日本各地で建つ系統用蓄電池の中身は、世界の9割が中国製セル。ヒューリックの小諸42MW蓄電所を入口に、LFPの化学、CATLBYDの世界シェア、送電網の調整力を誰が握るのかを投資家視点で解く。

長野県小諸市に、2027年12月、ひとつの「箱」が動きだす。ヒューリックが建てる出力42メガワットの系統用蓄電所だ。不動産会社がなぜ電池を持つのか、という話は別の記事に譲る。ここで見たいのは、その箱の中身である。並ぶのはリチウムイオン電池のセルで、そのセルは、ほぼ確実に中国から来る。2025年に世界で出荷された系統用蓄電池のセルは600ギガワット時を超えたが、上位10社はすべて中国企業で、出荷量の9割を握っていた(Benchmark Mineral Intelligence)。

日本のあちこちで系統用蓄電池の計画が立ち上がっている。太陽光や風力の余った電気をため、足りない時間帯に流す。この「送電網につなぐ巨大な電池」は、再生可能エネルギーを主力電源に変えるための鍵とされ、国内の接続申込は2023年初めから2025年3月までにおよそ12倍へ膨らんだ(系統用蓄電池.com)。だが、その心臓部をどこの誰が作っているのかは、あまり語られない。本稿は、この箱がどう動き、どう稼ぎ、そして中身を誰が握っているのかを、日本の投資家の目で下りて確かめる。株価の話ではない。電力インフラの土台が、どの国の産業構造の上に乗っているかという話である。

送電網につなぐ「巨大な電池」は、何をする箱なのか

系統用蓄電池は、家庭用の蓄電池をそのまま大きくしたものではない。中身は階層で組み上がっている。まず、電気をためる最小単位が「セル」だ。これを何十個も束ねて「モジュール」にし、モジュールを積んで「ラック」にする。ラックを何列も並べて、ようやくメガワット級の出力とメガワット時級の容量にたどり着く。42メガワットとは、この積み上げの規模を指す。

セルの列だけでは、送電網につながらない。直流でためた電気を、送電網が使う交流に変換する装置が要る。これがPCS(パワーコンディショナー、電力変換装置)だ。充電のときは交流を直流に、放電のときは直流を交流に変える。同時に、電池が安全な範囲で働いているかを見張る頭脳も欠かせない。BMS(バッテリーマネジメントシステム)は、一つひとつのセルの電流・電圧・温度を監視し、どれだけ充電が残っているか、電池がどれだけ劣化したかを推し量って、過充電や過放電を止める。さらにその上で、いつ充電し、いつ放電するかを采配するEMS(エネルギーマネジメントシステム)が働く。セル、PCS、BMS、EMS。この四つがかみ合って、はじめて箱は送電網の一員になる。

電池がこの役割に向くのには、はっきりした理由がある。火力発電は、出力を上げるのに時間がかかる。電池は違う。指令を受けた瞬間に放電も充電もでき、送電網の周波数がわずかに乱れたときに、即座に電気を注いだり吸ったりして安定させられる。起動を待つ必要がない、という一点が、電池を送電網の調整役として際立たせている。

系統用蓄電池の中身 ― セルから送電網まで、四つの層
系統用蓄電池の中身 ― セルから送電網まで、四つの層

なぜLFPが定置用の主役になったのか ― 安全・長寿命・レアメタル不要

送電網につなぐ電池の中身は、いま一つの化学に収れんしている。LFP、リン酸鉄リチウムイオン電池だ。電気自動車では、より多くの電気をためられる三元系(NMC、ニッケル・マンガン・コバルト)が長く主役を張ってきたが、定置用の蓄電池ではLFPが選ばれる。理由は三つに整理できる。

第一に、燃えにくい。LFPは正極の中で酸素とリンが強く結びついており、高温になっても構造が崩れにくい。三元系が抱える熱暴走、つまり発熱が発熱を呼んで発火に至る連鎖のリスクが、構造的に低い。人が住む地域の近くに何万個ものセルを何十年も置く定置用では、この一点が決定的な重みを持つ。第二に、長もちする。LFPが充放電を繰り返せる回数は3,000回から6,000回を超える水準に達し、三元系のおよそ2,000回を大きく上回るとされる(アイアール技術者教育研究所)。毎日ためては流すという酷使が10年、20年と続く定置用では、この寿命の差が、そのまま設備を入れ替える回数の差になる。第三に、希少金属を使わない。三元系が頼るニッケルやコバルトを必要とせず、地球にありふれた鉄とリンでできている。原料の値上がりや調達の目詰まりに振り回されにくい。

経済性も、この化学を後押しする。LFPは三元系のおよそ4割の価格でありながら、蓄えられる容量は三元系のおよそ8割に達する(SBクリエイティブ)。しかも近年は、CATLBYDが、セルをまとめる中間の部材を省いて筐体に直接詰め込む設計(セル・ツー・パック)を持ち込み、体積あたりの容量が三元系に劣るというLFPの弱点まで埋めてきた。安全で、長もちで、安く、原料の心配が要らない。送電網用の電池がLFPに寄っていったのは、性能の頂点を求めた結果ではなく、大量に、長期に、安く回すという定置用の要求に、この化学がいちばん素直に応えたからだ。そして、そのLFPの量産で世界をひとり占めにしているのが、中国である。

世界の蓄電池セルの9割は、中国から出荷される

系統用蓄電池をめぐる数字を並べると、そこには一国への集中がはっきり浮かぶ。世界に設置された蓄電池の設備容量のうち、およそ3分の2が中国にある。セルの供給に目を移すと集中はさらに濃く、2025年に世界へ出荷された系統用向けのセル600ギガワット時超のうち、出荷量の9割は上位10社がまかない、その10社はすべて中国企業だった(Benchmark)。セルを組んで完成品にするシステム統合の段階でも、中国企業が世界市場の76%を占める(Energy-Storage.News)。

頂点に立つのがCATL(寧徳時代)だ。同社の蓄電池セルの世界シェアはおよそ35%。2025年の系統用電池の出荷は121ギガワット時に達し、前年から29%伸びて、5年連続の世界首位を守った(Energy-Storage.News)。EV用の電池に範囲を広げても構図は変わらない。2026年1月から4月の世界シェアはCATLが40.1%、2位のBYD(比亜迪)が14.2%で、二社だけで54.3%。世界の電池メーカー上位10社のうち7社が中国企業で、合わせて72.6%を占める(CnEVPost)。定置用の電池が寄っていったLFPという分野でも、2026年4月の出荷はCATLが38.48%、BYDが20.66%と、二社で6割に届く(CnEVPost)。

この集中は、たまたまではない。安全で長もちで安いというLFPの美点は、量産の規模がそのまま単価に効く化学でもある。年間500ギガワット時を超える生産能力を先に築いた者が、いちばん安く作り、いちばん多く売り、その利益でさらに規模を広げる。中国勢はこの循環をいち早く回し、送電網用電池という新しい市場を、立ち上がりの段階で押さえた。

市場の伸びしろも桁違いだ。中国の蓄電池市場は2024年時点でおよそ2,233億ドルと見積もられ、2034年には2兆4,500億ドルへ膨らむとの予測がある(GM Insights)。西側が今から追いつこうにも、越える壁は工場一つではない。セルの化学、正極材の精製、部材、製造装置、そして熟練の人材まで、量産を支える一式が、すでに中国という一国の中に組み上がっている。工場を建てれば追いつけるという話ではない、という事実こそが、この集中が簡単には崩れない理由だ。

送電網の心臓を誰が握るのか ― 中国への集中
送電網の心臓を誰が握るのか ― 中国への集中

42メガワットは、どうやってお金を生むのか ― 三つの市場

箱を建てただけでは、電気はお金にならない。系統用蓄電池は、主に三つの市場を渡り歩いて稼ぐ。ひとつめが、卸電力市場でのアービトラージ(値差取り)だ。電気が余って安い時間帯に充電し、足りなくて高い時間帯に放電して、その値差を利益にする。夜間に1キロワット時あたり10円でため、日中に20円で流せば、差の10円が残る、という単純な理屈である(テス・エンジニアリング)。

ふたつめが、需給調整市場だ。送電網の運営者からの要請に応じて、瞬時に出力を上げ下げする「調整力」を差し出す。ここでは、いつでも応じられるよう待機していること自体への報酬と、実際に放電したことへの報酬の両方が入る。みっつめが、容量市場だ。将来、必要なときに確かに供給できる能力を保っていることに対して、対価が支払われる。実務では、この三つを単純に足し合わせるわけにはいかない。充放電の制約、電池の劣化、刻々と動く価格をにらみながら、どの市場へどれだけ振り向けるかを日々決める配分の巧拙が、採算を分ける。42メガワットの箱の値打ちは、ためられる電気の量そのものより、この配分をどれだけ賢く回せるかで決まる。

日本の脱炭素の採算は、中国の電池価格に握られている

ここまでの二つの事実を重ねると、日本の電力政策が置かれた足場が見えてくる。国は再生可能エネルギーを主力電源に据えると掲げ、その受け皿として系統用蓄電池の建設を促す。ところが、その箱の中身であるセルは、世界の9割が中国から出る。日本が脱炭素へ進むほど、送電網の調整力の土台は、中国の電池産業の生産量と価格に深く結びついていく。

初期投資を抑えて早く採算に乗せたいメガ蓄電所ほど、CATLBYDファーウェイ(華為)といった中国勢のセルが欠かせない選択肢になる(tainavi)。国内にも、東芝や住友電工、ニデックといった作り手はいる。火災リスクへの厳しい配慮や、数十年にわたる保守、日本の送電網に合わせた細かな調整が問われるインフラ案件では、こうした国内勢の信頼性が生きる。だが、価格と量で市場の大勢を決めているのは中国のセルであり、そこは動かない。

この従属は、値段が中国の政策ひとつで動くという不安定さも連れてくる。中国は電池関連22品目の輸出増値税の還付率を、2026年4月から9%を6%へ下げ、2027年からは還付そのものを取りやめると発表した(ジェトロ)。輸出還付は事実上の値引きの原資であり、その縮小は日本が買うセルの価格に跳ね返りうる。米国が中国製の蓄電池に関税をかけ、エネルギー安全保障の名のもとに締め出しにかかる動きも、部材の大半を中国に頼るという構造を、あらためて表に引き出した。再生可能エネルギーを支える技術の供給網が一国へ極端に集中する「技術的従属」は、日本の脱炭素が抱える、いちばん静かで深い弱点である。

ヒューリックが小諸に建てる42メガワットの箱も、この構造の中の一つの点だ。不動産会社の事業多角化という日本国内の物語の中心には、送電網の心臓を中国が握るという、もっと大きな絵が透けている。日本の投資家がこの箱を見るとき、問うべきは「誰が建てたか」ではなく、「中身のセルを誰が、いくらで供給し続けるのか」である。