中国の通信機器大手ファーウェイが、新型スマートフォン「nova 16」シリーズや、衛星通信機能を搭載するとみられる高性能タブレット「MatePad Pro Max」など、一連の新製品を準備しているとの観測が浮上している。中国のIT系メディア「IT之家」などが報じたもので、米国による半導体輸出規制が続く中、独自開発の技術を軸にコンシューマー事業の回復を加速させる戦略が鮮明になっている。

なぜ今、ファーウェイの新製品群が注目されるのか

今回の新製品投入の観測は、ファーウェイのコンシューマー事業が米国の制裁から立ち直り、反攻に転じる重要な局面で出てきた。2019年に米商務省のエンティティリストに追加されて以降、同社のスマートフォン事業はGoogleのサービスや先端半導体の調達が困難になり、一時的に世界シェアを大きく落とした。

転換点となったのは、2023年8月に発表された「Mate 60 Pro」だ。同製品は、中国の半導体受託製造最大手SMIC中芯国際集積回路製造)が製造したとみられる7ナノメートル(nm)プロセスの半導体「Kirin 9000S」を搭載し、市場に衝撃を与えた。調査会社Canalysの2024年第1四半期の報告によると、ファーウェイは中国本土のスマートフォン市場で前年同期比70%増の出荷を記録し、シェア17%で首位に返り咲いている。この勢いを維持し、スマートフォンからタブレット、ウェアラブル端末まで製品ラインナップを包括的に強化することで、失った市場シェアを完全にに奪還する狙いがあるとみられる。

MatePad Pro Max: iPad Proに対抗する独自技術の結集

特に注目されるのが、最上位タブレットと位置づけられる「MatePad Pro Max」だ。報じられている情報によれば、13.2インチの大型有機EL(OLED)ディスプレイを搭載し、リフレッシュレートは144Hzに達する見込み。プロセッサーには自社開発のハイエンドチップ「Kirin 9」シリーズの最新版が採用されるとみられている。

このスペックは、市場の競合製品であるAppleの13インチiPad Pro(M4チップ搭載)やSamsungのGalaxy Tab S9 Ultraを強く意識したものだ。イギリスなど一部海外市場ではすでに同名モデルが先行発表されており、その価格は999.99ポンド(約19万7000円)からと、明確にハイエンド市場をターゲットにしている。今回中国国内で報じられたスペックは、国内向けに一部仕様が変更される可能性を示唆しており、今後の正式発表が待たれる。

技術解説: 衛星通信と「NearLink」が示す自立路線

新製品群で注目すべきは、ファーウェイが独自に開発を進めてきた複数の基幹技術だ。これらは、米国の規制下で生き残るための「技術的要塞」として機能している。

  • 衛星通信機能: 「Mate 60 Pro」で初めてスマートフォンでの衛星通話を実現した技術の進化版が搭載される可能性がある。中国の通信衛星「天通1号」などを利用し、地上波の届かない場所でも通信を確保する。新モデルでは双方向のショートメッセージ送受信など、機能が拡張される可能性が推測されている。
  • NearLink (星閃): ファーウェイが主導して開発した近距離無線通信技術。従来のBluetoothやWi-Fiと比較して、60%の低消費電力、6倍の通信速度、30分の1の遅延を実現するとされる。PC、イヤホン、スマートカーなど、同社のエコシステム全体にこの技術を展開することで、ユーザー体験の向上と他社製品との差別化を図る戦略だ。
  • Kirin 9シリーズ: 新製品に搭載されるとみられる最新チップは、SMICの7nmプロセス(N+2)以降の製造技術で生産される可能性が高い。米国の規制により先端製造装置へのアクセスが制限される中、既存のDUV(深紫外線)露光装置を駆使してどこまで性能を向上させられるかが、今後の同社の競争力を左右する最大の焦点となる。

ファーウェイ復活が日本企業に与える影響

ファーウェイのコンシューマー事業復活と技術的な自立は、日本の関連産業に多面的な影響を及ぼす。短期的にはリスクと機会が混在するが、長期的には構造変化への対応が求められる。

第一に、リスクとして、日本の電子部品メーカーへの影響が挙げられる。かつてファーウェイに高性能カメラセンサーを供給していたソニーグループや、各種電子部品を納入していた村田製作所TDKなどは、ファーウェイがサプライチェーンの内製化や中国国内企業からの調達を進めることで、ビジネス機会が中長期的に減少する可能性がある。

一方で、機会も存在する。ファーウェイがアクセスできない先端半導体製造装置(EUV露光装置など)や、製造に不可欠な特殊化学材料(フォトレジストなど)の分野では、東京エレクトロン信越化学工業といった日本企業の技術的優位性は当面揺るがない。ファーウェイの生産拡大が、これらの代替不可能な部材の需要を下支えする可能性もある。

戦略的な観点からは、日本企業は中国市場における「技術のデカップリング」と「サプライチェーンの再構築」という大きな潮流を前提とした事業戦略の見直しが不可欠だ。中国の技術自給圏の拡大を見拠え、非中国市場での競争力を強化すると同時にに、中国国内では代替不可能な技術領域へのリソース集中が一層重要となる。

情報信頼性と今後の焦点

本稿で言及した新製品に関する情報の多くは、中国のIT系メディア「IT之家」などが報じたリーク情報や観測に基づくものであり、ファーウェイからの公式発表ではない点に留意が必要だ。したがって、最終的な製品仕様、価格、発売時期は変更される可能性がある。

今後の焦点は、第一に、ファーウェイによる正式な製品発表だ。そこで明らかにされる「Kirin 9」シリーズの具体的な性能が、同社の技術レベルを測る試金石となる。第二に、製品発売後のTechInsightsなどの第三者機関による分解調査で、搭載チップの製造プロセスや設計の詳細が明らかになるだろう。第三に、これらの動きに対し、米商務省がSMICなどへの輸出規制をさらに強化するかどうかが、今後のサプライチェーン全体のリスクを左右する重要な変数となる。