中国のテクノロジー大手シャオミ(Xiaomi)が、最新の人型ロボット「CyberOne V2」を投資家向けイベントで公開し、世界のロボット業界で注目を集めている。身長178cm、体重52kgの同機は、来場者とのハイタッチや贈り物の受け渡しといった緻密な動作を実演。これは、同社のロボット開発が研究段階から実用段階へ移行したことを示唆している。シャオミは2026年後半までに、1台あたり15万〜20万人民元(約300万〜400万円)での量産を目指す計画だ。

なぜ今、重要か

人型ロボット市場は、次世代の巨大市場として期待されている。調査会社Goldman Sachsの予測によると、同市場は2035年までに年間1,540億ドル規模に達する可能性がある。こうした中、シャオミが具体的な価格目標と量産計画を掲げたことは、テスラの「Optimus」やFigure AIの「Figure 01」などが競う市場の競争を一層激化させるものだ。

今回の発表は、AIが物理世界と相互作用する「エンボディドAI(身体性AI)」が、単なるコンセプトから実用製品へと移行する重要なマイルストーンと位置づけられる。中国政府が推進する「ロボット+応用行動計画」の後押しもあり、シャオミの動きは、国家戦略としてロボット産業の覇権を目指す中国の野心を示すものとも言える。

生体模倣(バイオミメティクス)技術で実現する「器用な手」

CyberOne V2で特に注目されるのは、その精巧な「手」だ。最大27自由度(DoF)を持つ指は、ネジ締めやナットの取り付けといった精密作業をこなす能力を持つ。さらに、人間の汗腺を模倣した微細な流体制御機能を搭載。これにより、指先の摩擦係数を動的に調整し、触れた物体の温度を感知できる。この技術によって、羽毛や風船のような壊れやすい物体も繊細に扱うことが可能だという。

従来の産業用ロボットが特定の作業に特化していたのに対し、CyberOne V2の汎用性の高い手は、家庭内での支援から工場の複雑な組み立て作業まで、幅広い応用が期待される。シャオミは、この「手の進化」こそが、ロボットを単なる機械から「人類のパートナー」へと進化させる鍵だと位置づけている。

テスラ「Optimus」との熾烈な開発競争

業界では、テスラの「Optimus」とCyberOne V2の設計思想や開発アプローチの類似性が指摘されている。テスラのイーロン・マスクCEOは、競合による模倣を警戒し、アクチュエータなどの基幹部品の情報を非公開にする戦略をとってきた。しかし、シャオミがテスラに匹敵する速度で精巧な「手」を開発したことは、中国のサプライチェーンがテスラの技術を猛追している現状を示唆していると、中国のテクノロジーメディア「36Kr」は分析している。

テスラのOptimus(身長173cm、体重57kg、DoF 28)に対し、CyberOne V2はより軽量な設計(体重52kg)で同等の自由度を実現しようとしている。開発速度とコスト競争力で勝る中国企業が、人型ロボット市場でも主導権を握る可能性が出てきた。

技術解説:エンボディドAIと感情認識の融合

CyberOne V2の核心は、ハードウェアとソフトウェアの高度な統合にある。特に「マニピュレーション」「制御」「製造コスト」の3点で、その技術的進歩は顕著だ。

  1. マニピュレーション(操作能力): 最大27自由度を誇る手は、指先に搭載された複数のセンサー(圧力、温度)からの情報をリアルタイムで処理する。これにより、デモンストレーションで見せたような精密な作業が可能となる。ペイロード(可搬重量)は公表されていないが、数kg程度の物体を安定して扱えるとみられる。
  1. 制御: 独自開発の感情認識AIモデルが、CyberOne V2の頭脳として機能する。このモデルは、大規模言語モデル(LLM)と連携し、人間の表情や声のトーンから45種類の人間感情を識別。さらに、85種類の環境音を認識し、状況に応じた自然な対話や行動を生成する。これは「マルチモーダル行動生成モデル」と呼ばれ、単なる命令実行だけでなく、相手の感情に配慮したコミュニケーションを可能にする。
  1. 製造コスト: シャオミは、2026年までに1台300万円台という目標を掲げる。これを実現するため、スマートフォンやEV「SU7」で培ったサプライチェーン管理能力を最大限に活用する。モーターやセンサーといった基幹部品の内製化を進め、規模の経済を働かせることで、劇的なコストダウンを狙う戦略だ。

日本市場への影響

シャオミのCyberOne V2は、日本企業にとって機会と脅威の両面を提示する。まず、同機が「22から27の自由度(DoF)」を持つ手でネジ締めやナット取り付けをこなし、さらに「羽毛や風船のような壊れやすい物体」をも繊細に扱える点は、日本の製造業における精密組立や検査工程の自動化を加速させる可能性を秘める。特に、人手不足が深刻化する中小企業にとって、300万円台というシャオミの量産目標価格は、導入障壁の低い選択肢となり得る。

一方で、シャオミが感情認識AIで「85種類の環境音と45種類の人間感情」を識別し、介護や接客分野での実用化を目指す点は、日本が強みを持つサービスロボット分野への直接的な脅威となる。日本の介護現場では、人型ロボットの導入が期待されているが、CyberOne V2のような高度な感情認識能力を持つ安価なロボットが普及すれば、日本企業の市場シェアを奪う可能性がある。

さらに、シャオミがテスラ「Optimus」に匹敵する速度で精巧な「手」を開発したことは、中国のサプライチェーンが日本の精密部品メーカーやロボット技術企業にとって、単なる顧客ではなく、強力な競合相手になりつつあることを示唆する。日本企業は、シャオミの急速な技術進化とコスト競争力に対し、独自の高付加価値技術やニッチ市場での優位性を再構築する必要に迫られるだろう。

出典・参考