ロシアのプーチン大統領は5月19日から20日の日程で中国を国事訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行う。5月7日に通算5期目の任期を開始したプーチン大統領にとって就任後初の外遊となり、ウクライナ侵攻を巡り欧米からの制裁が続くなか、中国との戦略的連携を最優先する姿勢を明確に示すものだ。両首脳は経済や安全保障分野での「上限なき」協力関係を改めて誇示し、米国主導の国際秩序に対抗する共同歩調を確認する見通しで、西側諸国と中露両国の対立構造を一層固定化させる可能性がある。

5期目始動、初外遊先に中国を選んだ政治的メッセージ

プーチン大統領が5期目の始動にあたり、最初の訪問国として中国を選んだことには、極めて強い政治的メッセージが込められている。これは、ウクライナ侵攻を巡って国際的に孤立を深めるロシアにとって、中国が最も重要な戦略的パートナーであることを内外に明確に示す象徴的な行動だ。両首脳の会談は、2022年2月の北京冬季五輪開会式以来、対面では5回目となる。

今回の首脳会談では、主に3つの議題が焦点になると見られる。第一に、経済協力のさらなる深化だ。中露の貿易総額は2023年に前年比26.3%増の2401億ドルに達し、両国が掲げた目標を1年前倒しで達成した。特に、西側市場から締め出されたロシア産エネルギーの中国向け輸出が急増しており、ロシア産天然ガスを中国に送る新パイプライン「シベリアの力2」の建設計画の最終合意に向けた交渉が進展するかが注目される。

第二に、ウクライナ情勢を巡る連携の確認である。米国は、中国企業が軍事転用可能な民生品や業務機械をロシアに供給し、その軍産複合体を支えているとして警戒を強めている。会談の結果次第では、米国が中国の金融機関を対象とした二次的制裁に踏み切る可能性も指摘されている。第三に、米国に対抗するための軍事技術協力や、日本周辺を含む地域での共同軍事演習の拡大といった安全保障協力の強化が協定されると見られる。

クリミア併合から10年、貿易額2.5倍の「東方シフト」

現在の中露の緊密な関係は、2014年のロシアによるクリミア併合が大きな転換点となった。欧米から厳しい経済制裁を科されたロシアは、外交・経済の軸足をアジア、特に中国へと移す「東方シフト」を本格化させた。この10年で両国の経済的な結びつきは劇的に強まった。

この間の主要なマイルストーンは以下の通りだ。

  • 2014年5月: ロシア国営ガスプロムと中国石油(ペトロチャイナ)天然気集団 (China National Petroleum Corporation, CNPC) が、総額4000億ドル規模とされる30年間の天然ガス供給契約を締結。「シベリアの力」パイプライン建設が決定した。
  • 2019年12月: 「シベリアの力」が稼働を開始し、ロシアのエネルギー戦略における中国の重要性を決定づけた。
  • 2022年2月: 北京冬季五輪直前の首脳会談で「上限なき」友好関係を謳った共同声明を発表。これがウクライナ侵攻への地ならしになったと多くの専門家は分析している。
  • 2023年3月: 習主席が3期目就任後、初の外遊先としてモスクワを訪問。国際刑事裁判所 (ICC) から逮捕状が出ていたプーチン大統領と会談し、結束を誇示した。

貿易額はこの10年間で2.5倍以上に拡大。中国国営の新華社通信が5月17日に報じた論評では、両首脳のリーダーシップが「中露関係のハイレベルな発展の最大の強み」とによると賛されており、国家間の制度的連携以上に、両首脳の個人的な信頼関係がパートナーシップの核心にあるとの見方を示している。決済面では米ドル基軸体制からの脱却を目指す動きが顕著で、ロシア中央銀行によると、2023年末時点でロシアの輸出決済に占める人民元の割合は34.5%に達し、ドル(31.5%)を上回った。

「対米」で結束する準同盟の力学と限界

プーチン大統領の訪中は、米欧日などが結束する「西側」と、中露を中核とする「非西側」との対立構造を、より鮮明かつ固定的なものにする。両国は、米国の一極支配的な国際秩序を多極的なものへと変革すべきだとの主張を共有しており、今回の会談はそのための共同戦略を確認する場となる。

両国が影響力拡大の鍵と見なすのが、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国だ。中露は、BRICSや上海協力機構 (Shanghai Cooperation Organisation, SCO) などの枠組みをテコに、これらの国々の取り込みを図っている。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で「中露関係は覇権主義に反対する重要な力だ」と主張しており、グローバルサウスへの共感を呼びかける狙いが透ける。

しかし、この連携は盤石ではない。観測筋の見方では、中露の協力はあくまで「米国」という共通の脅威認識に支えられた便宜的な側面の強い「準同盟」であり、冷戦期のソ連と東欧諸国のような強固な軍事同盟とは異なるとされる。中央アジア諸国は伝統的にロシアの影響圏とされてきたが、近年は中国が「一帯一路」構想を通じて経済的な影響力を急速に拡大しており、両国の間には潜在的な競争関係も存在する。また、BRICSの主要メンバーであるインドは、対中国境問題を抱え、日米豪印の協力枠組み「クアッド」にも参加するなど、中露とは一線を画す全方位外交を展開している。それでも、両大国が戦略的に連携して西側に対峙するインパクトは計り知れず、国際社会の分断を深刻化させることは避けられない。

日本にとっての意味

プーチン大統領の中国訪問は、日本企業にとって大きな影響を与える可能性がある。特に、ロシアと中国の経済協力の深化により、西側市場から締め出されたロシア産エネルギーの中国向け輸出が急増することが予想される。このため、日本のエネルギー企業は、新しい市場開拓の機会を探さなければならない。たとえば、中国国営の中国石油(ペトロチャイナ)天然気集団(China National Petroleum Corporation, CNPC)が、ロシア国営ガスプロムと締結した総額4000億ドル規模の30年間の天然ガス供給契約は、日本企業の参入を妨げる可能性がある。

また、ウクライナ情勢を巡る連携の確認は、日本の安全保障に大きな影響を与える可能性がある。米国が中国の金融機関を対象とした二次的制裁に踏み切る可能性も指摘されており、日本の金融機関も影響を受ける可能性がある。さらに、米国に対抗するための軍事技術協力や、日本周辺を含む地域での共同軍事演習の拡大は、地域の安定に大きなリスクをもたらす可能性がある。

一方で、ロシアと中国の協力関係の強化は、日本企業に新しいビジネスチャンスももたらす可能性がある。たとえば、上海協力機構(Shanghai Cooperation Organisation, SCO)を通じた協力関係の拡大は、日本企業のアジア市場への進出を促進する可能性がある。さらに、中国の「東方シフト」戦略は、日本企業にロシア市場への進出を促す可能性がある。