米国の厳しい半導体輸出規制を受け、中国が産業の自給率向上を急いでいる。半導体受託製造(ファウンドリ)大手のSMIC(中芯国際集積回路製造)は、規制対象外の成熟プロセスで生産能力を最大限に拡大し、一部工場では稼働率が100%に達したと報じられている。同時にに、既存装置を駆使して先端の7nm(ナノメートル)プロセスも実現しており、世界の半導体サプライチェーンに大きな影響を与えつつある。
なぜ今、重要か
米国は2022年10月以降、安全保障を理由に先端半導体および製造装置の対中輸出規制を段階的に強化してきた。これに対し中国は、半導体の国内自給を国家の最重要課題と位置づけている。2024年5月には、半導体産業支援を目的とする「国家集積回路産業投資基金(通によると:大基金)」の第3期として過去最大規模の3440億元(約7.4兆円)の設立が報じられた。この動きは、米国の圧力に対抗し、技術的自立を断固として進める中国の姿勢を明確に示している。SMICの生産拡大と技術開発は、この国家戦略の成否を占う試金石であり、その動向は世界の半導体市場の勢力図を塗り替える可能性がある。
成熟プロセスで世界シェア拡大
中国のファウンドリ大手であるSMICやHua Hong(ファーホン)半導体(Hua Hong Semiconductor)は現在、生産能力を最大限に活用している。特に規制の影響が少ない28nm以上の成熟プロセスでは、自動車、産業機器、民生品向け半導体の需要が旺盛で、生産量を大きく伸ばしている。中国メディアの報道によると、一部の工場では稼働率が100%に達し、2024年第1四半期のSMICの売上高は17.5億ドルと前年同期比で19.7%増加した。調査会社TrendForceの報告によれば、中国のファウンドリは成熟プロセスにおいて世界的な生産能力シェアを拡大しており、2027年までに39%に達すると予測されている。この動きは、成熟半導体市場における価格競争を激化させる要因となっている。
DUVで挑む先端7nmプロセス
米国の規制により、SMICは最先端のEUV(極端紫外線)露光装置を導入できない。しかし、同社は既存のDUV(深紫外線)露光装置を用いたマルチパターニング技術を駆使し、7nmプロセスの量産化に成功したとみられている。この技術は、2023年に発売されたファーウェイ(ファーウェイ技術)のスマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載されたプロセッサー「Kirin 9000S」で採用された。DUVでの7nm製造は、EUVに比べて工程が複雑でコストが高く、歩留まりの低さが課題となる。しかし、米国の規制下で先端プロセスを実現したことは、中国の技術的キャッチアップ能力を示す象徴的な出来事として受け止められている。
技術解説: 半導体自給と軍事レジリエンス
中国の半導体自給率向上は、経済安全保障だけでなく軍事的な側面も持つ。半導体は現代兵器の頭脳であり、その安定供給は国家の防衛能力に直結する。
- 性能諸元と用途: 先端プロセスで製造される高性能チップがAI兵器や高度な通信システムに不可欠な一方、成熟プロセス(28nm以上)の半導体もミサイル誘導システム、レーダー、ドローン、電子戦装備など、幅広い軍事用途で大量に使用される。これらの「レガシー半導体」の自給は、兵器の持続的な生産と維持に不可欠だ。
- リソグラフィ技術: SMICが用いるDUVマルチパターニングは、1つの回路層を複数回に分けて露光する技術だ。これによりEUV装置なしで7nmの微細化を達成したが、製造時間とコストが増大する。一方、米軍や同盟国が採用する兵器には、TSMCなどがEUVで製造したより高性能で電力効率の高い半導体が搭載されており、技術的な優位性は依然として存在する。
- 生産規模と自給率: 中国の半導体自給率は依然として20%台と推定されているが、SMICやHua Hong(ファーホン)半導体への巨額投資により、特に成熟プロセスでの生産能力は急拡大している。これは、有事に海外からの供給が途絶えた場合でも、国内で兵器システムを維持・生産できる「軍事レジリエンス(強靭性)」の構築を意味する。
結論:日本への示唆
米国制裁下の中国半導体産業の動向は、日本企業にとって複数の具体的な影響を及ぼす。まず、SMICやHua Hong Semiconductorが28nm以上の成熟プロセスで生産を拡大し、一部工場で稼働率100%に達している事実は、日本が強みを持つ半導体製造装置や材料メーカーにとって、中国市場での新たな需要創出機会となる。特に、成熟プロセス向けの製造装置や関連部材は、米国の輸出規制の対象外となるケースが多く、日本企業はこれらの分野で中国メーカーとの連携を深めることで、売上拡大を図れる可能性がある。
次に、中国が7nmといった先端プロセスの国産化を急ぐ動きは、日本の半導体製造装置メーカーにとって、技術開発競争の激化を意味する。中国企業が既存の製造装置を活用して先端プロセスを開発していると報じられていることから、日本企業は、より高度な技術や革新的なソリューションを提供することで、競争優位性を維持する必要がある。
最後に、中国が半導体産業の自給率向上を国家戦略と位置付け、巨額の資金を投じていることは、日本のサプライチェーン再編に影響を与える。中国が国内完結型のサプライチェーンを構築するにつれて、日本企業は中国市場への依存度を再評価し、代替市場の開拓や新たなビジネスモデルの構築を検討する必要がある。例えば、中国以外の地域での生産拠点の強化や、多様な顧客層へのアプローチが求められる。
出典・参考
- [Reuters] (2024-05-24) "China sets up third, biggest ever, semiconductor fund to boost self-sufficiency" ― https://www.reuters.com/technology/china-sets-up-third-biggest-ever-semiconductor-fund-2024-05-27/
- [TrendForce] (2024-03-07) "China’s Mature Process Capacity to Reach 39% by 2027, US and Europe Actively Expanding to Mitigate Supply Chain Risks, Says TrendForce" ― https://www.trendforce.com/presscenter/news/20240307-12061.html
- [SMIC] (2024-05-09) "SMIC Reports 2024 First Quarter Results" ― https://www.smics.com/en/site/news_read/5703