中国の「第15次五カ年計画」(2026〜30年)は、半導体国産化を国家の最優先課題に据える新たな設計図となる。中芯国際集成電路製造(SMIC)が7ナノメートル(nm、ナノは10億分の1)世代の限定量産に成功したことを受け、次なる目標は製造装置と先端材料の自給率向上に明確に移行した。総額475億ドルに上る国家集積回路産業投資基金(大基金)第3期分を原資に、これまで日本や欧米に依存してきた領域への集中的な投資が始まる。この動きは、東京エレクトロンや信越化学工業といった日本の基盤技術企業に対し、中国市場での事業戦略の根本的な見直しを迫るものだ。単なる顧客であった中国企業が、国家の支援を受けた強力な競合相手へと変貌する未来が現実味を帯びてきた。
「質の高い発展」が指し示す技術の内実
中国指導部が掲げる「質の高い発展」という標語は、抽象的な経済目標ではない。半導体、人工知能(AI)、量子情報科学といった特定先端技術分野における「技術主権」の確立を指す、具体的な産業政策の方向性である。第14次五カ年計画(2021〜25年)期間中、中国の半導体分野への投資総額は、官民合わせて1500億ドルを超えたと米半導体工業会(SIA)は2023年1月の報告書で試算している。この巨額投資が、SMICによる7nm世代プロセッサーの製造や、長江存儲科技(YMTC)による232層NAND型フラッシュメモリーの開発といった成果につながった。
第15次計画では、この流れがさらに加速・先鋭化する見通しだ。焦点は、これまでの半導体設計・製造(ファウンドリー)から、米国の輸出規制で供給が途絶した製造装置と先端材料の国産化へと移る。特に、露光装置、エッチング装置、成膜装置といった半導体製造の中核をなす工程と、EUV(極端紫外線)用フォトレジストや高純度フッ化水素といった日本企業が世界市場で高い占有率を持つ素材分野が、国家基金の重点投資対象となる。中国科学技術省が2024年に発表した研究開発予算は、基礎研究分野で前年比13%増を記録しており、これが新材料や次世代半導体原理の探求に向けられていることは明白だ。この資源配分は、単なる輸入代替に留まらず、将来の技術標準を握ろうとする国家の強い意志の表れと見られる。
なぜ今、国産装置・材料が最優先なのか?
中国が半導体製造装置と材料の国産化を急ぐ直接的な引き金は、2022年10月に米国商務省産業安全保障局(BIS)が発動した広範な対中輸出規制である。この規制により、オランダASML製のEUV露光装置や、米ラムリサーチ、アプライドマテリアルズ製の先端エッチング・成膜装置の中国向け輸出が事実上停止した。これにより、中国が7nmより微細な世代の半導体を量産する道は閉ざされた。
この制約を乗り越えるため、中国は既存のDUV(深紫外線)露光装置を駆使する技術に活路を見出した。具体的には、回路パターンを複数回に分けて転写する「マルチパターニング」と呼ばれる技法だ。SMICが華為技術(ファーウェイ)向けに供給した7nmプロセッサー「Kirin 9000S」は、DUV液浸露光装置を用いた自己整合型四重パターニング(SAQP)技術で製造されたと分析されている。しかし、この手法は工程数が大幅に増え、歩留まり(良品率)が低く、製造費用が高騰する問題を抱える。EUVを用いる場合に比べて、同等のチップを製造する費用は40〜50%高いと業界専門家は指摘する。この非効率性を根本的に解決するには、装置そのものを自国で開発・製造する以外に選択肢はない。半導体製造装置の国内自給率は、米調査会社ガートナーの2023年調査によれば16%に留まるが、中国政府は2030年までにこれを70%へ引き上げるという非公式目標を掲げているとされる。この目標達成こそが、第15次計画における半導体戦略の核心部分となる。
国家基金3期、475億ドルの資金使途
2024年5月に設立が確認された国家集積回路産業投資基金の第3期は、過去最大となる475億ドル(約7.4兆円)規模に達した。第1期(約218億ドル)、第2期(約290億ドル)と比較して規模が大幅に拡大しただけでなく、その投資戦略も変化している。第1期、第2期がSMICやYMTCといった半導体製造企業(ファブ)への直接投資を主体としていたのに対し、第3期は半導体製造装置と材料メーカーへの配分が全体の6割を超えると見られている。
具体的な投資先として名前が挙がるのは、上海微電子装備(SMEE)や北方華創科技集団(NAURA)、中微半導体設備(AMEC)といった中国の製造装置メーカーだ。SMEEは、DUV液浸露光装置の開発で中心的な役割を担う。同社が開発中の「SSA/800-10W」は、解像度28nmに対応するとされ、マルチパターニングを組み合わせることで7nm世代の製造を理論上可能にする。NAURAとAMECは、それぞれエッチング装置と成膜装置で国内首位であり、東京エレクトロンやラムリサーチの代替を目指す。材料分野では、EUV用フォトレジストを開発する南大光電や、シリコンウエハーを手がける滬硅産業(NSIG)などが重点支援対象となる。この資金配分は、米国の規制が及ばない「成熟工程」向け装置から始め、段階的に先端分野へと国産化の範囲を広げる周到な戦略を反映している。
日本勢が握る「見えざる支配権」の行方
中国の国産化戦略が加速する中でも、日本企業が築いてきた参入障壁は依然として高い。特に、半導体製造に不可欠な素材分野では、日本勢の「見えざる支配権」とも言える寡占状態が続いている。例えば、EUVリソグラフィー工程で使われるフォトレジスト(感光材)は、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの日本4社で世界市場の約9割を占める。この微細な回路パターンをウエハーに焼き付けるための核心材料は、長年の経験と精密な化学合成技術の蓄積の賜物であり、後発企業が短期間で品質を模倣するのは極めて困難だ。
同様に、半導体の基板となるシリコンウエハーでは、信越化学工業とSUMCOの2社で世界市場の約6割を握る。不純物を極限まで排した高純度な単結晶インゴットを引き上げる「チョクラルスキー法」のノウハウや、原子レベルで表面を平坦化する研磨技術は、一朝一夕に獲得できるものではない。さらに、回路パターンを刻むエッチング工程で不可欠な高純度フッ化水素では、ステラケミファや森田化学工業が支配的な地位を占める。これらの素材は、たとえ中国が製造装置の国産化に成功したとしても、最終的な半導体の性能と歩留まりを左右する「最後の砦」となり得る。2019年に日本政府が実施した韓国向け輸出管理の厳格化が、韓国半導体産業に与えた衝撃の大きさは、素材の戦略的重要性を物語っている。
日本企業が直面する二つの選択肢
中国の第15次五カ年計画が本格始動する今後5年間で、日本の半導体関連企業は厳しい選択を迫られることになる。一つは、米国の規制と歩調を合わせ、先端技術の中国への流出を阻止する「デカップリング(分断)」路線への傾斜だ。これは経済安全保障上の要請であり、政府の政策とも整合性が高い。しかし、世界最大の半導体市場である中国を失うことは、東京エレクトロンにとって売上高の約4割(2024年3月期決算)、SCREENホールディングスにとっては約3割(同)を失うことを意味し、短期的な業績への打撃は避けられない。
もう一つの選択肢は、米国の規制が及ばない成熟工程向けの装置や汎用材料に特化し、中国市場に残り続ける「リスク管理型共存」路線である。中国が国策として推進する電気自動車(EV)や産業用機器向けのパワー半導体やアナログ半導体は、28nm以上の成熟工程で製造されるものが大半を占める。この分野では、依然として日本製の高品質な装置や材料への需要は根強い。ただし、この戦略も安泰ではない。国家基金の支援を受けた中国企業が成熟分野で急速に技術力を向上させ、価格競争力で日本勢を脅かす可能性は高い。事実、中国の成熟工程向け半導体製造能力は、台湾の調査会社TrendForceの予測によれば、2027年までに世界シェアの39%に達する見込みだ。日本企業は、自社の技術的優位性がどこにあるのかを冷静に見極め、先端分野での研究開発を継続しつつ、中国市場との関わり方を再定義する必要がある。もはや、過去の成功体験に基づいた戦略は通用しない局面に入った。