米国バイデン政権が安全保障を理由に対中半導体輸出規制を強化する一方、中国は技術自立を目指し国家主導で巨額投資を断行している。2024年5月、中国は過去最大となる3,440億元(約7.1兆円)規模の国家半導体基金の第3弾を設立。国内最大手ファウンドリのSMICが7nmプロセス技術を確立するなど一部で成果も見られるが、最先端分野での海外依存は根深い。米中の技術覇権争いは、世界のサプライチェーンを巻き込み、新たな局面に入った。
なぜ今、重要か
今回の動きは、米国が2022年10月に導入した包括的な対中輸出規制の延長線上にある。この規制は先端半導体だけでなく、製造装置、関連技術、さらには米国籍を持つ技術者の関与まで禁じる厳しいものだ。これにより、世界の半導体サプライチェーンの分断は決定的となった。中国は世界最大の半導体市場であり、NVIDIAなどの米国企業にとって売上高の約2割を占める重要拠点だ。規制強化はこれら企業の業績に直結する一方、中国の国産化を加速させる「もろ刃の剣」であり、その動向は世界経済の行方を左右する。
米国の包括的規制と国際的な包囲網
米国商務省産業安全保障局(BIS)は、特にAIやスーパーコンピューターなど軍事転用可能な技術で中国の発展を阻止する構えだ。これにより、通信機器大手のファーウェイや半導体ファウンドリのSMICは、米国の技術を用いた製品の調達に大きな制約が課されている。ブルームバーグの報道によれば、米国はさらに日本やオランダといった同盟国にも協力を要請し、先端リソグラフィ装置などの輸出管理で足並みをそろえ、国際的な対中包囲網を狭めている。この結果、米半導体大手NVIDIAは、規制に準拠するため中国市場向けにAI半導体の性能を意図的に下げた「H20」などのダウングレード版製品の投入を余儀なくされた。
中国「大基金」第3弾と国産化の現実
米国の制裁に対し、中国政府は「技術的封じ込めだ」と強く反発。国内の半導体自給率向上を国家の最重要課題と位置づけている。その切り札が、通によると「大基金」と呼ばれる国家集積回路産業投資基金だ。今回設立された第3弾は、過去の第1弾(1,387億元)、第2弾(2,041億元)を大きく上回る3,440億元規模に達する。新華社通信は、この基金が特に半導体製造装置(リソグラフィ、エッチング、成膜)、先端材料、EDA(電子設計自動化)ソフトウェアといった、これまで海外依存度が高かった「ボトルネック」分野へ重点的に投資すると伝えた。国家支援を背景に、国産化への動きが加速している。
技術解説: SMICの7nmと国産化の壁
中国の技術的進展の象徴が、SMICによる7nmプロセスでの半導体量産開始だ。特筆すべきは、この成果がオランダASML製の最先端EUV(極端紫外線)露光装置なしに達成された点である。
- プロセスノードとリソグラフィ: SMICは、旧世代のDUV(深紫外線)露光装置を複数回使用する「マルチパターニング」という技術を駆使して7nmの回路を形成した。これはEUVが利用できない状況下での苦肉の策であり、高度な技術力が要求される。
- 歩留まり (Yield): しかし、この手法には大きな課題が伴う。製造工程が複雑化するため、生産コストが著しく上昇し、製品の良品率である「歩留まり」が極端に低くなる。調査会社TrendForceの分析では、SMICの7nmプロセスの歩留まりは30~50%程度と推定されており、EUVを用いるTSMCの同世代プロセスの歩留まり(80%以上)に大きく劣る。これは商業ベースでの大規模生産における競争力の低さを意味する。
- 国産装置の進捗: 中国が期待を寄せる国産リソグラフィ装置メーカー、SMEE(上海微電子装備)の開発は、目標とする28nm対応装置の段階にとどまっており、7nm以下の先端プロセス実現には程遠いのが現状だ。完全にな国産サプライチェーン構築への道は依然として険しい。
日本市場への影響
本記事が示す米中半導体覇権争いの激化は、日本企業にとって事業戦略の再構築を迫る。第一に、NVIDIAが規制対応で中国市場向けAI半導体の性能を落としたように、日本企業も中国市場での事業展開において、最先端技術の提供が困難になるリスクに直面する。特に、半導体製造装置メーカーや素材メーカーは、米国の輸出規制対象となる製品・技術の範囲を正確に把握し、サプライチェーンの多角化や代替技術の開発を加速させる必要がある。
第二に、中国政府が3440億元規模の「大基金」第3弾を設立し、半導体製造装置や材料分野への投資を重点的に行うことは、日本企業にとって新たなビジネス機会となる可能性がある。例えば、中国国内での半導体製造能力向上に伴い、日本製の高精度な検査装置や特殊材料への需要が増加する可能性があり、米国規制対象外のニッチ分野での技術提携や輸出拡大が期待できる。
第三に、SMICが7ナノメートルプロセス技術を確立したと報じられたように、中国国内の技術力が一定レベルに達しつつある現状は、日本の半導体関連企業にとって中国企業との競合激化を意味する。特に汎用的な半導体分野では、価格競争が激化する可能性があり、日本企業は高付加価値製品へのシフトや、特定の技術分野での優位性確立を急ぐ必要がある。
出典・参考
- [Reuters] (2024-05-27) "China sets up third, biggest ever, chip fund to spur self-sufficiency" ― https://www.reuters.com/technology/china-launches-third-biggest-ever-chip-fund-2024-05-27/
- [Bloomberg] (2023-12-12) "US, Japan, Netherlands to Team Up on Chip Controls This Month" ― https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-01-12/us-japan-netherlands-to-team-up-on-chip-controls-this-month
- [TrendForce] (2024-03-05) "Foundry Industry's Revenue Drops 7% in 2023, with a Projected 12% Rebound to $131.6 Billion in 2024, Says TrendForce" ― https://www.trendforce.com/presscenter/news/20240305-12053.html
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