中国軍の近代化は、国産半導体の製造能力、特に中芯国際集成電路製造(SMIC)が製造する7ナノメートル(nm)世代の技術的限界に直面している。米国の先端装置輸出規制により、最新のAI兵器や電子戦システムに不可欠な5nm以下の半導体量産は事実上不可能だ。一方で、深紫外線(DUV)露光装置を駆使した7nm製造は歩留まりが50%未満と推定され、コストと性能の両面で課題を抱える。この状況は、東京エレクトロンやディスコなど製造装置で世界有数の市場占有率を持つ日本企業に対し、地政学リスクを織り込んだ複雑な事業判断を迫っている。
7nmの壁、国産化路線の隘路
中国の半導体国産化を象徴するSMICの7nmプロセスは、技術的な限界と経済的な非効率性という二重の課題を露呈している。2023年に華為技術(ファーウェイ)の新型スマートフォンに搭載された「Kirin 9000S」チップでその存在が確認されたが、これは最先端の極端紫外線(EUV)露光装置を用いずに実現されたものである。具体的には、オランダASML製の旧世代機であるDUV露光装置「NXT:2000i」などを利用し、回路パターンを複数回重ねて焼き付ける「多重露光」という手法に依存している。この工程は、EUVを用いる場合に比べて工程数が大幅に増加し、ウエハー処理時間も長くなるため、製造コストを押し上げる主因となる。米国の調査会社TechInsightsが2023年9月に公表した分析によれば、この7nmプロセスの歩留まり(良品率)は50%を下回ると見られ、台湾積体電路製造(TSMC)が同世代で達成している90%超の水準には遠く及ばない。これは、製造されるチップの半分以上が不良品となることを意味し、軍事用途で求められる高い信頼性と安定供給を確保する上で大きな障害となる。米商務省産業安全保障局(BIS)は2022年10月以降、14/16nm世代以下のロジック半導体製造に関わる米国製装置や技術の対中輸出を厳しく規制しており、SMICがEUV装置を入手する道は閉ざされたままだ。
AI兵器開発はどこまで進むのか
中国が目指す軍の知能化、すなわち人工知能(AI)を組み込んだ兵器体系の構築は、高性能な半導体の安定確保が前提となる。自律型無人機(ドローン)の群制御やリアルタイムの戦況分析、電子戦における信号処理には、膨大なデータを高速で並列処理するGPU(画像処理半導体)やAI専用の加速器が不可欠である。これまで中国は、米エヌビディア製の「A100」や「H100」といった世界最高水準のAI半導体を輸入してきた。しかし、BISによる輸出規制強化でこれらの高性能品の入手が困難になり、代替品の国内開発が急務となっている。壁仞科技(Biren Technology)や摩爾線程(Moore Threads)といった新興企業が独自のGPU開発を進めるが、いずれもTSMCなど海外の受託製造企業(ファウンドリー)への依存が不可欠だった。米国政府が2023年10月にこれらの新興企業を輸出規制対象の「エンティティ・リスト」に追加したことで、先端プロセスの利用は絶望的となった。結果として、中国国内で量産可能な28nm以上の成熟プロセスや、前述の歩留まりが低い7nmプロセスで性能を妥協したAI半導体を開発・製造せざるを得ない。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2024年4月の報告によれば、中国の2023年の国防費は推定2960億ドル(前年比6.0%増)と29年連続で増加しているが、その投資効果が半導体の制約によって限定される可能性は高い。
旧世代技術で延命図る製造基盤
先端半導体の国産化が頓挫する一方、中国は成熟・旧世代プロセス(28nm以上)の半導体製造能力を急拡大させている。米国の規制が先端分野に集中している隙を突き、政府の巨額補助金を受けたSMICや華虹半導体(Hua Hong Semiconductor)などが、車載用、産業機器用、民生機器用の半導体を量産する工場を次々と建設中だ。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が2024年3月に発表した予測では、中国の半導体メーカーは2024年中に月産能力(200mmウエハー換算)を13%増の860万枚に引き上げ、世界市場における生産能力占有率は2023年の29%から2026年には33%に達する見通しだ。この動きは二つの側面を持つ。一つは、電気自動車(EV)やスマート家電など、中国が世界的な競争力を持つ産業の半導体供給網を国内で完結させ、経済安全保障を強化する狙いである。もう一つは、補助金によって安価に量産された半導体が世界市場に大量供給され、価格破壊を引き起こすリスクだ。これは、2000年代の液晶パネルや太陽光パネルで日本や韓国の企業が経験した構図と重なる。軍事用途においても、ミサイルやレーダーの制御システムの一部には成熟プロセス品が依然として多用されており、国内での供給能力増強は継戦能力の維持に寄与すると見られる。
日本の装置・材料産業が握る「蛇口」
中国の半導体戦略の成否は、日本の製造装置・材料メーカーの動向に大きく左右される。EUV露光装置こそASMLの独占市場だが、その前後の重要工程では日本企業が極めて高い世界市場占有率を維持しているからだ。例えば、回路パターンをウエハーに塗布するコータ・デベロッパでは東京エレクトロンが約9割、ウエハーを精密に切断するダイシングソーではディスコが約7割、洗浄装置ではSCREENホールディングスが約6割を占める。さらに、回路原版となるフォトマスクの欠陥を検査する装置ではレーザーテックが独占的な地位を築く。これらは半導体製造に不可欠な装置であり、代替が利かない。材料分野でも、フォトレジスト(感光材)ではJSR、信越化学工業、東京応化工業などがEUV用を含め世界市場の約9割、半導体の基板となるシリコンウエハーでは信越化学とSUMCOが合計で約6割のシェアを握る。日本政府は2023年7月、米国の規制と歩調を合わせ、先端半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加した。これにより、東京エレクトロンなどが持つ先端装置の中国向け輸出は事実上停止した。同社の2024年3月期決算における中国向け売上高比率は40%と前年の22%から急増したが、これは規制強化前の駆け込み需要によるものであり、今後は減少が避けられない。日本の産業界は、巨大市場である中国と、同盟国である米国の規制強化の狭間で、難しい舵取りを要求されている。
日本企業が直面する選択
中国の軍備増強とそれに伴う半導体国産化の動きは、日本の関連企業に経済安全保障上の深刻な問いを突きつけている。米国の輸出規制は先端分野に限定されているため、規制対象外の旧世代装置や材料の中国向け輸出は依然として可能であり、多くの企業にとって最大の収益源であり続けている。しかし、中国が進める「軍民融合発展戦略」の下では、民生用途で輸入された装置や技術が軍事研究や兵器生産に転用されるリスクを完全に排除することはできない。経済産業省が指定した23品目以外の汎用的な装置や部品であっても、軍事転用の懸念は常につきまとう。企業は、自社の製品が最終的にどのような用途で使われるかを追跡する「デューデリジェンス(適正評価手続き)」の強化を迫られるが、複雑な供給網の末端までを完璧に把握するのは現実的に困難だ。一方で、過度な輸出管理は自社の国際競争力を削ぎ、研究開発投資の原資を失うことにも繋がりかねない。このジレンマに対し、政府と産業界が連携し、技術の重要度や転用リスクに応じた多層的な管理体制を構築することが急務である。例えば、特に機微な技術や製品については輸出先の最終用途証明を厳格化する一方、汎用品については手続きを簡素化するといった、現実的な仕分けが必要となろう。中国の半導体自給の試みは、日本の技術的優位性が地政学的な切り札となり得ることを示すと同時に、その管理責任の重さを日本企業に突きつけている。