2024年の春節(旧正月)商戦で、Alibabaテンセントなど中国のテクノロジー大手が、生成AIを活用した大規模な販促キャンペーンを展開した。各社は合計で80億元(約1700億円)以上を投じ、自社のAIサービスの利用拡大とユーザー獲得を競った。

巨額投資でAIの利用者を争奪

春節の風習である「紅包(ホンバオ、お年玉)」の配布キャンペーンは、近年スマートフォンの決済アプリなどがユーザー獲得のために繰り広げる激しい販促合戦の場となっている。今年は、その主役が生成AIに移った形だ。

新華社通信によると、Alibabaはクラウド部門が開発した大規模言語モデル(LLM)「Qwen通義千問)」の関連サービスに30億元を投入。テンセントもAIアシスタントアプリ「元宝」に10億元バイドゥは対話型AI「文心一言」の関連サービスに5億元を投じた。ByteDanceのLLM「豆包」やJD.com(JD.com(京東))もキャンペーンに参戦し、市場は過熱した。

各社のAI戦略と狙い

各社は巨額の投資を通じて、単なるユーザー獲得だけでなく、自社のAIを社会インフラとして定着させることを目指している。今回のキャンペーンは、そのための大規模な実証実験と位置づけられる。

Alibabaは、あらゆるサービスにAIを統合する「AIアシスタント構想」を推進。テンセントは「元宝」をSNSなど既存サービスと連携させ、ソーシャル分野でのAIの主導権確保を狙う。ByteDanceは「豆包」を、得意とする動画などのコンテンツ生成ツールとして普及させたい考えだ。各社はAIを次世代のプラットフォームの中核と捉え、覇権争いを繰り広げている。

日本にとっての意味

中国IT大手の生成AIへの巨額投資は、日本企業にとって複数の具体的な影響をもたらす。まず、Alibabaが「Qwen」関連サービスに30億元、テンセントが「元宝」に10億元を投じたように、中国市場におけるAI技術の進化と普及速度は日本企業の想像を上回る可能性がある。これは、中国市場で事業展開する日本企業が、AIを活用した顧客体験やサービス提供において、現地の競合他社に後れを取るリスクを顕在化させる。例えば、日本の小売企業が中国でEC事業を展開する際、AIによるパーソナライズされた販促や顧客対応で、中国企業が圧倒的な優位性を確立する恐れがある。

次に、この巨額投資は、中国AI技術の国際競争力向上を加速させる。特に、ByteDanceの「豆包」のように、動画コンテンツ生成に特化したAIが普及すれば、日本のコンテンツ産業やクリエイターは、より効率的かつ低コストで高品質なコンテンツを生成する中国企業との競争に直面する。これは、日本のコンテンツ輸出戦略において、技術的優位性の確保が喫緊の課題となることを示唆する。

最後に、中国IT企業が合計80億元以上を投じてAIを社会インフラとして定着させようとしていることは、日本企業にとって新たなビジネス機会も生み出す。例えば、中国のAIエコシステムと連携し、日本独自の技術やコンテンツをAIプラットフォーム上で展開することで、新たな市場を開拓できる可能性がある。ただし、そのためには、中国のAI技術動向を深く理解し、自社の強みを活かせるニッチな領域を見極める戦略的視点が不可欠となる。