中国の軍事技術近代化は、米国の輸出規制下で独自に進める半導体国産化、特に7ナノメートル(nm)級の製造技術確立が核心となりつつある。国家主導で中芯国際集成電路製造SMIC)などが深紫外線(DUV)露光装置を駆使し、限定的ながら量産体制を構築。これは民生品だけでなく、極超音速兵器などの演算基盤にも転用される可能性を秘める。しかし、その製造工程は日本のフッ化水素やフォトレジストといった基幹材料に依然として依存しており、供給網の脆弱性も同時に露呈している。この構造的依存が、東アジアの技術地政学における新たな火種となりかねない。

DUV多重露光で挑む7nmの壁

中国の半導体国産化の最前線は、EUV(極端紫外線)露光装置の輸入が絶たれた状況下で、既存のDUV装置を最大限活用して微細化の限界に挑む点にある。SMICが開発した「N+2」と呼ばれる7nm級プロセスがその象徴だ。これは、蘭ASML製の液浸DUV露光装置「TWINSCAN NXT:2000i」などを使い、回路パターンを複数回に分けて転写する多重露光技術に依存している。具体的には、自己整合ダブルパターニング(SADP)や自己整合四重パターニング(SAQP)といった手法で、装置本来の解像限界を超える回路線幅を実現する。物理的には、193nm波長のArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザー光を用いながら、成膜とエッチングの工程を繰り返すことで、実質的に38nmピッチ以下のパターン形成を可能にするものだ。しかし、この手法は工程数が指数関数的に増加し、製造時間とコストが膨れ上がる。台湾積体電路製造(TSMC)が2018年にEUVを用いて7nmプロセスを量産開始したのに比べ、約4年の技術的遅延と高い製造コストを甘受する選択と言える。調査会社TechInsightsが2022年7月に公表した報告書では、SMIC製7nm半導体が実際に市販の仮想通貨採掘機に搭載されていたことが確認されており、実験室レベルを超えて限定的ながら量産能力を保有していることが示された。SMICの2023年通期決算によれば、研究開発費は前年比6.9%減の6.7億ドルであったが、依然として高水準の投資を継続しており、DUVによる延命技術への注力がうかがえる。

国産化を阻む「装置と材料」の隘路はどこか?

中国の半導体自給戦略にとって最大の障壁は、製造装置と先端材料の海外依存である。特に、米国の輸出管理規則(EAR)に日本とオランダが2023年に同調したことで、先端半導体製造に必要な装置の入手はほぼ不可能になった。経済産業省が2023年7月23日に施行した外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく省令改正は、洗浄、成膜、露光、エッチングなど23品目を輸出許可対象とし、事実上、中国の先端プロセス開発を狙い撃ちしている。これにより、東京エレクトロンの先端エッチング装置やSCREENホールディングスの洗浄装置、アドバンテストの先端テスターなどの輸出が厳格に管理される。材料分野では、日本の存在感がさらに際立つ。EUV向けフォトレジスト(感光材)ではJSR、信越化学工業、東京応化工業などが世界市場の約9割を占有。DUV用でも日本の優位は揺るがない。また、半導体の基板となるシリコンウエハーでは信越化学とSUMCOが世界シェアの約6割を握る。半導体回路の洗浄やエッチングに不可欠な高純度フッ化水素も、ステラケミファや森田化学工業が高い品質で市場を寡占する。中国国内でも上海新陽半導体材料や南大光電などが代替品の開発を急ぐが、純度や安定供給の面で日本製品に及ばず、先端プロセスでの採用は限定的と見られる。財務省の貿易統計によれば、2023年の「半導体等製造装置」の対中輸出額は前年比10.7%増の1兆4,196億円に達したが、これは規制前の駆け込み需要が主因であり、規制強化後の2024年以降は減少が避けられない見通しだ。

軍民融合が加速する技術転用の実態

中国が進める「軍民融合」戦略は、民生技術の成果を軍事力強化に直結させる国家方針であり、半導体はその中核に位置づけられる。SMIC長江存儲科技(YMTC)といった半導体企業は、表向きは民生品向けを主力としながらも、その技術や製品が軍事転用されるリスクが常に指摘されてきた。例えば、SMICが製造する7nm級半導体は、スマートフォンやデータセンター向けだけでなく、偵察衛星の画像処理、極超音速滑空兵器の精密誘導、電子戦システムの信号処理など、高度な演算能力を要求される軍事用途への応用が懸念される。米国防総省が2023年10月に発表した「中国の軍事力に関する年次報告書」は、中国人民解放軍(PLA)が情報化・知能化戦争への対応を急いでおり、その基盤として国産高性能半導体の確保を最優先課題の一つに挙げていると分析した。実際に、米商務省産業安全保障局(BIS)は2020年12月にSMICを、2022年12月にはYMTCをエンティティ・リストに追加。これらの企業がPLAと関係が深い、あるいは米国の国家安全保障に反する活動に関与したと認定した。この措置は、米国製の技術やソフトウェアの輸出を厳しく制限するもので、中国の半導体企業と軍事部門の間の垣根を取り払うことを狙ったものだ。中国の防衛費は、公式発表ベースで2024年度予算が前年比7.2%増の1兆6,655億元(約34兆円)と30年連続で増加しており、その一部が半導体の研究開発や調達に充当されていると見られる。

2027年「台湾有事」想定と半導体供給網

中国の軍事近代化の目標時期として、専門家の間でしばしば言及されるのが2027年である。これは中国人民解放軍の創設100周年にあたり、習近平指導部が台湾統一に向けた軍事的能力の確保を目指す節目とされる。このシナリオにおいて、半導体供給網は決定的な役割を果たす。台湾は世界の半導体受託生産の6割以上、特に10nm以下の先端プロセスでは9割以上のシェアを占める(SIA、2023年報告)。台湾有事が発生すれば、TSMCや聯華電子(UMC)の工場が稼働停止に陥り、世界中の電子機器生産が麻痺するだけでなく、最先端の軍事装備品に不可欠な半導体の供給も途絶する。米国は、このリスクを低減するため、CHIPS法に基づき国内にTSMCやサムスン電子の工場を誘致し、供給網の多元化を急いでいる。米半導体工業会(SIA)の2024年2月の発表によると、CHIPS法による民間投資誘致額は累計で3,000億ドルを超えた。一方、中国も有事の際に西側諸国からの半導体供給が完全に停止することを想定し、国内での完結生産を目指している。DUVを用いた7nm級半導体の量産化は、最先端ではないものの、多くの軍事システムを稼働させるには十分な性能を持つ。有事を睨んだ供給網の再編競争は、平時における技術覇権争いそのものであり、米中両国が互いの脆弱性を突き合う展開となっている。

日本企業が直面する選択

中国の半導体国産化と軍事力強化の連環は、日本の製造装置・材料メーカーに複雑な選択を迫る。短期的には、規制対象外である28nm以上の成熟プロセス向け装置・材料の輸出が、中国市場における収益の柱であり続ける。SEMI(国際半導体製造装置材料協会)の2024年3月予測によれば、2024年の中国の半導体製造装置市場は400億ドル規模に達し、世界最大を維持する見通しだ。この巨大市場を無視することは現実的ではない。しかし、中長期的には二つの大きなリスクが顕在化する。一つは、技術流出と中国企業の追い上げだ。日本から輸出した装置や材料がリバースエンジニアリングの対象となり、中国の国産化を助ける結果につながる可能性がある。もう一つは、地政学的リスクの増大である。仮に台湾有事のような事態が発生した場合、日本企業は米国の対中全面禁輸措置に追随せざるを得なくなり、売上の大半を占める中国市場を一夜にして失う可能性がある。2019年の韓国向けフッ化水素輸出管理強化が日韓の外交問題に発展したように、先端材料は経済合理性だけでは動かせない戦略物資としての側面を強めている。日本企業は、中国市場での事業を継続しつつ、米国や欧州、東南アジアなどへの販路多様化と研究開発拠点の分散を加速する必要がある。それは、特定の国に依存する供給網の脆弱性を克服し、経済安全保障を確保するための不可欠な経営判断となるだろう。