中国の国有企業である中国商用飛機(COMAC)が開発した国産旅客機「C919」が、欧州での型式証明取得に向けて大きく前進した。欧州航空安全機関(EASA)のテストパイロットによる試験飛行が実施され、認証プロセスが本格化している。C919は国際市場での販売拡大を目指しており、EASAからの認証はその試金石となる。
国際市場への足がかりとなるEASA認証
C919は、すでに2022年9月に中国民用航空局(CAAC)から型式証明を、同年12月には量産に向けた生産許可証を取得している。しかし、ボーイングとエアバスが寡占する国際的な航空機市場に参入するには、欧米の航空当局からの認証が不可欠だ。
特にEASAの型式証明は、欧州だけでなく、世界中の多くの国で航空機の安全基準として認められているため、その取得はC919の国際的な信頼性を高める上で極めて重要である。一方で、米連邦航空局(FAA)による認証取得の具体的な見通しは立っておらず、COMACは当面、EASAからの認証取得に注力する方針だ。
型式証明の壁と地政学リスク
型式証明のプロセスは、申請の受理、審査基準の策定、適合性の検証、証明書の発行など、厳格かつ複雑な段階で構成される。審査は主に機体の設計や製造プロセスが安全基準を満たしているかという技術的な観点から進められる。
しかし、専門家の間では、このプロセスが事実上の市場参入障壁として機能する側面も指摘されている。特に、米中間の技術覇権争いを背景に、C919が搭載するエンジンやアビオニクス(航空電子機器)の多くが米国製であることから、地政学的な要因が審査に影響を与える可能性も否定できないと、一部の海外メディアは報じている。
日本への影響
中国製旅客機C919のEASA型式証明取得に向けた動きは、日本の航空機産業に複数の具体的な影響をもたらす。まず、三菱重工業が開発を凍結したスペースジェットの教訓を踏まえれば、COMACのC919が国際市場に参入することは、日本の航空機部品メーカーにとって新たなサプライチェーン構築の機会となる。特に、C919が搭載するエンジンやアビオニクスに米国製部品が多く使われている現状は、米中対立の激化に伴い、COMACがサプライヤー多様化を模索する可能性を示唆する。この場合、日本の部品メーカーは、単なるコスト競争力だけでなく、技術力と信頼性を武器にCOMACへの供給網に食い込む好機を得る。
次に、C919が2022年9月にCAACから型式証明を取得し、量産体制に入っていることは、中国国内の航空需要がボーイングやエアバスだけでなく、C919によっても満たされ始めることを意味する。これは、日本の航空会社が中国路線を拡大する際、C919の導入を検討する可能性を生む。運航コストや整備体制、安全性評価を慎重に見極める必要はあるものの、C919が中国国内線で実績を積めば、日本の航空会社にとって新たな選択肢となり得る。
最後に、EASAの型式証明プロセスが「事実上の市場参入障壁」として機能する可能性は、日本の航空機産業が国際認証取得の難しさを改めて認識する契機となる。技術力だけでなく、地政学リスクや国際関係が認証プロセスに与える影響を深く理解し、国際標準に準拠した開発・認証戦略を構築することが、今後の日本の航空機産業にとって不可欠となるだろう。