スイスの製薬大手ロシュは3月9日、開発中の乳がん治療薬候補「ギレデストラント」の第3相臨床試験(persevERA試験)が、主に評価プロジェクトを達成できなかったと発表した。この結果を受け、同社の株価は7.5%下落し、次世代の大型新薬として期待されていた同薬の将来に不透明感が広がっている。
大型化が期待された新薬候補
今回の試験失敗は、ギレデストラントの商業化の鍵となる「ER陽性・HER2陰性乳がん」の一次治療への適応に直接的な打撃を与えるものだ。このタイプの乳がんは、全乳がん症例の約70%を占める最も一般的なサブタイプである。国際がん研究機関(IARC)の2022年の統計(GLOBOCAN)によると、世界では年間約230万人が新たに乳がんと診断され、そのうち約161万人がER陽性・HER2陰性型に分類される。
ロシュは、ギレデストラントが既存薬に代わる次世代の一次内分泌療法となることを期待していたが、その計画は大きな見直しを迫られることになった。
アナリストで分かれる売上予測
試験結果を受け、ギレデストラントの商業的な将来性について、海外アナリストの間で見方が大きく分かれている。例えば、投資銀行ジェフリーズは、同薬のピーク時売上高予測を従来の74億ドルから15億ドルへと大幅に下方修正した。
一方で、バークレイズは、市場が同薬のポテンシャルを過小評価している可能性があるとして、65億ドルの売上予測を維持している。ロシュは今後、他の臨床試験のデータに基づき、異なる患者群や治療段階での承認取得を目指す方針だが、その商業的な成功を巡っては、今後の開発戦略が注目される。
日本企業への示唆
ロシュの乳がん新薬候補「ギレデストラント」の第3相臨床試験失敗は、日本国内の製薬企業、特にオンコロジー領域に注力する企業にとって、複数の具体的な影響をもたらす。まず、ER陽性・HER2陰性乳がんが全乳がん症例の約70%を占める最大市場であることから、この分野での新薬開発競争が激化する可能性が高い。ロシュがこの巨大市場での優位性を失ったことで、第一三共やアステラス製薬といった国内大手は、既存の治療薬や開発中のパイプラインの市場シェア拡大、あるいは新たなターゲット探索の機会を得る。
次に、ジェフリーズがギレデストラントのピーク時売上高予測を74億ドルから15億ドルへと大幅に下方修正した事実は、新薬開発における臨床試験の成功が、いかに企業価値に直結するかを改めて浮き彫りにした。これは、日本企業が新薬開発に投じる巨額のR&D費用に対するリスク管理の重要性を再認識させる。特に、国際がん研究機関(IARC)の統計が示すように、世界で年間約161万人がER陽性・HER2陰性型乳がんに罹患する中で、ロシュのようなグローバル大手ですら臨床試験で躓く現実から、国内企業は、より厳格な臨床開発戦略とポートフォリオ分散の必要性を学ぶべきだ。
最後に、バークレイズが65億ドルの売上予測を維持しているように、市場の評価が分かれる状況は、日本企業がM&Aや提携戦略を検討する上で、より多角的なリスク評価が求められることを示唆する。有望に見えるパイプラインでも、臨床試験の結果次第で評価が大きく変動するため、デューデリジェンスの質がこれまで以上に重要となる。