米国のバッテリー素材リサイクル大手Ascend Elementsが4月10日、連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請し、経営破綻した。複数の海外メディアが報じた。同社は革新的なリサイクル技術を武器に、バッテリー製造における中国依存からの脱却を目指していたが、工場の稼働遅延と巨額の赤字が経営を圧迫し、計画の継続を断念した。この破綻は、欧米が国家戦略として推進するバッテリー産業の「脱中国化(デカップリング)」の困難さを象徴している。

革新技術に11億ドル超の資金、政府も支援

Ascend Elementsは、使用済みバッテリーからニッケル、コバルト、マンガンなどの希少金属を効率的に回収し、それを直接正極材の前駆体(PCAM)として再利用する独自技術を開発。このプロセスは従来の複雑な精錬工程を簡略化し、コストを約59%、炭素排出量を50%削減できるとして注目を集めていた。

同社はシンガポール政府系投資会社のテマセクやブラジル資源大手のVale、韓国SKグループといった有力な機関投資家から累計11億ドル(約1700億円)以上の資金を調達。米国エネルギー省からも4億8000万ドルの補助金を得るなど、官民双方から大きな期待を寄せられていた。

巨額赤字と建設遅延が招いた破綻

しかし、ケンタッキー州で進めていた大規模工場の建設で、設計と施工を同時に進める「ファストトラック方式」を採用したことが裏目に出た。設計変更が重なり、当初計画から18カ月以上の遅延が発生。追加コストは1億3840万ドルに膨れ上がった。

2025年半ばの時点でも工場の進捗率は50%にとどまり、商業生産のめどは立っていなかった。これに加え、原材料価格の乱高下も重なり、深刻な資金繰り悪化に追い込まれた。

「脱中国化」という高い壁

正極材はリチウムイオン電池のコストの約4割を占める重要部材だ。現在、その生産能力の70~80%を中国が占有しており、特にリン酸鉄リチウム(LFP)電池の分野ではシェアが95%を超えるなど、圧倒的な地位を築いている。

バッテリーリサイクル産業においても、中国はすでに規模の経済を確立している。米国は正極材のサプライチェーンを依然として中国からの輸入に大きく依存しているのが現状だ。Ascend Elementsの破綻は、こうした構造的な依存から脱却しようとする欧米の試みが、技術的・経済的な「現実の壁」に直面していることを浮き彫りにした。

日本への影響と今後の展望

Ascend Elementsの破綻は、日本のバッテリー産業にとって複数の示唆を与える。第一に、脱中国化の困難さを再認識させる。同社はコストを59%削減できる革新技術を持ち、米国エネルギー省から4億8000万ドルの補助金を得ながらも、工場建設の遅延と追加コスト1億3840万ドルに直面し破綻した。これは、地政学的リスクを背景にしたサプライチェーン再編がいかにコストと時間を要するかを示しており、日本企業が中国依存度が高い正極材サプライチェーンから脱却する際、同様のリスクを覚悟する必要がある。

第二に、バッテリーリサイクル技術への投資機会とリスクの再評価が求められる。Ascend Elementsの技術は、ニッケル、コバルト、マンガンを効率的に回収するものであり、日本企業が強みを持つリサイクル技術と競合する可能性があった。同社の破綻は、この分野での技術的優位性だけでは事業化が困難であることを示唆しており、日本企業は技術開発だけでなく、サプライチェーン全体での安定供給体制構築とコスト競争力確保の重要性を認識すべきだ。

第三に、LFPバッテリー分野における中国の圧倒的優位性を再確認させる。LFP電池の生産シェアが95%を超える中国の現状は、日本企業がこの分野で市場参入する際の障壁の高さを物語る。日本企業は、全固体電池などの次世代技術や、ニッケル系正極材など異なるアプローチでの競争優位確立に注力し、中国とは異なるニッチ市場や高付加価値分野での差別化戦略を加速させる必要がある。