Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOは、AI開発の焦点が技術的な性能向上から収益性へと移行しているとの見解を示した。同氏は、現在のAIの限界を指摘し、次世代の鍵として物理世界を理解・予測する「世界モデル」の重要性を強調。商業化を加速させるための具体的な製品戦略についても語った。
大規模化の限界と「不均衡な知能」
AI分野における最重要キーワードは、もはや性能の高さを示す「強力さ」から、事業としての「収益性」へと移りつつある。米メディアCNBCが2026年1月16日に開始した新ポッドキャスト「The Tech Download」の初回ゲストとして登場したハサビスCEOは、AIの商業化について議論を展開した。
ハサビス氏は、現在の大規模言語モデル(LLM)が持つ能力を「不均衡な知能」と表現。特定のタスクでは驚異的な性能を発揮する一方で、少し異なる問題には全く対応できないという脆弱性を指摘した。また、継続的な自己学習能力の欠如も課題であるとした。
次世代AIの鍵「世界モデル」
ハサビス氏が次なるステップとして位置付けるのが「世界モデル」だ。これは、単に言語を理解するだけでなく、物理的な世界がどのように機能するかをAI自らが想像し、シミュレーションを通じて検証する能力を持つモデルを指す。
同氏は、真に汎用性を備えたAIは、自ら問いを立て、世界に関する仮説を構築・検証する能力が必要不可欠だと考えている。Google DeepMindは研究開発の重点を、既存のLLMからこの「世界モデル」へとシフトさせているという。
商業化を加速させる製品戦略
技術的なブレークスルーと商業的な成功は別の課題だ。ハサビス氏は、単一の巨大モデルに依存するのではなく、複数の特化型モデルが協調して動作することで、より実用的なAIが実現するとの考えを示した。
その戦略を具現化するのが、GoogleのAIモデル「Gemini」の製品ラインナップだ。最高性能の「Pro」版だけでなく、より高速で多様なユースケースに対応するための軽量版「Flash」を同時に開発。これにより、幅広い顧客ニーズに応え、AIの実用性と収益性を高める狙いだ。
日本への影響と示唆
Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOが指摘するAIの「収益性」への焦点移行は、日本企業にとってAI戦略の再考を促す。特に、生成AIへの過剰な期待から、具体的な事業貢献への転換が求められる。
ハサビス氏が提唱する「世界モデル」への研究シフトは、日本の製造業やロボティクス分野に新たな機会をもたらす可能性がある。物理世界を理解・予測するAIは、工場での生産最適化、自律移動ロボットの精度向上、災害予測システムなど、日本が強みを持つ領域での活用が期待される。例えば、トヨタやファナックのような企業が、この技術を導入することで、生産効率の大幅な向上や新たなサービス開発に繋がるだろう。
一方で、Googleが「Gemini」で示す「Pro」と「Flash」のような多角的な製品戦略は、日本のAI開発企業にとって競争激化を意味する。単一の高性能モデルに固執せず、軽量版や特定用途に特化したAIモデルの開発・提供が不可欠となる。これにより、中小企業や特定業界へのAI導入が加速し、新たな市場が創出される可能性もある。日本のAIスタートアップは、特定のニッチ市場に焦点を当てた軽量モデルの開発で差別化を図るべきだ。
最終的に、AIの技術革新が「収益性」へと向かう中で、日本企業は単なる技術導入に留まらず、AIを自社の事業モデルにどう組み込み、具体的な価値を生み出すかを戦略的に検討する必要がある。