英紙ガーディアンは5月3日、ドナルド・トランプ前大統領が2024年の大統領選挙で勝利した場合、側近のピート・ヘグセス氏を国防長官に任命し、軍高官24人を更迭する計画を報じた。この計画は、大統領の権限に対する軍の抑制機能を損なう可能性があり、米国防総省(ペンタゴン)内で動揺が広がっていると報じている。

DEI政策への反発が背景か

同紙によると、トランプ氏が2025年1月に大統領に就任後、ヘグセス国防長官が具体的な理由を示さずに24人の将官や司令官に辞任または強制退役を命じるという。更迭対象には黒人や女性が約6割を占め、チャールズ・ブラウン統合参謀本部議長や、米海軍初の女性作戦部長であるリサ・フランケッティ提督といった軍首脳も含まれるとしている。

背景には、トランプ氏らが批判するDEI(多様性・公平性・包摂性)政策への反発があるとみられる。ヘグセス氏は過去、議会証言で軍指導部が人種や性別の問題に過度な関心を払っていると批判しており、今回の人事がその是正を意図している可能性を示唆する。

揺らぐ軍の抑制機能

更迭対象とされる高官らは専門知識が豊富で、これまで大統領の独断的な行動を抑制する役割を担ってきたとみられている。特に、核兵器の使用といった重大な軍事判断において、大統領に対する『安全装置』としての役割が期待されてきた。この大規模な更迭により、軍が伝統的に担ってきた抑制機能が失われる危険性が指摘されている。

軍事アナリストは、この人事が軍内部の士気を著しく低下させ、高官らが更迭を恐れて上層部に直言できなくなる風潮を助長すると警告したしている。結果として、非合法的・非倫理的な軍事命令が実行されるリスクが高まるとの懸念が広がる。

「プロジェクト2025」との関連性

この更迭計画は、保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が主導するトランプ政権2期目に向けた政策提言書『プロジェクト2025』の構想と一致する。同計画は、大統領の権限を大幅に強化し、政府機関を大統領に忠実な人材で固めることを目指すものだ。ヘグセス氏自身、トランプ氏の要求に無条件で応じる姿勢で知られる。

ある退役米陸軍大佐は同紙に「かつての政権でも文民と軍の間には緊張があったが、それはプロフェッショナルなものだった。今はただの混乱で、常軌を逸している」と語り、軍の意思決定システムが揺らいでいると警鐘を鳴らした。米国の安全保障政策の行方は、国際社会全体に影響を及ぼすため、今後の動向が注目される。

結論:日本への示唆

トランプ氏が再選し、国防長官にピート・ヘグセス氏が就任し、軍高官24人が更迭されれば、日本の安全保障環境に直接的な影響が及ぶ。まず、日米同盟における米軍の意思決定プロセスが不透明化するリスクがある。特に、チャールズ・ブラウン統合参謀本部議長やリサ・フランケッティ提督といった軍首脳が更迭対象に含まれることは、インド太平洋地域における米軍の戦略立案能力、特に中国に対する抑止力に混乱をもたらしかねない。彼らが培ってきた専門知識と経験が失われることで、有事における日米間の連携が円滑に進まなくなる恐れがある。

次に、米国の「DEI(多様性・公平性・包摂性)政策」への反発が背景にあるとされる今回の人事は、日本の防衛産業にも影響を及ぼす可能性がある。米軍がDEIを重視しなくなることで、関連する技術開発や装備品の調達方針が変更され、日本企業が米軍向けに提供している、あるいは今後提供を検討している技術や製品の需要に変化が生じるかもしれない。例えば、多様な人材活用を前提とした技術開発やサプライチェーン構築を進めてきた日本企業は、戦略の見直しを迫られる可能性がある。

最後に、「プロジェクト2025」に示唆される大統領権限の強化と軍の抑制機能の低下は、米国の対中政策の予測可能性を低下させる。トランプ氏が独断的な軍事判断を下すリスクが高まることで、台湾有事など、日本が直接的に巻き込まれる可能性のあるシナリオにおいて、米国の行動がより急進的になる、あるいは逆に予期せぬ形で後退する可能性も排除できない。日本は、米軍の意思決定構造の変化を注視し、自国の防衛戦略における自律性を高める必要に迫られるだろう。