中国の習近平国家主席が2023年末の祝辞で強調した「科学技術の自立自強」は、半導体分野で7ナノメートル(nm、ナノは10億分の1)製品の量産という形で一部具現化した。しかしその実態は、日本の製造装置や素材への深い依存という構造的課題を浮き彫りにする。中国の半導体製造装置の国産化率は2023年時点で21%に留まるとの業界推計もあり、先端工程では東京エレクトロンやJSRといった日本企業が供給する基幹技術が不可欠である。この供給網の存在が米国の次期規制の焦点となりつつあり、日本の関連企業は新たな地政学リスクに直面している。中国経済の規模と国内市場への期待、そして技術摩擦の狭間で、日本企業は岐路に立たされている。

DUV多重露光で到達した「7nmの壁」

中国が2023年に見せた技術的進展の象徴は、半導体受託製造大手の中芯国際集成電路製造SMIC)が華為技術(ファーウェイ)向けに供給した7nm世代のプロセッサーである。これは、輸出規制により最先端の極端紫外線(EUV)露光装置を導入できない中で、旧世代の深紫外線(DUV)露光装置を駆使して実現された。具体的には、オランダASML製の液浸DUV露光装置「NXT:2000i」などを利用し、同一の回路パターンを複数回焼き付ける多重露光(マルチパターニング)技術が用いられたと見られる。DUVの光源波長は193nmであり、本来7nmのような微細な回路を描くには不向きだが、この技術で物理的な限界に挑んだ形だ。しかし、この手法は工程数の増加を招き、ウエハー1枚あたりの処理時間が長くなるため、生産効率が著しく低い。台湾積体電路製造(TSMC)がEUV(波長13.5nm)を用いて7nmを製造する場合と比較して、SMICの方式は歩留まりが50%を下回り、製造原価は2倍以上になるとの民間調査機関の試算もある。SMICは2023年に前年比6%増の約75億ドル(同社IR発表)を設備投資に投じたが、その多くが成熟工程向けであり、DUVによる先端開発は収益を圧迫する要因となる。これは中国の技術的達成であると同時に、商業生産における「7nmの壁」の存在を示唆している。

なぜ日本の装置・材料は代替不能なのか?

中国の半導体国産化の試みは、製造工程の核心を担う日本の装置・材料企業への依存という現実と直面している。半導体製造は数百の工程から成り、特定の装置や材料が一つでも欠ければ全工程が停止する。例えば、回路パターンをウエハーに転写するリソグラフィー工程では、SMICが用いるDUV露光装置はASML製だが、その前工程でウエハー上に感光材(フォトレジスト)を均一に塗布・現像するコータ・デベロッパは東京エレクトロンが世界市場の約9割を占める。また、回路の焼き付けに使われるフォトレジスト自体も、JSRや信越化学工業、東京応化工業といった日本企業が先端品市場で9割以上の占有率を握る。さらに、リソグラフィー後のエッチング工程で回路を精密に削る装置では、東京エレクトロンが米ラムリサーチ、米アプライドマテリアルズと市場を三分しており、中国の国産装置では代替が効かない。中国政府は長江存儲科技(YMTC)や上海微電子装備(SMEE)といった国産装置・半導体メーカーに巨額の補助金を投じているが、装置の性能や信頼性は一朝一夕には向上しない。2023年の中国の半導体製造装置輸入額のうち、日本からの輸入は前年比91%増の59億ドルに達し(中国海関総署統計)、米国の規制強化を見越した駆け込み需要が日本の装置への依存度を一層高めた格好だ。この代替不能な供給網の存在が、中国の技術自立の最大の隘路となっている。

米国規制が狙う「日本の供給網」

米国の対中半導体規制は、新たな段階に入りつつある。2022年10月の規制ではEUV露光装置や14nm以下の先端半導体製造に関わる米国製装置の輸出を禁じたが、SMICがDUV装置で7nm品を製造したことで、規制に抜け道があったことが露呈した。これを受け、米商務省は規制対象をDUV露光装置の一部機種に拡大。さらに、装置だけでなく、その周辺を固める日本やオランダの関連技術へと網を広げようとしている。米国の次の狙いは、東京エレクトロンが独占するコータ・デベロッパや、日本の素材メーカーが供給する先端フォトレジスト、さらには回路の欠陥を検査するレーザーテックの検査装置など、中国が依存せざるを得ない「チョークポイント(要衝)」となる技術である。米国は2019年に韓国向けフッ化水素などの輸出管理を厳格化した日本の措置を、地政学的な手段として分析していると見られる。日本政府は2023年7月、先端半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加したが、これは米国の要請に沿った措置だ。今後、米国がDUVを用いた製造そのものを包括的に規制するよう日本に圧力を強める可能性は高い。そうなれば、日本の装置・材料メーカーは巨大な中国市場と、日米同盟に基づく安全保障の枠組みとの間で、難しい経営判断を迫られることになる。

国産化の矛先、成熟半導体市場へ

先端半導体の国産化で壁に直面する中国は、戦略の軸足を規制が緩い「成熟(レガシー)半導体」の分野に移している。成熟半導体とは、主に28nmより前の世代の技術で製造される半導体で、自動車、産業機器、家電製品などに幅広く使われる。米調査会社トレンドフォースの2024年1月の報告によれば、中国は2027年までに世界の成熟半導体生産能力における占有率を39%まで高める計画で、大規模な工場建設を進めている。この分野では、SMICや華虹半導体(Hua Hong Semiconductor)などが政府の補助金を背景に低価格攻勢をかけることで、世界市場の需給バランスを崩す恐れがある。すでにパワー半導体や液晶駆動IC(集積回路)の一部では価格下落が始まっており、日本のルネサスエレクトロニクスやローム、東芝といった企業が直接的な競合にさらされる。特に電気自動車(EV)や再生可能エネルギー設備に不可欠なパワー半導体は、日本の産業競争力の源泉の一つであり、中国の増産戦略は安全保障上の懸念にもつながる。経済産業省は2023年、国内のパワー半導体生産基盤強化のため、総額1000億円規模の支援策を打ち出したが、中国の国家主導の投資規模はその数十倍に上ると見られ、競争環境は厳しさを増す一方だ。先端分野での技術的封じ込めが、結果として成熟分野での過当競争を誘発するという新たな構図が生まれつつある。

日本企業が直面する選択

習氏の祝辞が示す「技術自立」と「経済成長」の両立という路線は、日本の半導体関連産業にとって、短期的な需要と中長期的なリスクが同居する複雑な状況を生み出している。中国の半導体工場新設計画は、東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった装置メーカーにとって巨大な商機であり続ける。2023会計年度の決算で、多くの日本企業が中国向け売上比率を過去最高水準に高めたのはその証左だ。しかし、この活況は米国の規制強化という時限爆弾を抱えている。日本企業は、中国への輸出を継続しつつも、米国の規制動向を注視し、抵触リスクのある製品の供給をいつでも停止できる体制を整えなければならない。同時に、中国による技術の模倣や人材引き抜きの脅威も増している。中国企業が日本の装置を分解・分析(リバースエンジニアリング)して国産化を急ぐ事例や、高額な報酬で日本の技術者を引き抜く動きは後を絶たない。こうしたリスクに対応するため、サプライチェーンの多元化や、研究開発拠点の国内回帰を加速させる必要がある。半導体材料を供給するJSRや信越化学工業は、台湾や米国での生産能力増強を急いでおり、地政学リスクを織り込んだ投資配分が標準となりつつある。中国という巨大市場への関与を維持しながら、いかに技術的優位性を守り、経済安全保障上のリスクを管理するか。その複眼的な戦略構築が、すべての日本企業に突きつけられた課題である。