「理解できないものには投資しない」との哲学で知られる著名投資家、段永平氏が管理する投資会社が、AI半導体の巨人NVIDIAへの投資をわずか半年で約23倍に急増させたことが明らかになった。米証券取引委員会(SEC)への提示した書類によると、2026年第1四半期末時点での評価額は約24.14億ドルに達し、ポートフォリオの主力銘柄に浮上した。この動きは単なる資産配分の調整ではなく、周期的な「半導体株」と見なされてきたNVIDIAを、現代の石油ともいえるAI演算能力を供給する「インフラ株」として再評価した、投資哲学の根幹に関わる転換を示唆している。

半年で23倍、NVIDIA株への劇的な方針転換

段永平氏が管理する投資会社H&H International InvestmentがSECに提示したした保有有価証券報告書(フォーム13F)は、同社のNVIDIAに対する投資姿勢の劇的な変化を浮き彫りにした。2025年第2四半期に96.48万株を保有していたが、続く第3四半期には59.78万株へと約38%削減しており、この時点ではAIブームへの慎重な姿勢がうかがえた。

しかし、その後の評価は一変する。2025年第4四半期には保有株数を723.71万株へと約12倍に急増させ、さらに2026年第1四半期には1384.38万株へと倍増させた。2025年第3四半期末の59.78万株から比較すると、わずか半年で保有株数は約23倍に膨れ上がった計算となる。2026年3月末時点での評価額は約24.14億ドルに達し、同社のポートフォリオにおいてアップル、バークシャー・ハサウェイに次ぐ第3位の主力銘柄へと躍り出た。

「周期的半導体」から「AIインフラ」への再定義

この劇的な方針転換の背景には、NVIDIAの事業モデルに対する根本的な認識の変化がある。かつてNVIDIAの収益の柱はゲーム用グラフィックカードであり、その業績は3〜4年周期で好不況を繰り返す典型的な「半導体株」と見なされていた。しかし、生成AIの爆発的な普及により、同社のGPUはAIモデルの学習と推論に不可欠な「演算能力」を供給するインフラへとその性質を大きく変えた。

現代のAI開発競争は、アルゴリズムの優劣だけでなく「どれだけ多くのNVIDIA製GPUを確保できるか」という演算能力の確保競争に様変わりしている。この構造変化は、ウォーレン・バフェット氏がアップルを当初の「テクノロジー株」から、強力なブランド力と顧客囲い込みを持つ「消費財株」と再定義し、歴史的な投資成功を収めた事例と類似の思考様式が見て取れる。段永平氏は、AIが単なる技術革新ではなく産業革命級の地殻変動であると判断し、その中核インフラを独占するNVIDIAをポートフォリオの核に拠える決断を下したとみられる。

CUDAエコシステムという揺るがぬ「堀」

段永平氏がNVIDIAに巨額の資金を投じる根拠は、単にGPUの性能の高さだけではない。競合のAMDや、Google、Amazonといったクラウド大手が自社製AIチップ(ASIC)開発を進める中でもNVIDIAの優位性が揺るがない最大の理由は、ソフトウェアプラットフォーム「CUDA」が構築した強固なエコシステムにある。

CUDAは、開発者、AIフレームワーク(TensorFlow, PyTorch)、企業のシステム、サプライチェーン、ネットワーク技術、ソフトウェア互換性までを包含する巨大な経済圏を形成している。市場調査会社Jon Peddie Researchの2026年第1四半期報告によると、ディスクリートGPU市場におけるNVIDIAのシェアは88%に達しており、この牙城を崩すのは極めて困難な状況だ。一度CUDA上で開発されたAIモデルやアプリケーションを他のプラットフォームに移行するには莫大なコストと時間がかかるため、顧客はNVIDIA製品を使い続ける強いインセンティブが働く。この強力なロックイン効果こそが、段永平氏が確信したNVIDIAの「堀」の深さを示している。

日本への影響

段永平氏がNVIDIA株をわずか半年で約23倍に増やし、ポートフォリオの主力銘柄としたことは、日本企業にとってAIインフラへの投資戦略を再考する契機となる。同氏がNVIDIAを「半導体株」から「AIインフラ株」へと再定義したように、日本企業も自社の事業におけるAIの役割を深く掘り下げ、その中核となる技術インフラへの投資を加速させる必要がある。

特に、製造業や金融業など、AIによる効率化や新たなサービス創出の余地が大きい分野においては、AI演算能力の確保が競争優位の源泉となる。NVIDIAのGPUやCUDAエコシステムへの依存度が高まる中、これらAIインフラへのアクセスや活用能力が、企業の成長を左右する可能性が高まる。例えば、トヨタ自動車のような大規模なデータを持つ企業は、AI開発を加速するためにNVIDIA製GPUの安定的な確保や、CUDAを活用した専門人材の育成に注力すべきだろう。

また、日本の半導体関連企業、特に半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンやSCREENホールディングスは、NVIDIAの需要拡大が直接的なビジネスチャンスとなる。AIインフラとしてのNVIDIAの地位が確立されることで、同社からの設備投資が継続的に増加し、日本のサプライヤーにとって安定した収益源となることが期待される。ただし、NVIDIAの投資哲学転換は、AIインフラ市場における競争激化も示唆しており、日本企業は技術革新と市場の変化への迅速な対応が求められる。