中国最大のDRAMメーカー、長鑫存儲科学技術 (ChangXin Memory Technologies, CXMT) が上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板 (スターマーケット)」への上場を申請した。人工知能 (AI) ブームが引き起こした世界的なメモリー価格の高騰を追い風に、2025年の赤字から2026年第1四半期には約250億人民元 (約5370億円) の純利益を計上する劇的な転換を遂げた。今回のIPOでは半導体受託製造 (ファウンドリー) 最大手SMICに次ぐ規模となる295億元 (約6340億円) の調達を目指すが、サムスン電子など世界3強が支配する市場で、中国の「国家チャンピオン」は真の競争力を確立できるか、その構造的課題が問われている。

AIブームが追い風、赤字から巨額黒字への転換

CXMTが科創板に提示したした目論見書は、事業環境の急変を浮き彫りにした。2025年1月から9月までの期間には59.8億元 (約1280億円) の純損失を計上していたが、2026年第1四半期には約250億元 (約5370億円) という純利益を計上した。この背景には、AIサーバーの爆発的な増加に伴うDRAMおよびNAND型フラッシュメモリーの価格急騰がある。

市場の追い風を受け、CXMTは今回のIPOで295億元 (約6340億円) の資金調達を目指す。これは科創板の歴史において、2020年に上場したSMICの532億元に次ぐ規模となる。目論見書によると、調達資金は既存のウエハー製造ラインの技術改良 (75億元)、次世代DRAM技術の高度化 (130億元)、そして将来の先端技術研究開発 (90億元) に充当される計画だ。市場では、同社のIPO後の時価総額が2950億元 (約6.3兆円) 規模に達するとの観測も出ている。

「合肥モデル」の成功、国家資本と起業家精神の融合

CXMTの成長は、中国特有の国家主導による産業育成モデルを象徴している。創業者の朱一明氏は、清華大学卒業後に渡米し、帰国後の2005年にNORフラッシュメモリーを手掛けるギガデバイス (GigaDevice) を創業した人物だ。同社を上海市場に上場させた後、朱氏はより資本集約的で技術障壁の高いDRAMの国産化に着手した。

この構想を現実のものとしたのが、安徽省合肥市政府の存在だ。合肥市は長年、「以投带産 (投資による産業誘致)」戦略を推進。政府系投資ファンドが工場建設などの重資産投資のリスクを負担し、朱氏のような起業家チームが技術開発と経営に専念する枠組みを提供した。CXMTの株主構成は、政府系ファンドが大きな割合を占めており、「国が舞台を整え、民間の起業家が主役を演じる」という中国の半導体国産化戦略の典型例となっている。

技術格差と米規制という二重の壁

CXMTの劇的な黒字転換は、マクロ環境の追い風に強く依存している側面がある。調査会社業界調査機関の分析では、2026年第1四半期のDRAM契約価格は、前期比で最大98%という記録的な上昇を示した。これは、NVIDIAのGPUなどを搭載したAIサーバーが、従来のサーバーに比べて3〜8倍のDRAM容量を必要とすることが主な要因だ。

特に、AIの学習・推論に不可欠なHBM (広帯域メモリー) の需要が急増し、その生産ラインが通常のDRAMの生産能力を圧迫した結果、汎用DRAMの供給が逼迫し、価格全体を押し上げた。CXMTの現在の主力製品は汎用DRAMであり、HBM市場への本格参入はこれからだ。つまり、同社の現在の高収益は、市場全体の供給不足による間接的な恩恵の側面が強い。この追い風が止んだ時、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジーの世界3強との真の技術力とコスト競争力が問われることになる。最先端の半導体製造に不可欠なEUV (極端紫外線) 露光装置へのアクセスを米国の輸出規制によって絶たれている点も、技術格差を埋める上での根本的な制約となっている。

日本にとっての意味

中国最大のDRAMメーカー、長鑫存儲科学技術 (ChangXin Memory Technologies, CXMT) が上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板 (スターマーケット)」への上場を申請したことは、日本の半導体業界にも大きな影響を与える。CXMTは、人工知能 (AI) ブームが引き起こした世界的なメモリー価格の高騰を追い風に、2025年の赤字から2026年第1四半期には約250億人民元 (約5370億円) の純利益を計上する劇的な転換を遂げた。この上場申請では、半導体受託製造 (ファウンドリー) 最大手SMICに次ぐ規模となる295億元 (約6340億円) の調達を目指す。

日本企業にとって、CXMTの成長は中国の半導体産業の躍進を象徴しており、競争環境の変化を警戒する必要がある。特に、AIサーバーの爆発的な増加に伴うDRAMおよびNAND型フラッシュメモリーの価格急騰は、日本の半導体メーカーにも波及効果を与える可能性がある。また、CXMTの技術改良と次世代DRAM技術の高度化への投資計画は、日本企業の技術開発戦略にも影響を与える。

さらに、CXMTの株主構成は、政府系ファンドが大きな割合を占めており、「国が舞台を整え、民間の起業家が主役を演じる」という中国の半導体国産化戦略の典型例となっている。この構造は、日本企業が中国市場で競争する上で、政府の支援を受けた中国企業との競争力を考慮する必要性を示唆している。サムスン電子やNVIDIAなどの世界的な半導体大手との技術格差と、米国の規制がCXMTに課す課題も、日本企業のグローバル戦略に影響を与える要因となる。