2024年1月に米国で承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)が、安全資産とされる金(ゴールド)と同様の構造的な買い需要を生み出す可能性が浮上している。米資産運用会社Bitwiseの専門家は、機関投資家からの継続的な資金流入がビットコイン価格を中長期的に支えるとの見方を示す。一方で、両市場の構造的な違いから、価格変動リスクは依然として大きいとの指摘もあり、ビットコインが「デジタル・ゴールド」としての地位を確立できるか、市場関係者の注目が集まっている。
事実の整理
発端は、米資産運用会社Bitwiseの最高投資責任者(CIO)、マシュー・ホーガン氏による分析だ。同氏は、2022年のロシアに対する西側諸国の制裁以降、各国中央銀行が外貨準備として金の購入を加速させたことが、その後の金価格を押し上げた構造的要因だと指摘。この動きと、2024年1月以降のビットコイン現物ETFへの大規模な資金流入との間に類似性を見出している。
実際に、ブラックロックやフィデリティなどが運用する米国のビットコイン現物ETFには、運用開始から約半年で累計150億ドルを超える純資金流入が観測されている。これに対し、HashKey Groupの上級研究員ティム・サン氏は、買い手層の違いを強調。金の主な買い手は通貨の信用リスクをヘッジする中央銀行であるのに対し、ビットコインは依然としてリスク資産として投機的に取引される傾向が強いと分析している。この分析は暗号資産メディアCoinDesk Japanも報じている。
表層的原因と直接的仕組み
今回の議論の直接的な引き金は、ビットコイン現物ETFという金融商品の登場だ。この仕組みにより、これまでコンプライアンスやカストディ(資産保管)の問題でビットコインを直接保有できなかった機関投資家や、取引口座の開設をためらっていた個人投資家が、証券口座を通じて容易にビットコイン市場へアクセスできるようになった。
ETFの運用会社は、投資家からの資金流入に応じて、市場で現物のビットコインを買い付ける必要がある。この「組成(Creation)」のプロセスが、市場に継続的な買い圧力を生み出す。逆に資金が流出すれば「償還(Redemption)」のために現物を売却するが、現状では流入が上回っており、これが価格の下支え要因として機能している。このメカニズムが、ホーガン氏の指摘する「構造的な買い」の正体である。
深層的原因と構造的背景
この現象の背景には、金融市場における資産クラスの世代交代という長期的なトレンドが存在する。金は、1971年のニクソン・ショックによる金ドル兌換停止以降、法定通貨の価値が揺らぐ局面で信頼される価値保存手段としての地位を確立した。特に2004年に米国で初の金ETF「SPDRゴールド・シェア(GLD)」が上場すると、投資のハードルが劇的に下がり、その後の金価格の長期上昇を支えた。
ビットコインは、2008年の世界金融危機を背景に、中央集権的な金融システムへの不信から生まれたという歴史的経緯を持つ。今回のビットコイン現物ETFの承認は、20年前の金ETFの登場をなぞるものであり、ビットコインが投機対象から制度化された資産クラスへと移行する転換点と見る向きが多い。ワールド・ゴールド・カウンシルの2024年第1四半期報告によると、中央銀行は同四半期に290トンの金を購入しており、この安定した需要構造とビットコイン市場を比較する分析が活発化している。
しかし、両市場の成熟度には大きな隔たりがある。金の市場規模は推定15兆ドルに上るのに対し、ビットコインは約1.3兆ドル(2024年6月時点)と10分の1以下だ。市場の厚みが薄いことに加え、デリバティブ市場での高いレバレッジ比率が、ビットコイン特有の高いボラティリティ(価格変動率)を生む構造的要因となっている。
構造分析と政策・産業のメタパターン
一見無関係に見える中国の動向も、この文脈で重要な示唆を与える。中国本土では2021年に暗号資産の取引およびマイニングが全面的に禁止された。これは、資本流出の厳格な管理と、金融システムの安定を最優先する中国共産党(CCP)の一貫した姿勢の表れだ。同時にに、中央銀行デジタル通貨「デジタル人民元(e-CNY)」の開発を推進し、決済システムに対する国家の統制を強化する狙いがある。
その一方で、2024年4月には香港でビットコインとイーサリアムの現物ETFが承認された。これは、本土の厳格な規制とは対照的な動きであり、「一国二制度」を利用して香港を国際金融ハブとして維持しつつ、管理可能な範囲でデジタル資産市場への関与を続けるという非対によるとな戦略が推察される。本土の投資家は直接購入できないものの、この動きは、中国がデジタル資産の潜在的な可能性を完全にに無視しているわけではないことを示唆している。分散型資産を警戒しつつも、その技術や市場を外部(香港)で観察・利用するこのパターンは、過去の経済特区政策にも通じるものがある。
日本にとっての意味
ビットコインETFの構造的買い圧力は、日本企業にとって新たな資金調達・運用機会を創出する可能性がある。特に、HashKey Groupが指摘するビットコインのレバレッジ比率の高さや取引の活発度は、日本企業のデジタル資産を活用した資金調達(STOなど)において、より流動性の高い市場形成に寄与するかもしれない。しかし、その高いボラティリティは、企業会計における評価損リスクや、日本銀行の金融政策への影響を考慮する必要がある。
また、Bitwiseのホーガン氏が指摘する金市場の中央銀行による構造的買いは、日本企業が中国市場で事業展開する上で、人民元のデジタル化や、中国政府系ファンド(SWF)によるデジタル資産投資の動向を注視する重要性を示唆する。中国がデジタル人民元を国際決済に活用する動きを加速すれば、日本企業は貿易決済におけるデジタル資産の利用を検討せざるを得なくなる。この際、ビットコインが金と同様の安全資産としての地位を確立するか否かは、日本企業のサプライチェーンや国際取引におけるリスク管理に直結する。
さらに、ビットコインの価格変動が金よりも激しいというティム・サン氏の警鐘は、日本企業が暗号資産をバランスシートに組み入れる際の慎重なリスク評価を促す。特に、日本企業の多くが保有する外貨準備や、海外子会社の資金管理において、ビットコインの変動性が予期せぬ為替リスクや資産価値の毀損をもたらす可能性があり、新たなリスクヘッジ戦略の構築が求められる。
情報信頼性評価
本分析の主にな情報源は、資産運用会社(Bitwise)とリサーチ機関(HashKey Group)の専門家による見解である。BitwiseはビットコインETFを運用する当事者であり、その分析には市場の成長を期待するポジショントークが含まれる可能性に留意すべきだ。一方、HashKey Groupの分析は、市場の相違点とリスクを指摘しており、多角的な視点を提供している。
現時点では、米国でETFが承認されてから日が浅く、観測されている資金流入が長期的に持続するかは不透明である。ビットコインが真に構造的な需要を獲得したと判断するには、少なくとも数年単位での資金フローの動向や、金融危機のようなストレス環境下での価格動向を観察する必要があるだろう。
Core Insight
ビットコインETFは、金を制度化させたETFの歴史をなぞり、資産クラスとしての成熟を促す一方、投機性の高さという本質的な違いが、金との完全にな同化を妨げる構造的制約となっている。
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