米国の政権交代の可能性を背景に、欧州で国際政治の舞台から取り残されることへの「戦略的焦燥感」が高まっている。米中という2大国の動向に欧州が神経質になるのは、地政学的な孤立と、米中関係がいかなる方向に振れても不利益を被ってきた歴史的経験に根差している。本稿では、中国メディア「観察者網」が報じた専門家の分析を基に、欧州が直面する構造的なジレンマを解明する。

事実の整理

現在、欧州連合 (EU) は国際関係において困難な立場に置かれている。主な関係者とその立場は以下の通り整理される。

  • 対ロシア関係: 2022年のウクライナ侵攻以降、ロシアを「最も直接的かつ重大な安全保障上の脅威」と位置づけ、関係は敵対的となっている。
  • 対中国関係: EUは2019年以降、中国を「協力パートナー」「経済的な競争相手」であると同時にに「体制上の競合相手」と定義している。半導体製造装置の輸出規制などで、一部の政策は米国の対中強硬策と連動、あるいはそれ以上に厳しい側面を持つ。
  • 対米国関係: 同盟国でありながら、ドナルド・トランプ前大統領の再選可能性を巡り、安全保障や経済政策における亀裂が懸念されている。北大西洋条約機構 (NATO) の集団防衛義務に対するトランプ氏の懐疑的な発言は、欧州の安全保障の根幹を揺るがしている。

この全方位での関係悪化が、欧州の孤立感を深める要因となっている。

表層的原因と直接的仕組み

欧州の焦燥感の直接的な引き金は、トランプ氏が米大統領に返り咲いた場合、米中が欧州を抜きにした取引を行う可能性への懸念である。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策は、同盟関係よりも二国間の取引を優先する傾向が強かった。このため、米中が再び何らかの形で取引した場合、欧州の利益が取引の材料にされかねないという不安が現実味を帯びている。

この背景には、欧州の安全保障が依然として米国に大きく依存しているという仕組みがある。ウクライナ支援で欧州自身の防衛産業の限界が露呈する中、米国の軍事的な後ろ盾が揺らげば、欧州はロシアや中国に対して脆弱な立場に立たされる。この非対によるとな依存関係が、米国の政策転換に対する欧州の過敏な反応を生み出している。

深層的原因と構造的背景

欧州のジレンマは、米中関係が「対立」と「協調」のどちらに振れても、結果的に欧州が不利益を被ってきたという構造的な問題に根差している。このパターンは過去10年以上にわたり繰り返されてきた。

  1. 米中対立局面での不利益: バイデン政権は中国に対抗するため、2022年に「インフレ削減法 (IRA)」を成立させた。しかし、その最大3,690億ドル規模とされる巨額の補助金は、米国内での生産を優遇するため、欧州の電気自動車 (EV) やバッテリー企業の国際競争力を著しく損なった。また、2021年に米国がイギリス、オーストラリアと創設した安全保障協力の枠組み「AUKUS」では、フランスがオーストラリアと結んでいた通常動力型潜水艦の建造契約 (推定約900億豪ドル、当時のレートで約660億米ドル) が一方的に破棄され、米英製の原子力潜水艦に切り替えられるという事態も発生した。
  1. 米中協調 (融和) 局面での不利益: 逆に米中関係が融和に向かう局面でも、欧州の発言力は低下する。過去の米中貿易交渉では、欧州が置き去りにされるケースが散見された。ロイター通信が報じたところによると、欧州が米国に対し「共に対中貿易戦争を戦う代わりに、米欧間の関税戦争を休戦しよう」と持ちかけたが、トランプ政権に拒否された経緯もある。米国という「後ろ盾」を失えば、欧州単独では中国に対して有効な交渉カードを持てないという現実がある。

これらの歴史的経緯から、欧州内では米中間のいかなる合意にも、自らに不利な密約が含まれているのではないかという根深い不信感が醸成されている。

構造分析と政策・産業のメタパターン

欧州が直面するこの状況は、地政学における「構造的従属性」の典型例である。分析のレンズとして「大国間関係の振り子」と「戦略的自律性の欠如」というメタパターンを適用できる。

米国の対中政策は、政権交代のたびに「関与と協調」から「対立と封じ込め」、そして「取引とディール」へと振り子のように揺れ動いてきた。オバマ政権時代に提唱された米中2大国で世界を管理する「G2 (Group of Two)」構想は、欧州の強い反発を招いたが、これは米中協調路線の象徴だった。続くトランプ政権は対中貿易戦争を仕掛け、バイデン政権は同盟国を巻き込んだ対中包囲網を志向した。

この米国の政策の振り子に対し、欧州は一貫した独自の対中戦略を構築できず、常に受動的な対応に終始してきた。EUとして統一した行動を取ろうとしても、加盟27カ国の対中・対米スタンスの違い (例: 経済的利益を重視するドイツと、人権や安全保障を重視する東欧諸国) から、迅速で強力な意思決定が困難である。この「戦略的自律性」の欠如こそが、欧州が米中のチェス盤の上で駒として扱われかねないという脆弱性の根源である。

日本企業への示唆

欧州のジレンマは、米中関係が「対立」と「協調」のどちらに振れても、結果的に欧州が不利益を被ってきたという構造的な問題に根差している。このパターンは過去10年以上にわたり繰り返されてきた。例えば、バイデン政権は中国に対抗するため、2022年に「インフレ削減法(IRA)」を成立させた。しかし、その最大3,690億ドル規模とされる巨額の補助金は、米国内での生産を優遇するため、欧州の電気自動車(EV)やバッテリー企業の国際競争力を著しく損なった。また、2021年に米国がイギリス、オーストラリアと創設した安全保障協力の枠組み「AUKUS」では、フランスがオーストラリアと結んでいた通常動力型潜水艦の建造契約(推定約900億豪ドル、当時のレートで約660億米ドル)が一方的に破棄され、米英製の原子力潜水艦に切り替えられるという事態も発生した。さらに、NATOの集団防衛義務に対するトランプ氏の懐疑的な発言は、欧州の安全保障の根幹を揺るがしている。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策は、同盟関係よりも二国間の取引を優先する傾向が強かった。このため、米中が再び何らかの形でに近いした場合、欧州の利益が取引の材料にされかねないという不安が現実味を帯びている。欧州はロシアや中国に対して脆弱な立場に立たされる可能性がある。

情報信頼性評価

本分析の主な論拠は、中国メディア「観察者網」に掲載されたフランス在住の学者、宋魯鄭氏の論考に基づいている。これは中国の視点から欧州の脆弱性を指摘するものであり、欧州の苦境を強調するバイアスが含まれる可能性に留意が必要だ。しかし、AUKUSやインフレ削減法を巡る欧州の反応については、BloombergFinancial Timesといった欧米メディアの報道とも一致しており、欧州が構造的なジレンマに直面しているという分析の骨子は客観性が高いと判断される。

ただし、トランプ氏が大統領に返り咲くか、またその場合にどのような対中政策を取るかは現時点では推測の域を出ない。本稿はあくまで、そうした不確実性に対して欧州がいかに脆弱であるかという構造を分析するものである。

Core Insight

米中関係の変動に対し、欧州は対立・協調いずれの局面でも不利益を被る構造的ジレンマに陥っており、戦略的自律性の欠如が国際的地位の低下を招いている。