ドナルド・トランプ前米大統領が11月の大統領選で再選された場合、米欧同盟は深刻な危機に直面するとの分析を中国の一部メディアが伝えている。架空の「イラン戦争」を想定したシナリオでは、国防費負担や中東政策をめぐる対立が北大西洋条約機構(NATO)の結束を根底から揺るがすと指摘する。

国防費負担めぐる積年の不満

トランプ氏の欧州に対する不信感の根底には、多くのNATO加盟国が国防費を十分にに負担せず、米国の軍事力に「ただ乗り」しているとの長年の不満がある。バイデン政権下で始まったロシアによるウクライナ侵攻は、一時的に米欧の結束を強めたが、戦況の長期化とともにその効果は薄れつつある。

トランプ氏はかねてNATOからの脱退を示唆しており、再選されれば、欧州の安全保障を米国が守るという戦後体制の前提そのものが覆される可能性がある。中国メディアが描くシナリオでは、トランプ氏が「米国はもはや欧州の警察官ではない」と宣言し、5000人規模の在独米軍の撤退を皮切りに、スペインやイタリアからも部隊を引き揚げる可能性に言及したとされる。

架空「イラン戦争」で亀裂は決定的か

シナリオでは、この亀裂を決定的にする要因として架空の「イラン戦争」が設定されている。トランプ政権がイランの核武装阻止を名目に軍事行動に踏み切ると想定。これはイスラエルの安全保障確保と並び、「アメリカを再び偉大にする(MAGA)」ための重要課題と位置づけられるという。

一方、欧州各国は、トランプ氏が一方的に離脱したイラン核合意の枠組みを重視し、米国の単独行動に強く反発する。特にパレスチナ・ガザ地区での紛争を受け、イスラエルへの批判が強まる欧州の世論は、米国の軍事行動を支持しないとみられる。この価値観の断絶が、同盟関係に修復不可能な溝を生むと分析している。

揺らぐ同盟と欧州主に国の苦悩

米国の対イラン強硬策に対し、欧州主に国は公然と非協力的な態度をとるシナリオだ。「特別な関係」を築いてきたイギリスですら、労働党のスターマー政権(想定)が当初、米爆撃機の拠点であるフェアフォード空軍基地などの使用を拒否。フランスが非協力的であることに加え、ドイツ、スペイン、そして親トランプ派とみられていたイタリアのメローニ政権さえも、国内の政治的圧力から米国と距離を置き、基地使用を認めない事態に発展する。

これにより欧州側は、米国から一方的に「恩知らず」と非難され、同盟国として軽視されているとの認識を強める。米欧同盟の機能不全は、ロシアや中国に利するだけでなく、戦後の国際秩序そのものを揺るがしかねない。「米国第一主義」の動向が、世界の安全保障を左右する最大の焦点となる。

日本企業への示唆

トランプ氏再選による米欧同盟の亀裂は、日本の安全保障と経済に直接的な影響を及ぼす。中国メディアの分析が示唆するように、トランプ氏が「米国はもはや欧州の警察官ではない」と宣言し、5000人規模の在独米軍撤退を皮切りに欧州から部隊を引き揚げる事態となれば、在日米軍の再編や削減も現実味を帯びる。これにより、日本の防衛費増額圧力はさらに高まり、自衛隊の役割拡大が喫緊の課題となるだろう。

経済面では、架空の「イラン戦争」シナリオが示すように、中東情勢の不安定化は原油価格の高騰を招き、エネルギー資源の多くを中東に依存する日本経済に深刻な打撃を与える。また、欧州主要国が米国の単独行動に反発し、基地使用を拒否するような事態は、国際的なサプライチェーンの混乱を招き、特に自動車や電子部品など、グローバル展開する日本企業の事業継続に影響を及ぼす可能性が高い。例えば、ドイツの自動車メーカーが中東情勢の影響で生産を滞らせれば、関連部品を供給する日本の企業も連鎖的に影響を受ける。

さらに、米欧同盟の機能不全は、ロシアや中国の国際的な影響力拡大を許し、東アジア地域の安全保障環境を一層複雑化させる。特に、中国がこの隙を突いて海洋進出を加速させる可能性があり、日本のシーレーン防衛や尖閣諸島を巡る緊張が高まるリスクがある。日本は、米国の「米国第一主義」の動向を注視しつつ、欧州各国との多角的な連携を強化し、自国の安全保障と経済のレジリエンスを高める戦略が求められる。