半導体産業の国際競争が激化する中、製造プロセスの根幹を支える素材や装置で世界市場を事実上独占する日本企業の存在感が高まっている。味の素の絶縁フィルムやディスコの切断装置は、最先端半導体の性能を左右する不可欠な技術として、グローバルなサプライチェーンで中心的な役割を担っている。

味の素:CPUを支える絶縁フィルム「ABF」

味の素は、高性能CPU(中央演算処理装置)向けパッケージ基板に用いられる絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」で、世界市場のシェアをほぼ独占している。ABFは、半導体チップの微細な回路と基板を電気的に接続する層間絶縁材であり、その品質がチップの性能や信頼性を直接決定づける。

同社は、アミノ酸の研究で培った化学合成技術を応用し、1999年にABF事業に参入。以来、インテルやAMDといった世界の主に半導体メーカーに採用され、サーバーやPC、AIアクセラレーターの進化を支えてきた。半導体の高性能化に伴い需要は拡大し続けており、同社は積極的な設備投資で供給能力の増強を進めている。

ディスコ:半導体ウェハー「切・削・磨」の専門家

東京に本社を置くディスコは、半導体ウェハーを個々のチップに切り分ける「ダイシングソー(切断装置)」と、ウェハーを薄く削る「グラインダー(研削装置)」で世界トップシェアを誇る。特に、装置に使われる消耗品の「極薄ブレード(砥石)」では約8割の世界シェアを握る。

半導体の集積度が上がるほど、より精密で損傷の少ない切断・研削技術が求められる。ディスコは「Kiru・Kezuru・Migaku(切る・削る・磨く)」技術を核に、顧客の要求に応え続けてきた。同社の技術なくして、スマートフォンやデータセンターで使われる膨大な数の半導体チップを効率的に生産することは困難だ。

ドナルドソン:超クリーン環境を実現するフィルター技術

半導体製造においては、日本企業だけでなく、特定の分野で強みを持つ海外企業も重要な役割を果たす。米国のドナルドソンは、半導体工場のクリーンルーム内で空気中の微細な化学物質を除去する「化学エアフィルターシステム」の主にメーカーだ。

回路線幅が数ナノメートルに達する最先端の半導体製造では、空気中にごく微量に存在するアンモニアや酸性ガスなどが歩留まりを低下させる要因となる。ドナルドソンのフィルター技術は、こうした汚染物質を分子レベルで捕捉し、製造プロセスの安定に貢献している。同社の技術は、半導体製造における超クリーン環境の維持に不可欠であると、業界関係者は指摘する。

日本市場への影響

半導体サプライチェーンにおける日本のニッチトップ企業の存在は、中国経済戦略に重要な示唆を与える。まず、味の素のABFやディスコのダイシングソーが事実上独占する状況は、中国が半導体国産化を推進する上で、日本企業への技術的依存を断ち切る難しさを浮き彫りにする。特にディスコが消耗品の極薄ブレードで約8割の世界シェアを握る事実は、装置だけでなく、その後の運用・維持に必要な部品供給まで日本企業が支配していることを意味し、中国企業が代替品を開発・量産する際の極めて高い技術的・経済的障壁となる。

次に、この日本の技術的優位性は、地政学リスクが高まる中で日本企業にとって新たな機会を生み出す。中国が自国サプライチェーンの強靭化を目指す動きは、結果的に日本企業との関係を再構築するインセンティブとなり得る。例えば、中国の主要半導体メーカーが、安定供給を確保するため、日本企業との合弁事業や技術提携を模索する可能性も考えられる。

最後に、日本政府はこれらの「隠れた巨人」が持つ技術を戦略的資産と位置づけ、輸出管理や技術流出防止策を強化すべきだ。特に、AIアクセラレーターの進化を支える味の素のABFや、スマートフォン・データセンターの基盤となるディスコの技術は、経済安全保障上の重要性が極めて高い。これらの技術が中国の軍事・監視技術に転用されるリスクを考慮し、より厳格な管理体制を構築することが求められる。