中国のIT大手、JDドットコム(JD.com(京東)集団)やシャオミ(シャオミ)などが、販促手法と製品開発で競争を激化させている。JD.comはAIを活用した大規模な販促キャンペーンを展開し、シャオミは次世代ディスプレイ技術「MINI LED」を搭載したテレビを投入。巨大な国内市場でのシェア獲得を目指す動きが加速している。

なぜ今、重要か

中国経済は不動産不況などを背景に消費マインドの回復が課題となっている。この状況下で、ECプラットフォームやデバイスメーカーにとって、消費者の限定的な予算をいかに自社サービス・製品に向けさせるかが死活問題だ。特に「旧正月セール」などの大型商戦は、年間の売上を左右する重要な試金石となる。

本件は、AlibabaグループやJD.comといったEC大手間の「消耗戦」ともいえる競争が、AI技術を駆使した新たなステージに入ったことを示している。市場調査会社Canalysの報告によると、中国の2023年第4四半期のスマートフォン出荷台数は前年同期比で回復基調にあり、消費者の購入意欲が徐々に戻りつつある中での競争激化は、市場全体の動向を占う上で極めて重要である。

EC大手、AI活用で「価格戦」の新局面へ

EC大手のJD.comは「旧正月セール(年貨節)」期間中、抽選で最大2万6999元(約55万円)の無条件クーポンを配布するキャンペーンを実施。さらに、購入後に商品が値下がりした場合に差額を補填する「価格保護」サービスをワンクリックで申請可能にし、顧客の信頼獲得と体験向上を狙う。

競合のAlibabaグループが運営するタオバオ(Taobao(淘宝)網)も、最大2万6888元(約54万円)のクーポン配布で対抗。両社とも、過去の購入履歴や閲覧データといった膨大な情報をAIで分析し、最も効果的なタイミングとターゲットにクーポンを配布する戦略をとっている。中国の経済メディア「第一財経」は、こうした派手な販促は短期的な売上増だけでなく、プラットフォームへの顧客定着(ロックイン)を狙ったデータ駆動型マーケティングの最前線だと報じている。

シャオミ、技術革新でミッド・ハイエンド市場を狙う

ハードウェア分野では、シャオミが技術革新を伴う製品で攻勢をかける。同社は、次世代ディスプレイ技術であるMINI LEDを搭載した新型テレビ「S/S Pro」シリーズを発売。政府の補助金適用や限定割引クーポンを組み合わせ、高性能製品を戦略的な価格で提供する。

この動きは、コストパフォーマンスの高さで知られたシャオミが、技術力でミッド・ハイエンド市場のシェア拡大を本格的に目指していることの表れだ。一方で、グローバル市場では米アップルの「iPhone 15」が中国国内で5999元(約12万円)からの価格で販売されており、スマートフォン市場でも厳しい競争に直面している。シャオミはテレビや白物家電を含む「AIoT(AI+IoT)」エコシステム全体で顧客を囲い込み、アップルなどの競合に対抗する戦略を推進している。

技術解説

今回の競争の核となる技術は「AI販促」と「MINI LED」だ。

AI販促技術: これは単なる値引きではない。JD.comやAlibabaは、数十億件のユーザー行動データをリアルタイムで処理するAIモデルを運用している。このモデルは、(1) ユーザーの購入確率が最も高まるクーポン額とタイミングを予測する「コンバージョン最適化」、(2) 不正なクーポン取得や転売を防ぐ「異常検知」、(3) 膨大な商品の中から個々のユーザーに最適なものを推薦する「パーソナライズド・レコメンデーション」の3つの主に機能を持つ。これにより、販促費用のROI(投資対効果)を最大化している。

MINI LED技術: シャオミが採用するMINI LEDは、従来の液晶テレビのバックライトを微細なLEDに置き換えた技術だ。数千から数万個のLEDを個別に制御(ローカルディミング)することで、液晶ながら有機EL(OLED)に迫る高いコントラスト比と輝度を実現する。OLEDと比較して、ピーク輝度が高く、画面の焼き付きが起こりにくい利点がある一方、完全にな黒の表現ではOLEDに劣る。シャオミは、TCLなど国内パネルメーカーとの連携でコストを抑え、75インチモデルを5000元台で市場投入するなど、価格破壊で主導権を握ろうとしている。これは、先端技術のコモディティ化を加速させる戦略でもある。

日本への影響と示唆

中国IT大手の販促・製品開発競争激化は、日本企業にとって二つの具体的な影響をもたらす。第一に、JD.comやAlibabaグループが最大2万6999人民元(約55万円)の無条件クーポンを配布するなど、中国市場における価格競争の激化は、中国に進出する日本企業、特に消費財メーカーに直接的な収益圧迫をもたらす。高額クーポンや価格保護サービスが常態化すれば、日本ブランドはプレミアム戦略の再考を迫られ、現地での価格設定や販促費用の見直しが不可避となる。

第二に、シャオミがMINI LEDテレビ「S/S Pro」シリーズを投入し、高性能製品を戦略的価格で提供する動きは、日本の家電メーカーにとって脅威である。シャオミのような中国企業は、政府補助金と自社割引を組み合わせることで、先進技術製品の普及を加速させている。これは、日本の技術優位性が価格競争力によって相殺されるリスクを示唆する。例えば、ソニーやパナソニックといった日本のテレビメーカーは、中国市場だけでなく、グローバル市場においても、シャオミが確立する「高性能・低価格」モデルへの対応を迫られる。技術開発だけでなく、サプライチェーンの最適化やコスト削減を一層強化する必要がある。

出典・参考