中国の大手資産運用会社、富国基金管理(Fullgoal Fund Management)が設定したデジタル経済特化型の投資信託。その動きは、米国の厳格な半導体輸出規制下で、中国がいかにして人工知能(AI)開発の血脈たる資金と技術を国内で循環させようとしているかを映し出す。高性能な米国製半導体への経路が事実上閉ざされる中、政府系基金が川上の製造装置や素材を支援し、民間投信が川下の応用技術や国産半導体設計企業を支える。この国内分業体制は、単なる投資活動を超え、技術的な自給自足を目指す国家戦略の一環としての性格を帯び始めている。日本の半導体関連産業にとっても、短期的な商機と中長期的な競争構造の変化を示唆する重要な転換点と言える。

富国基金の狙い、「デジタル」から「技術安全」へ

富国基金が1月26日に設定した「デジタル経済混合型証券投資基金」は、名目上、AIを中核とするデジタル経済全般を投資対象とする。しかし、その実質的な投資先の選別基準は、数年前の成長市場への期待とは様相を異にする。ファンドマネージャーの羅擎氏が掲げるポートフォリオは、米国の輸出規制強化という地政学的な現実を色濃く反映したものと見られる。

背景にあるのは、中国AI企業が直面する深刻な計算資源の不足だ。米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月に発表し、2023年10月に更新した輸出管理規則(EAR)は、NVIDIA製の高性能画像処理半導体(GPU)「A100」や「H100」の中国向け輸出を禁止した。これらは大規模言語モデル(LLM)の学習に不可欠な基盤であり、中国向けに性能を落とした「A800」「H800」も追加規制の対象となった。台湾の市場調査会社TrendForceが2023年12月に公表した調査によれば、この規制により中国の主要クラウド事業者が保有する高性能AI半導体のうち、NVIDIA製品の割合は2024年末までに8割を下回る可能性がある。これは、AIサービスの性能と開発速度で世界水準から引き離されかねない危機感を国内で共有させた。

こうした状況下で、富国基金のような運用資産1兆元(約20兆円)を超える大手民間機関が「国産代替」を志向する企業群に資金を供給する役割は大きい。投資対象には、AI応用サービスだけでなく、米国の規制対象となった半導体を代替する製品を開発する国内の半導体設計会社や、その製造を担う国内の受託製造会社(ファウンドリー)が含まれる可能性が高い。これは、純粋な経済合理性だけでなく、国家の技術安全保障に貢献するという新たな付加価値を投資家に対して訴求する戦略でもある。

なぜ今、国内での資金循環が重要なのか?

米国による技術供給の制限が、中国国内の資金循環と技術開発の自立を促す最大の駆動力となっている。規制の核心は、単に完成品の半導体を禁輸するに留まらない。半導体を製造するための装置や素材、設計用ソフトウェア(EDA)にまで及ぶ、供給網の根源を断つ試みであるからだ。

具体的には、オランダのASML社が製造する、回路線幅7ナノメートル以下の微細加工に必須の極端紫外線(EUV)露光装置は、2019年以降、中国への輸出が許可されていない。さらに2023年からは、より旧世代の深紫外線(DUV)露光装置の一部機種についても、オランダ政府が輸出許可制を導入し、事実上の禁輸措置に踏み切った。これにより、中国最大の半導体受託製造会社である中芯国際集成電路製造SMIC)などが、国際的な先端製造プロセスから切り離される状況が確定した。SMICの2023年通期決算では、設備投資額が前年比17.8%増の74.7億ドルに達したが、その多くは規制対象外の旧世代装置の確保に充てられたとみられる。

この結果、中国のAI企業は二つの課題に直面する。一つは、NVIDIA製GPUの代替となる国産AI半導体を早急に確保すること。もう一つは、その国産半導体を安定的に製造できる国内供給網を確立することだ。海外のベンチャーキャピタルからの資金調達が難しくなる中、これらの難易度の高い技術開発を支えるには、国内の潤沢な資金をいかに効率的に振り向けるかが死活問題となる。富国基金のような民間投信は、市場の規律を働かせながら有望な技術を持つ企業を選別し、政府系の巨大基金が担う基盤技術開発と連携して、国内エコシステム全体に血液として資金を送り込む役割を期待されている。

国産AI半導体の実力と先端プロセスへの壁

米国からの供給が途絶える中で、資金の受け皿として期待されるのが中国の国産AI半導体だ。壁仞科技Biren Technology)や摩爾線程(Moore Threads)といった新興企業が、NVIDIA製品の代替を目指して開発を急いでいる。例えば、壁仞科技が2022年に発表した「BR100」は、台湾積体電路製造(TSMC)の7ナノメートル製造技術を用い、理論上の演算性能ではNVIDIAの旧世代品「A100」を上回るとされた。しかし、米国の規制強化により、これらの新興企業もTSMCのような海外の先端ファウンドリーを利用することが困難になった。

現在、国産AI半導体の製造で期待を寄せられているのがSMICである。同社はDUV露光装置を駆使し、7ナノメートル相当とされる「N+2」プロセスでの量産能力を確立したと報じられている。2023年に発売された華為技術(ファーウェイ)の新型スマートフォンのプロセッサーがこの技術で製造されたと分析されており、一定の技術水準に達したことを示した。ただし、このプロセスにはいくつかの制約が残る。米TechInsightsの分解調査報告(2023年9月)によれば、歩留まり(良品率)は依然として低く、製造コストが高いと推測される。また、複数の露光を重ねる「マルチパターニング」技術を多用するため、回路の集積度や電力効率では、EUV露光を用いるTSMCやサムスン電子の同世代プロセスに及ばないとされる。これは、国産AI半導体の性能が、消費電力や発熱量の面でNVIDIA製に劣る可能性を示唆する。

この技術的な隔たりを埋めるため、中国国内では次世代の露光技術や特殊な集積化技術「チップレット」の研究開発が加速している。異なるプロセスで製造した複数の半導体ダイを高密度に接続するチップレット技術は、歩留まりの低い先端プロセスへの依存を下げつつ、全体の性能を高める有力な手段と見なされている。こうした次世代技術への投資も、新たな国内ファンドの重要なテーマとなりつつある。

「国家隊」基金と民間投信の共振

富国基金のような民間投信の動きは、単独で存在するものではない。背後には、中国政府が主導する巨大な産業投資基金、通称「国家隊」の存在がある。特に「国家集成電路産業投資基金」(大基金)は、中国の半導体国産化戦略の中核を担ってきた。2014年設立の第1期(約1387億元)、2019年設立の第2期(約2041億元)は、半導体設計、製造、封止・検査といった供給網全体に大規模な投資を実行した。

現在準備中とされる第3期基金は、過去最大となる3000億元(約6兆円)規模に達するとの観測がある。その重点投資分野は、これまでの半導体そのものから、半導体を製造するための「装置」と「材料」へシフトすると見られている。上海微電子装備(SMEE)が開発する国産露光装置や、北方華創科技集団(NAURA Tech)のエッチング装置、そしてEUV向けフォトレジスト(感光材)や高純度化学薬品といった基盤技術が主な対象だ。日本の東京エレクトロンや信越化学工業などが世界市場で高い占有率を持つ領域であり、中国が技術的自立を達成するための最重要関門と位置付けている。

この国家隊の動きと、富国基金のような民間投信の動きは、いわば共振関係にある。国家隊がリスクの高い川上の基盤技術開発に長期的な資金を投じ、民間投信はより市場に近い川下のAI半導体設計や応用サービス企業に機動的な資金を供給する。この分業体制によって、米国による規制の「包囲網」に対抗し、国内で完結する半導体エコシステムの構築を目指している。中国証券投資基金業協会(AMAC)の統計によれば、2023年末時点での公募ファンド総額は27.6兆元に達しており、この巨大な国内資本の一部が国家戦略と連動して動き始めている構図が浮かび上がる。

日本企業が直面する選択

中国で加速する半導体の「技術内製化」と国内資金循環の動きは、世界の供給網のなかで重要な位置を占める日本の関連企業に、複雑な選択を迫っている。短期的には、むしろ商機が拡大する側面がある。米国が先端装置の輸出を禁じた結果、中国の半導体メーカーは規制対象外である28ナノメートル以上の旧世代(レガシー)プロセスへの投資を拡大させている。この領域では依然として日本製の製造装置や材料が高い競争力を持つためだ。

実際に、日本の大手半導体製造装置メーカーの決算では、中国向け売上高比率の上昇が顕著になっている。東京エレクトロンの2024年3月期第3四半期決算では、地域別売上高に占める中国の割合が46.9%に達し、過去最高水準を記録した。これは、米国の規制の隙間を埋める形で、日本企業が一時的な恩恵を受けている格好だ。しかし、この状況が永続する保証はない。

中長期的な視点では、深刻なリスクが潜む。中国が「大基金」などを通じて国産の製造装置や材料メーカーを育成し、技術的なキャッチアップに成功した場合、現在日本企業が強みを持つレガシー領域においても、価格競争力を持つ中国製に置き換えられる可能性がある。かつて液晶パネルや太陽光パネルの市場で起きた構造変化が、半導体材料・装置の分野でも再現されかねない。日本の素材メーカーが世界市場の約9割を占有するEUV用フォトレジストや、信越化学工業とSUMCOで世界シェア6割を握るシリコンウエハーといった牙城も、決して安泰とは言えない。

日本企業は、米国の規制を遵守しつつ、目先の利益を確保する一方で、次世代技術への研究開発投資を緩めてはならない。Rapidusが目指す2ナノメートル以下の先端プロセス技術の確立や、チップレットのような新構造半導体の実装技術で世界を主導し、中国の追い上げに対して技術的な優位性を保ち続けることが、将来の競争力を維持する上で不可欠となる。中国の国内資金循環は、日本にとって対岸の火事ではなく、自らの立ち位置を再定義するよう迫る鏡でもある。