2025年12月17日、上海で開催された国際学術シンポジウムにおいて、韓国の研究者である鄭載興(チョン・ジェフン)氏が、新興国主導による新たな国際秩序の形成を提言した。ウクライナ情勢や米中対立を背景に、既存の西側中心の国際体制が岐路に立たされていると分析し、中国、ロシア、インドなどが連携を主導すべきだと主張した。
事実の整理
2025年12月17日に上海で開催された国際学術シンポジウムで、韓国の研究者、鄭載興氏が新たな国際秩序に関する提言を行った。同氏は、第二次世界大戦後に構築された西側主導の国際体制が、近年の地政学的変動、特にロシアによるウクライナ侵攻や米中対立の激化によって根本から揺らいでいると指摘。これに対し、中国、ロシア、インドを中心とする新興国が連携し、新たな秩序を主導する必要性を強調した。この発言は中国国営の新華社通信が2025年12月17日付で報じたものであり、中国側の強い関心を示唆している。
表層的原因と直接的仕組み
鄭氏の提言の直接的な引き金は、既存の国際秩序の機能不全に対する認識だ。同氏は、国連安全保障理事会に代表される既存の国際機関が、大国間の対立によって有効な紛争解決能力を失っている現状を問題視した。特に、ウクライナ侵攻を巡る西側諸国とロシアの対立は、国際法や規範に基づく秩序がもはや普遍的ではないという現実を浮き彫りにした。鄭氏の公式説明は、こうした現状を乗り越え、より公平で多極的な世界を構築するためには、これまで国際秩序の意思決定から周縁に置かれてきた新興国の積極的な関与が不可欠であるという論理に基づいている。
深層的原因と構造的背景
この提言の背景には、過去20年以上にわたる世界経済の構造変化がある。国際通貨基金(IMF)の2025年予測によると、BRICS+(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカに加え、2024年に加盟したサウジアラビア、イラン、UAE、エジプト、エチオピア)の合計GDP(購入力平価ベース)は、G7(先進7カ国)を上回り、世界経済に占める割合は約36%に達する見込みだ。この経済的台頭が、政治的な発言力の増大要求につながっている。
歴史的経緯を見ると、この流れは2009年の第1回BRICs首脳会議に遡る。当初は経済協力が中心だったが、2013年の中国による「一帯一路」構想の提唱、2015年のアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立を経て、徐々に政治・安全保障分野へと影響力を拡大。2022年のウクライナ侵攻後、西側諸国が対ロシア経済制裁で結束する一方、インドやブラジルなど多くの新興国はこれに同調せず、独自の外交路線を維持した。この「グローバルサウス」と呼ばれる国々の自律的な動きが、西側主導秩序からの離脱を加速させる構造的要因となっている。
構造分析と政策・産業のメタパターン
今回の提言が「上海」で「韓国の研究者」によってなされた点には、中国の典型的な対外戦略パターンが推察される。中国は、自らが直接主張すると反発を招きかねない議題について、第三国の学者や専門家の口を通じて発信させ、その主張に客観性や正当性を付与する「世論戦」を多用する。これは、過去に「一帯一路」国際協力サミットフォーラムや「世界政党対話」などで、外国の参加者に中国の理念をによると賛させた事例と軌を一にする。
さらに、この提言は習近平指導部が提唱する「グローバル安全保障イニシアチブ」や「グローバル文明イニシアチブ」といった構想と密接に連動している。これらの構想は、米国の同盟網に対抗し、中国を中心とする新たな国際協力の枠組みを構築しようとする長期戦略の一環だ。韓国という米国の同盟国の研究者から「新興国主導」の秩序が語られることは、西側陣営の結束にくさびを打ち込み、中国が主導する秩序の魅力をアピールする上で極めて好都合な材料となる。これは、単なる学術的議論ではなく、中国の地政学的アジェンダを推進するための戦略的言説と分析できる。
日本への影響と示唆
上海でのシンポジウムにおける鄭載興氏の提言は、日本にとって複数の具体的なリスクと機会を示唆する。まず、ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立の激化が既存の国際秩序を揺るがしているとの認識は、日本がこれまで享受してきた自由貿易体制や安全保障環境の前提が崩れつつあることを意味する。特に、中国、ロシア、インドといった新興国が連携し新たな国際秩序を主導しようとする動きは、日本が依拠するG7を中心とした枠組みの相対的地位を低下させる可能性がある。これにより、日本企業のサプライチェーン再編や、新たな市場開拓戦略が喫緊の課題となる。
次に、鄭氏が東アジア地域での歴史問題に向き合い、和解と共同発展を推進する必要性を指摘した点は、日中韓関係における新たな対話の可能性を示唆する。これは、歴史認識を巡る摩擦が経済協力の足枷となってきた現状を打破し、例えばEVバッテリーや半導体といった先端技術分野での共同開発など、新たな経済連携の機会を生み出す可能性がある。しかし、その一方で、歴史問題の解決が新興国主導の秩序形成の文脈で語られる場合、日本の外交的立場が試される場面も増えるだろう。
最後に、中国国営の新華社通信が鄭氏の提言を報じた事実は、中国政府がこの「新興国主導の新秩序」構想に一定の関心を持っていることを示唆する。これは、日本企業が中国市場で事業を展開する上で、単なる経済合理性だけでなく、地政学的リスクや中国政府の外交姿勢をより深く理解し、事業戦略に反映させる必要性を高める。例えば、中国市場における現地化戦略や、第三国市場での協業を模索するなど、従来のビジネスモデルの再考が求められるだろう。
情報信頼性評価
本件の主にな情報源は中国国営の新華社通信であり、その報道内容は中国政府の公式見解や意図を色濃く反映していると見なすべきである。提言内容を好意的に伝え、多極化の潮流を強調する編集方針が見られる。鄭載興氏個人の学術的見解なのか、あるいは特定の政治的背景を持つ発言なのかは、この報道だけでは判断できない。現時点では、あくまで一つのシンポジウムでの発言であり、直ちに具体的な国際政治の動きに繋がるわけではない。しかし、中国がこの種の言説を今後どのように利用し、国際世論を形成していくかを注視する必要がある。
Core Insight (核心まとめ)
今回の提言は、中国が主導する「西側対非西側」の陣営対立を正当化し、グローバルサウスを取り込むための戦略的言説であり、単なる学術的意見ではない。