アルファベットの2026年4〜6月期決算を詳しく分析。売上高1,198億ドル、クラウド事業82%増と好調だった一方、純利益1,121億ドルの大半はAnthropic株の評価益によるものだった。設備投資は449億ドルに達し、フリーキャッシュフローは上場以来初めて四半期ベースで赤字となった。

米国東部時間2026年7月22日の取引終了後、グーグルの親会社アルファベットが2026年4〜6月期決算を発表した。売上高、利益ともに市場予想を上回り、クラウド事業の売上高は前年同期比82%増と大きく伸びた。見出しの数字だけを見れば、申し分のない四半期決算である。

しかし、決算発表後の時間外取引では株価が一時4%超下落した。市場が注目したのは、決算書に並ぶ二つの「初めて」の数字だった。一つは、過去最高となった純利益の大半が、Anthropic株の評価益という会計上の利益だったこと。もう一つは、設備投資の急拡大によって、四半期ベースのフリーキャッシュフローが上場以来初めて赤字に転じたことである。

世界有数の収益力を誇る企業が、AIインフラへの巨額投資によって、キャッシュフロー構造の転換点を迎えた。本稿では、まず損益計算書を基に、事業が生み出した利益と一時的な会計上の利益を切り分けて整理する。その上で、四半期449億ドルという巨額の設備投資が、データセンターやAI基盤にどのように振り向けられているのかを詳しく読み解く。

本稿は株価の予想や投資判断を目的とするものではない。焦点を当てるのは、AIへの巨額投資が企業の収益構造とキャッシュフローをどのように変えつつあるのか、その産業構造の変化である。

損益計算書を1枚で ― 四半期と上半期の実額

まず、公表された損益計算書を、前年との比較で並べる。単位は百万ドル(1株当たり利益はドル、株式数は百万株)。

項目(単位:百万ドル)2025年4-6月2026年4-6月前年比
売上高96,428119,796+24.2%
売上原価39,03945,943+17.7%
研究開発費13,80818,219+32.0%
販売・マーケティング費7,1018,403+18.3%
一般管理費5,2096,461+24.0%
費用合計65,15779,026+21.3%
営業利益31,27140,770+30.4%
その他利益(純額)2,66297,983約36.8倍
税引前利益33,933138,753+308.9%
法人税5,73726,560+362.9%
純利益28,196112,193+297.9%
普通株主に帰属する純利益28,196112,107+297.6%
基本1株当たり利益(ドル)2.339.23+296.1%
希薄化後1株当たり利益(ドル)2.319.11+294.4%

上半期の累計でも、同じ形が現れる。

項目(単位:百万ドル)2025年1-6月2026年1-6月前年比
売上高186,662229,692+23.1%
営業利益61,87780,466+30.0%
その他利益(純額)13,845135,699約9.8倍
税引前利益75,722216,165+185.5%
純利益62,736174,771+178.6%
希薄化後1株当たり利益(ドル)5.1214.24+178.1%

売上高は前年から24%伸びて1,198億ドル。二桁の増収は、これで12四半期続いた。営業利益は408億ドルで、伸び率は30%、営業利益率は34%に上がった。ここまでは、本業がしっかり伸びている証拠だ。目を引くのは、その下の一行である。営業利益から純利益へ下りていく途中で、数字が一気に膨らむ。犯人は「その他利益」だ。前年の27億ドルから、今年は980億ドルへ跳ね上がっている。

純利益1,121億ドルの、980億ドルは「紙の利益」

その他利益に計上された約980億ドルの正体は、本業で稼いだお金ではない。アルファベットが持つAnthropicやSpaceXといった未公開企業の株式が、評価額の上昇によって膨らんだ「含み益」、すなわちまだ売って現金にしていない未実現の評価益である(Fortune)。純利益が前年から298%も跳ねた最大の理由は、事業の成果ではなく、手元に持つAIスタートアップの株が帳簿の上で高く評価し直されたことにあった。

だから、見出しの1株当たり利益9.11ドルという数字を、そのまま実力と受け取ると読み違える。含み益などの一時的な要因を取り除いた調整後の1株当たり利益は、市場予想をわずかに下回った。ある集計では調整後2.85ドルで、予想の2.89ドルに届かなかった([対象決算報道])。含み益を除けば、調整後の利益はこれで2四半期続けて予想に届いていない。過去最高益という言葉の内側で、本業の利益はむしろ市場の期待をかすかに下回っていた。決算書の「その他利益 2,662→97,983」という一行が、その落差をそのまま映している。

含み益は、株価ならぬ評価額が動けば、次の四半期には逆に利益を押し下げる方向にも振れる。AnthropicやSpaceXへの出資は、AIの覇権争いに一枚噛むための布石であると同時に、四半期ごとの利益を大きく揺らす変動要因を、決算書の中に抱え込むことでもある。投資家がこの会社の稼ぐ力を測るなら、見るべきは膨らんだ純利益ではなく、営業利益とその中身のほうだ。

純利益はこう膨らんだ ― 営業利益に「含み益」が乗る
純利益はこう膨らんだ ― 営業利益に「含み益」が乗る

なぜ四半期に449億ドルを設備投資に注ぐのか ― AI基盤の中身

市場の神経を逆なでしたもう一つの数字が、設備投資だ。4月から6月の設備投資は449億ドルに達し、前年からほぼ倍増した。会社は2026年通期の設備投資の見通しを、それまでの1,800億〜1,900億ドルから、1,950億〜2,050億ドルへと引き上げた(CNBC)。新しく就いた最高財務責任者アナト・アシュケナジは、2027年の設備投資は「さらに大幅に増える」とまで踏み込んだ。

この途方もない額が、いったい何に化けているのか。行き先は、AIを動かす土台そのものだ。アルファベットの強みは、AIの計算基盤を、部品から末端の製品まで一社の中で垂直に積み上げている点にある。土台の底には、グーグルが自社設計する専用の計算チップTPU(テンソル処理装置)がある。NVIDIAのGPUを買うだけでなく、自前のチップを持つことで、AIの学習と推論にかかる計算を、より安く、自社の用途に合わせて回せる。そのチップを何万個も収めるのが、世界中に建てるデータセンターだ。冷却も電力も、AIの重い計算に合わせて設計する。その上で動くのが、基盤モデルGeminiであり、さらにその上に、検索やクラウドといった、利用者と企業が実際に触れる製品が乗る。449億ドルは、この積み木のいちばん下の二段、すなわちチップとデータセンターを、猛烈な速さで積み増すための費用である。

449億ドルが積み上げるもの ― チップから製品までの垂直統合
449億ドルが積み上げるもの ― チップから製品までの垂直統合

積み増しの目的は、はっきりしている。AIの計算需要が、供給を上回り続けているからだ。学習を終えたモデルを、毎日、世界中の利用者が使う。その一回ごとに計算資源を食う。土台の能力が足りなければ、需要を取りこぼす。だからこそ、稼いだ利益を、次の計算能力へと惜しみなく回す。問題は、その速度が、稼ぐ現金の速度を追い越し始めたことにある。

上場以来はじめて、稼ぐより使った四半期

設備投資の重さは、現金の流れに、これまでなかった形で表れた。サーバーやデータセンター、設備の購入に充てた現金が、本業の営業活動で生み出した現金を上回り、フリーキャッシュフロー、すなわち自由に使える手元の現金の増減が、マイナス59億ドルに転じた(BigGo Finance)。強い現金創出力こそがこの会社の代名詞だっただけに、上場から数十年で単四半期のフリーキャッシュフローが赤字になったのは、これが初めてだ。

足りない現金は、外から調達した。アルファベットは6月に株式の発行で496億ドルを、四半期中に上位無担保社債の発行で203億ドルを、それぞれ市場から集めている。自前の現金で設備を賄ってきた会社が、AIの土台を築くために、借り入れと増資に手を伸ばした。投資情報サイトInvesting.comの上級アナリスト、トーマス・モンテイロは、この構図をこう突いた。「市場でもっとも信頼できる現金の作り手が、いまや稼ぐより多くを使っている。売上の伸びが加速し続ける限り、投資家は我慢できるかもしれない。だが、許される失敗の幅は、四半期ごとに狭くなっている」([対象決算報道])。

稼ぐより使う ― フリーキャッシュフローが初めて赤字に
稼ぐより使う ― フリーキャッシュフローが初めて赤字に

クラウドの受注残5,140億ドルが支える賭け

それでも経営陣が強気を崩さないのは、需要の裏づけが数字で見えているからだ。この四半期の最大の見せ場は、クラウド事業だった。売上高は前年の136億ドルから248億ドルへ、82%も伸びた。企業向けのAI解決策、AIの計算基盤、そして基本的なクラウドサービスへの需要が、まとめて伸びている。将来の売上を約束する受注残の総額は、前の四半期の4,600億ドルから5,140億ドルへと膨らみ、その半分以上は今後24か月のうちに売上へ変わる見込みだという(9to5Google)。土台への投資が、絵に描いた餅ではなく、契約という形の需要に支えられていることを、この受注残が示している。

AIが製品の隅々まで染み込んでいる速さも、桁が大きい。Geminiのモデルが外部の開発者向けの窓口を通じて処理する量は、1分あたり220億トークンに達した。対話アプリGeminiの月間利用者は9億5,000万人、グーグル検索のAIモードの月間利用者は10億人を超えた(X/amitisinvesting)。最高経営責任者スンダー・ピチャイは、この局面を「まだ非常に、非常に早い段階だ」と表現し、企業の仕事のうちAIに載せ替えられた割合はごくわずかにすぎないと語った。アシュケナジも、過去3年で設備能力を大きく広げたにもかかわらず、需要の伸びがなお投資の伸びを上回っていると応じている。土台が足りないのではなく、需要が土台を追い越している、という主張だ。

出資と売上が輪になる ― AI景気の見えにくい循環

この決算の二つの見出し、すなわち含み益で膨らんだ純利益と、82%伸びたクラウドは、たどっていくと同じ一社に行き着く。Anthropicだ。アルファベットはこのAI企業に、最大400億ドルの出資を決めている。まず100億ドルを入れ、残る300億ドルは成果に応じて出す枠組みだ(Anthropic)。Anthropicの評価額は、収益の年換算が2025年末のおよそ90億ドルから300億ドル超へと跳ねるなかで急上昇した。持ち株の評価額が上がって生まれた、あの980億ドルの含み益の相当部分は、この一社の値上がりが押し上げている。

輪は、ここで閉じない。そのAnthropicは、今後5年でグーグルのクラウドに2,000億ドルを使うと約束している。グーグルは2025年10月、Anthropicに最大100万個のTPUを提供する取り決めを結び、2026年4月には、これを次世代のTPUで数ギガワット規模へと広げた(Google Cloud)。グーグルの資金がAnthropicへ流れ込んで決算に含み益として映り、Anthropicの資金がグーグルのクラウドへ戻ってきて売上と受注残になる。この四半期を沸かせた二つの数字は、出資と支払いが輪になった、同じ関係の表と裏だった。

こうした輪は、いまのAI景気のあちこちで回っている。計算資源を売る側が、買う側に出資し、その出資先が売上を連れてくる。景気が広がっている間は、評価額も、売上も、受注残も、互いを高め合う。だが、AIへの需要がどこかで冷えれば、含み益とクラウドの受注残は、同じ一群の企業の浮き沈みを土台にしている分、そろって縮む方向へ振れうる。華やかな数字の下で静かに太っているのは、利益と成長が一社の運命へ絡み合い、互いを映し合う構造そのものだ。

出資と売上の循環 ― グーグルとAnthropic
出資と売上の循環 ― グーグルとAnthropic

強気の主張と、赤字に転じた現金。この二つのあいだで、アルファベットは賭けている。土台を今のうちに、借金をしてでも積み増しておけば、AIの計算需要という広大な市場を、供給の側から押さえられる。含み益で膨らんだ純利益は、その賭けの派手な飾りにすぎない。日本の投資家がこの決算から読み取るべきは、過去最高益という見出しではなく、世界最強の現金製造機ですら自前の現金では賄いきれないほど、AIの土台づくりが桁を変えたという事実のほうだ。その土台の底で回るチップとデータセンターの需要こそが、半導体をめぐる次の争いの震源になる。