中国への圧力が不可欠となる。
また、今回の制裁はトランプ大統領の訪中計画が報じられる直前に発表されており、交渉を有利に進めるための揺さぶりだとの見方も強い。これに対し中国は、ブロッキング命令を発動することで、一方的な制裁を既成事実化させ交渉の前提とすることを断固として拒否する姿勢を明確にした。米国の制裁がもたらすリスクを、制裁に従う第三国の事業者にも負わせることで、その実効性を内側から切り崩す狙いがある。
制裁措置を対象とする中国企業5社
5社の中国企業は以下の通りです(すべて石油精製・関連企業で、イラン産原油取引への関与を理由とした米制裁対象)。
- 恒力石化(大連)煉化有限公司(Hengli Petrochemical (Dalian) Refining Co., Ltd.)
- 山東寿光魯清石化有限公司(Shandong Shouguang Luqing Petrochemical Co., Ltd.)
- 山東金誠石化集団有限公司(Shandong Jincheng Petrochemical Group Co., Ltd.)
- 河北鑫海化工集団有限公司(Hebei Xinhai Chemical Group Co., Ltd. / 河北新海とも表記)
- 山東勝星化工有限公司(Shandong Shengxing Chemical Co., Ltd. / 山東盛興とも表記)
中国商務省の2026年5月2日付公告(第21号)で、これら5社に対する米国のSDN指定・資産凍結・取引禁止などの制裁措置を「承認せず、執行せず、遵守しない」よう命じる初のブロッキング命令(阻断禁令)を発動しました。これは米国の「ロングアーム管轄権」への対抗措置として、国内法に基づくものです。
地味に見えてかなり大きいニュースで、金融市場目線では「ドル制裁の実効性 vs 中国の法的対抗」 という新しい局面に入った点が重要ですね。特にイラン原油、人民元決済、BRICS決済網、そして中東物流保険市場にも波及する可能性があります。
日本にとっての意味
今回の中国による初のブロッキング命令発動は、日本企業にとって新たなリスクと機会をもたらす。まず、恒力集団のような中国の主要企業が米国の制裁対象となり、中国がこれに法的対抗措置を講じたことで、日本企業は米中双方の法規制板挟みになる可能性が高まる。特に、中国の「ブロッキング法」が、米国の制裁に従って中国企業の合法的権益を損なった場合、中国の裁判所で損害賠償請求の対象となる可能性を示唆している点は看過できない。例えば、恒力石化(大連)煉化有限公司など、イラン産原油に関わる中国企業と取引のある日本の商社や金融機関は、米国制裁遵守と中国法遵守のジレンマに直面し、法的リスクが増大する。
一方で、今回の措置は、日本企業が中国市場での競争優位性を確立する機会も提供する。米国制裁の対象となった中国企業が、米国由来の技術や部品へのアクセスを制限される場合、日本企業が代替サプライヤーとして浮上する可能性がある。特に、半導体製造装置や高機能素材など、中国が自給自足を目指す分野において、日本の技術力は依然として高く評価されており、新たなビジネスチャンスが生まれるだろう。ただし、この機会を捉えるには、米国政府からの二次的制裁リスクを慎重に評価し、サプライチェーンの多角化やリスクヘッジ戦略を徹底する必要がある。
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