米国の制裁網を巧みにすり抜ける、中国の新たな国家戦略モデルが姿を現した。かつてファーウェイのサーバー事業部門であった「超聚変(Chaojubian)」が、最大800億元(約1.7兆円)の評価額を見込む新規株式公開(IPO)を深圳証券取引所に申請し、受理されたのだ。これは単なる大型上場案件ではない。米国の技術的封じ込めに対し、中国が国家ぐるみで「国産AI計算力(算力)」を構築しようとする壮大な戦略の縮図である。

ファーウェイという制裁対象企業から切り離され、地方政府と国有資本の注入を受けて生まれ変わった「国策ユニコーン」の誕生は、世界のハイテク産業の勢力図を塗り替える可能性を秘める。日本のサーバーメーカーや半導体関連企業、そして投資家は、この地政学的変動の最前線で起きている事象をどう読み解き、対応すべきか。本稿ではその本質と影響を多角的に分析する。

第一原理分解

超聚変の誕生と急成長の根源は、米国の対中半導体輸出規制、とりわけファーウェイを標的としたエンティティリスト指定にある。2019年以降の制裁強化により、ファーウェイは事業の根幹であったインテルやAMD製の高性能x86サーバー用CPUの調達が事実上不可能となり、サーバー事業は存続の危機に瀕した。

この窮地を脱する一手こそが、事業の「金蝉脱殻(きんせんだっかく)」、すなわちスピンオフであった。2021年、ファーウェイはx86サーバー事業を完全に売却。その受け皿となったのが、河南省の国有資産監督管理委員会(国資委)が実質的に支配する新たな事業体、超聚変である。これにより、同社はファーウェイという「制裁対象」の軛から解き放たれ、再びインテル等の米国製CPUを合法的に調達する道が開かれた。

このスキームは、単なる事業再生に留まらない。河南省政府が筆頭株主となり、中国移動チャイナモバイル)のような巨大国有通信キャリアが出資者に名を連ねる構造は、これが国家の強い意志を反映したプロジェクトであることを示唆している。つまり、「制裁対象の有力技術を、非制裁下の国策企業に移管し、国内資本で一気に育成する」という、米国の規制に対抗するための新たなモデルケースなのだ。超聚変のIPOは、このモデルをさらに加速させるための資金調達であり、中国が目指す技術的自立とAIインフラ覇権への強い決意の表れと言える。

解析と核心

IPO目論見書によれば、超聚変は今回の株式公開で最大80億元(約1700億円)を調達し、次世代計算力インフラの研究開発や産業チェーンの強化に充当する計画だ。成功すれば、河南省史上最大のIPO案件となる。同社の実力は市場シェアにも明確に表れている。IDCの統計によれば、2023年の中国サーバー市場における出荷台数シェアは、最大手の浪潮信息(Inspur)に次ぐ第2位。特に「国産化サーバー」と、次世代データセンターの鍵となる「標準液冷サーバー」の市場では、すでに中国第1位の座を確保している。

業績も急拡大しており、2023年の売上高は250.92億元(約5300億円)、純利益は5.07億元(約108億円)に達した。特筆すべきは、売上の50%以上をAIサーバーが占めている点であり、同社が単なる汎用サーバーメーカーではなく、中国のAI戦略を支える計算力インフラの供給者として中核的な役割を担っていることを示している。

興味深いのは、ファーウェイとの関係性だ。株式は完全に売却され資本関係は断ち切られているものの、董事長兼総経理の劉宏雲氏をはじめ、経営陣の多くはファーウェイ出身者で固められている。さらに、超聚変はファーウェイが米国のGPU規制に対抗すべく開発した国産AIプロセッサ「昇騰(Ascend)」エコシステムの最高レベルパートナーであり、昇騰搭載サーバーの出荷額・量で全協力企業の中でトップを走る。これは、資本の繋がりはなくとも、人材と技術エコシステムを通じてファーウェイの「魂」が色濃く継承されていることを意味する。

一方で課題も存在する。アリババテンセントといったインターネット大手への売上比率が上昇した結果、価格競争が激化し、主力の算力事業の粗利率は低下傾向にある。目論見書では、2023年に14.27%だった粗利率が、2025年には8.58%まで低下するとの予測も示されており、国策企業といえども厳しい市場競争に晒されている実態がうかがえる。

技術的深掘り

超聚変の戦略を技術面から深掘りすると、中国の半導体自給自足に向けた現実的かつ多層的なアプローチが見えてくる。同社のサーバーは、短期的にはインテルやAMDのx86アーキテクチャCPUを搭載することで市場競争力を確保している。これは、米国の制裁を回避した独立企業だからこそ可能な戦術だ。

しかし、その視線はx86への依存からの脱却、すなわち真の国産化に向けられている。その鍵を握るのが、ファーウェイ傘下のHiSiliconが開発する二つのプロセッサ、ARMベースのサーバーCPU「鯤鵬(Kunpeng)」と、AIアクセラレータ「昇騰(Ascend」である。超聚変は、これら国産プロセッサを搭載したサーバーの最大の供給者として、中国国内のAIエコシステム構築を物理的に支えている。特に、NVIDIAのA100/H100といった高性能GPUが禁輸措置の対象となる中、昇騰910Bプロセッサは、性能面で劣るものの、中国国内のAIモデル開発・推論における唯一かつ最良の選択肢となりつつある。

さらに注目すべきは、超聚変が「標準液冷サーバー」で国内シェア1位である点だ。AIの学習・推論に用いるサーバーは膨大な電力を消費し、凄まじい熱を発生させる。高密度に実装されたデータセンターでは従来の空冷方式では冷却が追いつかず、エネルギー効率も悪い。直接液体でチップやサーバーラックを冷却する液冷技術は、次世代AIデータセンターの必須テクノロジーであり、超聚変がこの分野をリードしている事実は、同社が将来のインフラ標準を握る可能性を示唆している。

ただし、その前途は平坦ではない。昇騰のような高性能AIチップの製造には、複数のチップレットを基板上で高密度に接続するCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)に代表される先端パッケージング技術と、それに組み合わせる広帯域メモリ「HBM(High Bandwidth Memory)」が不可欠だ。これらの技術は依然として台湾のTSMCなどが世界をリードしており、中国のSMICなどが懸命に追随しているものの、まだ大きな技術格差が存在する。超聚変のサーバーの最終的な性能と供給能力は、中国全体の半導体製造・後工程技術の進展という、より大きなボトルネックに左右される構造的課題を抱えている。

日本投資家影響

超聚変の台頭は、日本のIT・半導体関連企業にとって、脅威と機会の両側面を持つ。投資家は、この二面性を冷静に分析する必要がある。

まず、直接的な脅威に晒されるのが、サーバーやITソリューションを手掛ける国内大手だ。富士通 (6702)日本電気 (NEC, 6701) にとって、超聚変はアジア市場、将来的にはグローバル市場における強力な競合となる。国策支援を背景とした価格競争力と、中国国内で鍛えられたAI・液冷といった特定領域での技術力を武器に市場シェアを拡大してきた場合、両社のサーバー事業は収益圧迫のリスクに直面するだろう。中長期的には、この競合激化は株価に対する重石となる可能性があり、【推測】として目標株価に対し-5%から-10%程度の下方修正圧力要因となりうる。

一方で、巨大な中国の国産計算力インフラ投資は、日本の部品・素材メーカーにとっては大きなビジネスチャンスとなりうる。例えば、ニデック (6594) は、液冷システムに不可欠な高性能ポンプやファンモーターで世界的な競争力を持つ。超聚変をはじめとする中国のデータセンター建設が加速すれば、同社の関連部品の需要は確実に増加するだろう。受注拡大への期待から、目標株価には+10%以上の上振れポテンシャルも考えられる【推測】。

さらに、半導体製造の根幹を支える素材メーカーにも追い風が吹く可能性がある。中国が「鯤鵬」や「昇騰」といった国産チップの生産を拡大すれば、その基板となるシリコンウエハーを供給する信越化学工業 (4063) や、製造プロセスに不可欠なフォトレジストを手掛ける東京応化工業 (4042) のような企業への需要は底堅く推移する。米国の規制が完成品や製造装置に集中する一方、素材分野は比較的影響を受けにくい。中国の半導体自給率向上への動きは、結果的に日本の素材メーカーの市場を拡大させる可能性がある。

結論として、投資家は「完成品メーカーへの逆風」と「部品・素材メーカーへの追い風」というセクター間のダイナミズムを注視し、ポートフォリオを調整することが肝要となるだろう。

出典・参考

参照元・関連公式情報:

- 36氪-芯片

- 国資委 (SASAC)

- 中国移動 (China Mobile)

技術的深掘り

技術的深掘り

超聚変の戦略を技術面から深掘りすると、中国の半導体自給自足に向けた現実的かつ多層的なアプローチが見えてくる。同社のサーバーは、短期的にはインテルやAMDのx86アーキテクチャCPUを搭載することで市場競争力を確保している。これは、米国の制裁を回避した独立企業だからこそ可能な戦術だ。しかし、その真の価値と将来性は、x86への依存からの脱却、すなわち中国独自のAI計算力エコシステムの構築を物理的に支える能力にある。

その中核をなすのが、ファーウェイ傘下のHiSiliconが開発したAIプロセッサ「昇騰(Ascend」シリーズだ。超聚変は、この国産NPU(Neural-network Processing Unit)を搭載したサーバーの最大の供給者である。特に、NVIDIAのA100/H100が禁輸対象となる中、その代替として位置づけられるのが「昇騰910B」だ。このプロセッサは、半精度(FP16)で320 TFLOPS、整数演算(INT8)で640 TOPSの計算能力を持つと公表されている。これはNVIDIAのH100(FP16で約2000 TFLOPS)には及ばないものの、中国国内で大規模なAIモデルの「訓練(Training)」と「推論(Inference)」を可能にする唯一かつ最良の選択肢となっている。超聚変は、この昇騰910Bを複数搭載した高密度サーバーを供給することで、中国のAI開発をハードウェアレベルで支える国家的な役割を担う。

しかし、この国産化戦略には深刻なボトルネックが存在する。第一に、製造プロセスの制約だ。昇騰910Bは、中国最大のファウンドリであるSMICDUVリソグラフィ技術を用いて製造する7nmプロセスに依存しているとみられる。これはTSMCやSamsungがEUVリソグラフィで実現する5nmや3nmプロセスに比べ、性能と電力効率で劣後する。このギャップを埋めるため、ファーウェイと中国の半導体業界はchiplet(チップレット)アーキテクチャに活路を見出している。複数の小型チップを高密度に接続することで、一枚の巨大なチップを製造するよりも歩留まりを向上させ、コストを抑える戦略だ。

だが、チップレット戦略の成否は、第二のボトルネックである先端パッケージング技術にかかっている。特に、AIチップに不可欠な広帯域メモリ「HBM(High Bandwidth Memory)」をプロセッサと緊密に接続するCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)のような技術は、依然として台湾のTSMCが世界をリードしている。中国のJCETTFMEといった後工程企業が懸命に追随しているものの、積層技術や信頼性で差は大きい。さらに、最新世代のHBM3/HBM3eはSK HynixやSamsungが市場を独占しており、米国の規制下で中国企業が安定的に調達することは極めて困難だ。昇騰910Bが搭載するHBM2eの帯域幅は1.6 TB/sとされ、NVIDIA H100のHBM3(3.35 TB/s)の半分以下に留まる。このメモリ帯域の制約は、大規模言語モデルの訓練において深刻な性能低下を招く要因となる。

超聚変の技術戦略は、こうした制約を前提とした上で、液冷技術による高密度実装や、ファーウェイ独自の高速インターコネクト技術(NVLinkの対抗馬)を組み合わせ、システム全体で性能を補うアプローチを採っている。同社の価値は、個々の部品のスペックではなく、制約下で利用可能な技術を統合し、実用的な国産AIインフラを構築する能力そのものにあると言えるだろう。