米国の先端半導体輸出規制下、中国の国産化は限定的な「成功」に留まっている。中国最大手SMICが量産する7nm半導体は台湾TSMCの同等品に性能で劣り、製造費用は5割増と見られる。このいびつな成長は、旧世代装置で世界市場を握る日本の東京エレクトロンなどに新たな事業機会と地政学リスクの両面を突きつけている。

SMIC7nm、その技術的限界

2023年秋、華為技術(ファーウェイ)が発売した新型スマートフォン「Mate 60 Pro」は、中国国内で熱狂的に迎えられた。搭載された半導体「Kirin 9000S」が、中国の半導体受託製造(ファウンドリ)最大手、中芯国際集成電路製造SMIC)の7ナノメートル(nm、ナノは10億分の1)工程で製造されたとみられるためだ。米国の輸出規制を乗り越え、国内技術で先端品を量産した象徴とされた。だが、その技術的な内実は、諸手を挙げて称賛できるものではない。カナダの調査会社TechInsightsが2023年9月に公表した分解調査によれば、この7nm工程は、実質的に台湾積体電路製造(TSMC)が2018年に量産を開始した第1世代7nmに類似する。しかし、回路の集積度や動作速度でTSMCの同世代品に及ばず、性能は2割から3割低いとの分析もある。さらに深刻なのが製造効率だ。業界関係者の間では、SMICの7nm工程の歩留まり率(良品率)は50%を下回るとの見方が支配的だ。TSMCの成熟した同工程の歩留まりが90%を超えるのと比べると、その差は歴然としている。これは製造費用の高騰に直結し、TrendForceの2024年3月時点の分析では、SMICの7nmウエハー価格はTSMCの同等品より40〜50%高いと推定される。市場競争力を持つ製品を大規模に供給するには、あまりに高い代償と言える。

なぜEUVなしで7nmが可能なのか?

SMICはなぜ、先端半導体製造に不可欠とされる極端紫外線(EUV)リソグラフィー装置なしで7nm品を製造できたのか。その答えは、旧世代の技術を応用した「多重露光」にある。半導体製造では、シリコンウエハー上に回路の原版(フォトマスク)を焼き付ける露光工程が最も重要だ。SMICが用いるのは、光源の波長が193nmのArF(フッ化アルゴン)を用いた深紫外線(DUV)リソグラフィー装置である。この装置で7nmのような微細な回路を描くには、回路パターンを複数回に分けて重ね焼きする多重露光技術が必須となる。具体的には、リソグラフィーとエッチング(回路を彫る工程)を3回、4回と繰り返すことで、EUVに近い解像度を擬似的に実現する。しかし、この手法は工程数が指数関数的に増加し、製造期間が長期化する。わずかな位置ずれが歩留まりを致命的に悪化させるため、極めて高度な工程管理が要求される。使用される装置は、オランダASML製のDUV液浸露光装置「NXT:2000i」や「NXT:2050i」とみられる。米国政府は2023年10月の規制強化で、これらの最先端DUV装置も事実上、中国向け輸出を禁止した。SMICは、規制発効前に確保した在庫や既存装置を駆使して生産を続けている状況だ。1回の露光で済むEUV(波長13.5nm)に比べ、生産性は著しく低い。ASMLのEUV装置「NXE:3600D」が1時間あたり160枚のウエハーを処理するのに対し、DUVの多重露光では実質的な処理能力が3分の1以下に落ち込む可能性がある。

国産化を支える旧世代装置市場

先端分野での苦闘を強いられる一方、中国は成熟・旧世代の半導体製造能力を急速に拡大している。米国の規制が比較的緩い28nm以上の工程がその主戦場だ。米半導体工業会(SIA)が2023年12月に発表した報告書は、中国が今後10年で世界の成熟工程(28nm以上)の生産能力で最大のシェアを占めるようになると予測。2032年までに世界全体の37%に達する可能性があると指摘した。この動きを背景に、日本の半導体製造装置メーカーの受注が活況を呈している。東京エレクトロンの2024年3月期決算では、地域別売上高で中国向けが47%(前年同期比83%増)を占め、初めて最大市場となった。SCREENホールディングスやアドバンテストも同様に中国向け販売が好調だ。米国やオランダが先端装置の輸出を厳格化する中で、規制対象外のDUV装置やエッチング装置、検査装置などが中国の半導体工場建設ラッシュに吸い込まれている形だ。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の2024年4月の統計によれば、2023年の中国の製造装置市場は前年比29%増の366億ドルに達し、世界全体の3分の1を占めた。これは、米国による先端技術への封じ込めが、結果として中国の製造基盤全体の底上げを促し、日本の装置メーカーに特需をもたらすという皮肉な構造を生んでいる。

日本の素材・部品への深い依存

中国の半導体国産化の道のりは、製造装置だけでなく、基盤となる素材や部品においても日本の技術に深く依存している。特に露光工程で使われるフォトレジスト(感光材)は、日本の牙城だ。EUV用ではJSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの4社で世界シェアの約9割を握る。SMICが多用するArF液浸DUV用の先端レジストでも、日本企業の優位性は揺るがない。また、半導体の基板となるシリコンウエハーでは、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの約6割を占める。2019年に日本政府が韓国向けに輸出管理を厳格化した高純度フッ化水素も、ステラケミファや森田化学工業などが高い技術力を持つ。これら重要素材は、たとえ中国国内で最終製品が組み立てられても、その源流を遡れば日本企業に行き着くケースが大半だ。中国は素材の内製化も急いでいるが、純度や品質安定性で日本製品に追いつくには少なくとも5〜10年を要するとされる。米国の規制が装置から素材・部品へと拡大する可能性は常にあり、その場合、中国の半導体産業は生産停止に追い込まれかねない。この供給網上の急所は、日本の素材メーカーにとって交渉力であると同時に、米中対立の激化次第では供給責任を問われるリスクでもある。

日本企業が直面する選択

米中技術覇権競争の狭間で、日本の半導体関連企業は複雑な判断を迫られている。短期的には、中国の旺盛な設備投資が業績を押し上げる追い風だ。しかし、この特需は米国の規制強化一つでいつでも途絶えうる不安定なものと言える。米国商務省産業安全保障局(BIS)は、日本の装置メーカーが中国国内の工場に設置した装置の保守・点検サービスまで制限対象に含めることを検討しており、事業の予見性は低い。さらに、中国が国策として育成する半導体産業は、いずれ日本の装置・材料メーカーにとって巨大な競合相手となりうる。長江存儲科技(YMTC)はNAND型フラッシュメモリーで、長鑫存儲技術(CXMT)はDRAMで、それぞれ世界市場での存在感を高めつつある。これらの企業が力をつければ、中国国内で装置や材料のサプライチェーンを完結させようとする動きが加速するのは必至だ。日本企業は、目先の利益を追求するだけでなく、次世代技術への研究開発投資を継続し、技術的優位性を保ち続けられるかが問われる。Rapidusが挑む2nm以降の次世代半導体の国内生産プロジェクトは、こうした国際環境の変化に対応し、日本の技術基盤を維持するための国家的な布石でもある。中国市場との距離感をどう設定し、日米欧の連携の枠組みの中でいかに自社の価値を高めていくか。地政学リスクを事業戦略に織り込む経営の舵取りが、これまで以上に重要になっている。