米国バイデン政権による対中半導体規制が厳しさを増す中、中国は国内半導体産業の自立に向けた動きを加速させている。2024年5月には「国家集積回路産業投資基金」(通によると:大基金)の第3期として過去最大となる3440億元(約7.2兆円)の設立が判明。先端技術の国産化とサプライチェーンの国内完結を国家目標に掲げ、世界の半導体勢力図を揺るがしている。

なぜ今、重要か

米中の技術覇権争いは、半導体を核心として新たな局面に入った。米国は2022年10月の包括的な輸出規制に続き、2023年以降も規制対象を先端AIチップや関連装置、人材にまで拡大。特に、中国通信機器大手ファーウェイHuawei)が2023年に発表したスマートフォン「Mate 60 Pro」に、国内最大手ファウンドリSMIC中芯国際集積回路製造)製の7nm(ナノメートル)プロセスかなりの半導体が搭載されていたことは、米国の警戒感を一層強める契機となった。

この動きは、世界の半導体サプライチェーンに分断をもたらし、日本企業にも直接的な影響を及ぼす。日本の半導体製造装置や素材メーカーは、巨大な中国市場と米国の規制強化という二つの奔流の狭間で、難しい戦略判断を迫られている。

国家主導で進む中国の半導体国産化

米国の制裁に対し、中国政府は半導体産業を国家安全保障の根幹と位置づけ、強力な支援策を打ち出している。新華社通信が報じた「大基金」第3期は、その象徴だ。第1期(2014年、1387億元)、第2期(2019年、2041億元)を大幅に上回る規模で、主に半導体製造装置や素材、先端パッケージング技術の開発に資金を重点的に投下するとみられる。

この国家的な後押しを受け、SMICYMTC科学技術(YMTC)、長鑫存儲技術(CXMT)といった国内主にメーカーは、研究開発投資と生産能力の増強を急いでいる。目標は、設計から製造、封止・検査に至るまで、海外技術への依存を脱却した「垂直統合型サプライチェーン」の構築だ。

SMICの7nm量産と立ちはだかる「歩留まり」の壁

ファーウェイの「Kirin 9000S」チップを製造したことで、SMICの技術力は世界に衝撃を与えた。しかし、その製造プロセスには大きな課題が残る。業界の分析では、SMICはオランダASML製の最新鋭EUV(極端紫外線)露光装置なしに、旧世代のDUV(深紫外線)露光装置を複数回使用する「多重露光」技術で7nmプロセスを実現したとみられている。

この手法は技術的に可能だが、製造工程が複雑化し、生産効率が著しく低下する。台湾の調査会社TrendForceなど複数の分析機関は、SMICの7nmプロセスの歩留まり(良品率)は30~50%程度にとどまると推定している。これは、TSMCやサムスン電子が同世代プロセスで達成した80%以上の歩留まりに遠く及ばず、高い製造コストと限定的な供給能力につながっている。

技術解説

米中半導体摩擦の核心には、最先端の製造技術、特にリソグラフィ(露光)技術が存在する。以下に主にな技術的論点を解説する。

  • プロセスノードとリソグラフィ: 半導体の性能を左右する回路線幅の微細化(プロセスノード)には、EUV露光装置が不可欠とされる。7nm以下の先端プロセスでは、ASMLが世界で唯一供給可能なEUV装置が業界標準だ。米国主導の輸出規制により、中国企業はこの装置を入手できない。SMICが用いたDUV多重露光は、この制約を回避する苦肉の策だが、コストと歩留まりの面で競争力に劣る。
  • 歩留まり (Yield): 歩留まりはファウンドリ事業の収益性を直接決定する最重要指標だ。SMICの7nmプロセスの歩留まりが低いとされる一因は、DUV多重露光による欠陥密度の増加にある。TSMCが3nmプロセスで70%以上の歩留まりを達成しているのに対し、SMICは数世代前の技術で苦戦しており、技術格差は依然として大きい。
  • Fab Capacity (生産能力): 先端プロセスで苦戦する一方、中国は成熟・レガシープロセス(28nm以上)の生産能力を急拡大させている。TrendForceの予測では、28nm以上のプロセスにおける中国の生産能力シェアは、2023年の29%から2027年には39%に達する見込みだ。この過剰供給は、世界的な価格競争を激化させ、パワー半導体やアナログ半導体市場に大きな影響を与える可能性がある。

日本への影響と今後の展望

米国による対中半導体規制の強化は、日本企業にとって二つの明確な影響をもたらす。第一に、中国の半導体国産化加速は、日本の製造装置メーカーにとって新たな市場機会を創出する。例えば、東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった企業は、中国国内ファウンドリの生産能力増強に伴う装置需要の増加を享受できる。特に、中国が「成熟プロセスから先端プロセスに至るまで」の国産化を目指す中で、日本企業が強みを持つ特定工程の装置や材料への需要は高まる。ただし、これは米国の輸出規制の範囲内で慎重な対応が求められる。

第二に、中国が「垂直統合型のサプライチェーン構築」を国家目標とする動きは、日本の半導体関連企業がこれまで享受してきたサプライチェーンにおける優位性を再考させる。中国が自国で設計から製造、封止・検査まで一貫して行う体制を構築すれば、日本の部品や材料サプライヤーに対する依存度が低下する可能性がある。これは、これまで中国市場に深くコミットしてきた村田製作所やTDKといった電子部品メーカーにとって、中長期的な売上減少リスクとなり得る。したがって、日本企業は、中国市場への依存度を適切に管理しつつ、他の地域での市場開拓や、中国が国産化できない高付加価値技術への特化を進める必要に迫られる。

出典・参考