米国が安全保障を理由に中国への半導体関連の輸出規制を強化する中、中国は国内サプライチェーンの確立を急いでいる。米中間の技術覇権争いは、世界の半導体産業とAI開発の構造を大きく変えつつある。中国は巨額の国家基金を投じて国産化を推進し、SMIC(中芯国際集積回路製造)が7nmプロセスの半導体を量産するなど、一部で成果を上げ始めている。
なぜ今、重要か
米商務省産業安全保障局(BIS)は2023年10月、先端半導体および製造装置に関する対中輸出規制を大幅に強化した。これは、中国の軍事技術近代化を阻止する狙いがあり、世界の半導体サプライチェーンに即時的な影響を与えた。この規制を受け、NVIDIAの株価は一時的に下落し、中国市場向けに性能を落としたAI半導体を開発せざるを得なくなった。一方、中国国内では危機感が強まり、半導体自給に向けた動きが加速。ファーウェイのスマートフォン「Mate 60 Pro」にSMIC製の7nmチップが搭載されたことは、米国の規制下でも中国が技術的進歩を遂げている象徴的な出来事として、市場に衝撃を与えた。
米国の規制強化とその狙い
米国の規制は、特に人工知能(AI)やスーパーコンピューター開発に不可欠な高性能半導体とその製造技術に焦点を当てている。具体的には、回路線幅が14nm以下のロジック半導体、128層以上のNAND型フラッシュメモリー、18nmピッチ以下のDRAMメモリーの製造に関わる装置や技術の輸出が厳しく制限された。さらに、ファーウェイ(ファーウェイ技術)やSMIC、YMTC科学技術(YMTC)といった中国の主にテクノロジー企業を「エンティティリスト」に指定。これにより、米国の技術を含む製品の輸出が原則禁止され、これらの企業は国際的なサプライチェーンから切り離されつつある。
中国、巨額投資で国産化を加速
中国政府は、半導体の国産化を国家戦略の最重要課題と位置づけている。2024年5月には、「国家集積回路産業投資基金」(通によると「大基金」)の第3期として、過去最大となる3440億元(約7兆円)規模の基金を設立したとReutersが報じた。この資金は、国内の半導体製造装置や材料メーカーの技術開発、生産能力の増強に集中的に投じられる見込みだ。しかし、最新のAIモデル開発競争では、米国のAnthropicやOpenAIなどがNVIDIA製の最新GPUを潤沢に利用できるのに対し、中国企業はファーウェイ傘下のハイシリコンが設計する「Ascend 910B」など国産AIチップへの依存を強めているが、性能やソフトウェアエコシステムの面で依然課題が残る。
技術解説
中国の半導体国産化における最大の障壁は、最先端のリソグラフィ(露光)技術だ。オランダのASML社が独占供給するEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置は、米国の規制により中国への輸出が禁止されており、これが5nm以下の最先端プロセスノードへの移行を阻んでいる。
- リソグラフィと歩留まり: SMICは、旧世代のDUV(深紫外線)リソグラフィ装置を複数回使用する「多重露光」技術を駆使して7nmプロセスを実現した。しかし、この手法は工程が複雑化し、生産効率が著しく低下する。業界アナリストの推定によると、SMICの7nmプロセスの歩留まり(良品率)は35~50%にとどまるとされ、同世代のプロセスで90%以上の歩留まりを達成するTSMCに比べ、コスト競争力で大きく劣る。
- 国産装置の進捗: 中国の国産リソグラフィ装置メーカー、SMEE(上海微電子装備)は、DUV装置の開発を進めているが、その性能はASMLの数世代前のモデルにかなりすると見られている。EUV装置の国産化には少なくとも10年以上の時間が必要との見方が支配的だ。
- AIチップとパッケージング: 性能で劣る国産AIチップの能力を補うため、複数のチップを高速で接続する先端パッケージング技術(チップレット)の開発が急がれている。しかし、この分野でもTSMCの「CoWoS」などが世界標準となっており、中国勢がキャッチアップするには時間を要する。
日本の関連性
本件は、日本企業にとって半導体サプライチェーン再編における新たな事業機会と、中国市場での競争激化という二面性を持つ。まず、中国が「数兆円規模」の資金を投じて国産化を急ぐ半導体製造装置や素材分野では、東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった日本の装置メーカーが、米国の規制対象外である汎用半導体製造装置や、中国が依然として後れを取る7ナノメートル以上のプロセス技術関連で、中国国内での需要拡大を取り込む機会がある。中国政府の強力な支援を受けた国産メーカーが台頭する前に、技術優位性を活かした市場シェアの確保が急務だ。
一方で、高性能GPUの供給制約は、中国におけるAnthropicやOpenAIのような最新LLM開発企業の成長を鈍化させる可能性があり、これは日本のAI関連企業が中国市場で競争優位を築くチャンスとなる。高性能半導体への依存度が低い、特定の産業向けAIソリューションや、エッジAI分野での協業を模索することで、日本の技術が中国のAI発展に貢献しつつ、新たな事業領域を開拓できる。ただし、中国の国産化推進は、長期的には日本の半導体関連企業にとって中国市場での競争激化を意味するため、技術革新を継続し、ニッチな高付加価値分野への特化が不可欠となる。
出典・参考
- [Reuters] (2024-05-27) "China sets up third-biggest state-backed chip fund to boost semiconductor industry" ― https://www.reuters.com/technology/china-launches-third-phase-major-chip-fund-with-475-bln-capital-2024-05-27/
- [日本経済新聞] (2023-09-04) "ファーウェイ新スマホ、SMICが7ナノ半導体供給か" ― https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM042590U3A900C2000000/
- [TrendForce] (2023-10-18) "Updated US Export Controls on AI Chips and Semiconductor Equipment: An Analysis of Industry Impact" ― https://www.trendforce.com/insights/20231018-11881.html
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