米国の厳しい半導体輸出規制を受け、中国が国家主導で半導体の国産化を急いでいる。中国最大のファウンドリSMIC中芯国際集積回路製造)が既存のDUV(深紫外線)露光装置で7nmプロセスの量産技術を確立したと報じられる一方、政府は3440億元(約7.4兆円)規模の国家基金第3弾を設立。技術的自立を目指す動きが加速しているが、最先端分野では依然として課題が山積している。

なぜ今、重要か

米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月に導入した包括的な対中半導体規制は、中国の技術開発に大きな制約を課した。これに対し、中国は「中国製造2025」計画の下、半導体自給率を2025年までに70%に引き上げる目標を掲げ、国家一丸でサプライチェーンの内製化を推進。SMICの7nm量産化や国家集積回路産業投資基金(通によると「大基金」)第3期の設立は、米国の圧力下でも技術的突破口を開こうとする中国の強い意志の表れであり、世界の半導体勢力図に影響を与える重要な動きだ。この動きは、日本の装置・素材メーカーにとっても大きな事業機会と地政学的リスクの両面をはらんでいる。

強化される米国の規制と中国の対抗策

米国政府は安全保障上の懸念を理由に、ファーウェイ(ファーウェイ技術)やSMICなどをエンティティリスト(事実上の禁輸リスト)に追加し、先端半導体技術へのアクセスを厳しく制限してきた。特に、オランダASML製のEUV(極端紫外線)露光装置の輸出規制は、中国が5nm以細の最先端プロセスへ進む道を事実上閉ざしている。

これに対し、中国は「大基金」を通じて国内企業に巨額の資金を供給。第1期(2014年、1387億元)、第2期(2019年、2041億元)に続き、2024年5月には過去最大となる3440億元規模の第3期基金を設立したとブルームバーグが報じた。この資金は、半導体製造装置や材料の国産化、特にEUVに代わる次世代リソグラフィ技術や先端パッケージング技術の開発に重点的に投じられるとみられる。

SMICの7nm量産化と技術的限界

米国の規制下で注目を集めたのが、SMICによる7nmプロセスの実現だ。同社は、ファーウェイのスマートフォン「Mate 60 Pro」向けに、既存のDUV露光装置を駆使した7nmチップ「Kirin 9000S」を供給したとされる。これは、米国の規制を回避しつつ技術的進歩を遂げた象徴的な事例となった。

しかし、この成功には限界も指摘されている。調査会社TechInsightsの分析によれば、SMICの7nmプロセスは、TSMCの初期7nmプロセスに匹敵するものの、歩留まりやコスト効率で劣るとされる。DUV装置で7nmを実現するには、多重露光という複雑な工程が必要となり、生産性が低くコストが大幅に上昇するためだ。TSMCやサムスン電子がEUVを用いて3nmプロセスの量産を進める中、SMICとの技術格差は依然として大きい。

技術解説:DUV多重露光とEUVの壁

SMICが7nmプロセスを実現した核心技術は、DUVリソグラフィにおける多重露光(Multi-Patterning)だ。これは、1世代前のDUV装置(波長193nm)を使い、回路パターンを複数回に分けてウェハーに焼き付ける技術である。

  • プロセスノードとリソグラフィ: 本来7nm以下の微細加工には、より波長の短いEUV(波長13.5nm)露光装置が不可欠とされる。SMICは、自己整合型ダブルパターニング(SADP)などの技術を応用し、DUVでこの壁を乗り越えたとみられる。
  • 歩留まりとコスト: 多重露光は工程数が大幅に増加するため、ウェハー1枚あたりの処理時間(スループット)が低下し、欠陥発生率が上昇する。これにより、良品チップの割合である歩留まり(Yield)が30〜50%程度にとどまると推定されており、EUVを用いるTSMCの先端プロセスの歩留まり(70%以上)に大きく劣る。これが製造コストを押し上げる最大の要因となっている。
  • fab capacityとCapEx: SMICの2023年の設備投資(CapEx)は約75億ドルに達したが、これはTSMC(約300億ドル)の4分の1に過ぎない。限られた投資額で生産能力(月間ウェハー枚数)を増強しつつ、歩留まりを改善していくことが喫緊の課題だ。中国国内の需要を満たすことはできても、国際市場でコスト競争力を確保するのは困難な状況が続く。

日本の関連性

中国の半導体国産化加速は、日本のサプライヤーにとって二つの異なる影響をもたらす。まず、SMICがDUV露光装置で7nmプロセスを実現したことは、先端半導体製造装置市場における日本のニッチな機会を創出する。EUV露光装置が規制される中、DUV技術を最大限に活用しようとする中国企業の需要は高まり、東京エレクトロンやSCREENホールディングスのようなDUV関連装置や材料メーカーは、一時的に恩恵を受ける可能性がある。ただし、これは中国が自国製装置の開発を加速させるまでの限定的な機会と認識すべきだ。

次に、ファーウェイのような中国企業が自社サプライチェーンを国内で完結させようとする動きは、日本の電子部品メーカーにとってリスクとなる。例えば、村田製作所やTDKといった企業は、これまで中国市場、特にスマートフォンや通信機器分野で大きなシェアを占めてきたが、中国政府が国内メーカーへの補助金を強化し、国産部品の使用を奨励すれば、これらの日本企業の売上減少に直結する。中国の「技術自給」は、単なる国内市場の確保だけでなく、最終的には海外サプライヤーからの脱却を目指すため、日本企業は中国市場への過度な依存を見直し、新たな市場開拓や高付加価値製品への転換を急ぐ必要がある。

出典・参考