米中間の技術覇権争いの主戦場である半導体分野で、対立が新たな段階に入った。米国が安全保障を理由に同盟国を巻き込み先端半導体の対中輸出規制を厳格化する一方、中国は巨額の国家投資で技術的自立を急いでいる。この攻防は、世界の半導体サプライチェーンと日本の産業界に大きな影響を及ぼしている。
なぜ今、重要か
米中の半導体摩擦は、2022年10月に米商務省が包括的な輸出規制を発表して以降、激化の一途をたどっている。この規制は、中国の通信機器大手ファーウェイ(ファーウェイ技術)が2023年に発表したスマートフォン「Mate 60 Pro」に、国内ファウンドリ最大手SMIC(中芯国際集積回路製造)製の7ナノメートル(nm)プロセスかなりの半導体が搭載されていたことで、さらに強化された。米国の規制下で先端技術へのアクセスが絶たれたはずの中国が、予想を上回る速さで国産化を進めたことは、米政府に衝撃を与えた。これを受けバイデン政権は規制の抜け穴を塞ぐ追加措置を講じており、技術覇権を巡る競争はまさに現在進行形の重要課題だ。
米国主導の「技術包囲網」と規制の深化
バイデン政権は、中国の軍事技術近代化を阻止する目的で、AI(人工知能)やスーパーコンピューターに不可欠な先端半導体と、その製造に必要な装置の輸出管理を厳格化している。米国の規制は自国企業だけでなく、半導体製造装置で世界シェアの90%以上を占める日本やオランダにも協力を要請し、国際的な対中包囲網を形成している。これにより、中国企業が最先端プロセスに不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置などを入手することは事実上不可能となった。ロイター通信は、米国が規制対象をさらに広範な技術に拡大する可能性を報じており、予断を許さない状況が続く。
中国「技術自立」への巨額投資と課題
米国の制裁に対し、中国は半導体の国産化を国家的な最重要課題と位置づけ、「科学技術の自立自強」を掲げている。その中核となるのが「国家集積回路産業投資基金(通によると:大基金)」だ。2024年5月には、過去最大規模となる3440億元(約7.4兆円)の第3期基金の設立が発表された。この巨額資金は、SMICのような国内半導体メーカーや設計企業に重点的に投じられ、国産化を強力に後押しする。SMICは既存のDUV(深紫外線)露光装置を駆使して7nm世代の半導体を製造したとみられるが、その先の微細化には技術的な壁が立ちはだかる。
技術解説:DUV露光の限界とEUVの壁
SMICが7nmプロセスを実現したとされる技術は、旧世代のDUV露光装置で回路パターンを複数回重ねて焼き付ける「多重露光」だと考えられている。この手法は可能ではあるものの、製造工程が複雑化し、生産効率が著しく低下するため、歩留まり(良品率)は30~50%程度と推定されている。これは、TSMCやサムスン電子がEUV露光装置を用いて達成する70%以上の歩留まりに比べ、大幅に低い。結果として、チップ1個あたりの製造コストが非常にに高くなるという課題を抱える。
最先端の5nm以下のプロセスノードには、オランダのASMLが独占供給するEUV露光装置が不可欠だ。しかし、米国の輸出規制により中国はこの装置を導入できない。中国の国産装置メーカーSMEE(上海微電子装備)はDUV露光装置の開発を進めているが、ASMLの技術レベルには依然として大きな隔たりがあり、EUVの国産化には少なくとも10年以上の時間が必要とみられている。この「EUVの壁」が、中国の半導体自給における最大のボトルネックとなっている。
日本への影響と示唆
米国の対中半導体規制強化と中国の国産化推進は、日本の半導体産業に直接的な影響を与える。第一に、オランダのASML製EUV露光装置のように、日本企業が製造する半導体製造装置も対中輸出規制の対象となることで、中国市場での売上が減少するリスクがある。これは、東京エレクトロンなど半導体製造装置メーカーの業績に影響を及ぼす可能性がある。
第二に、中国が巨額投資で半導体国産化を進める中で、SMICが既存装置で7ナノメートル半導体を製造した事例は、日本の半導体材料や部品メーカーにとって新たなビジネス機会を生み出す可能性がある。中国が自国サプライチェーンを構築する過程で、特定の日本製品への依存度が高まるシナリオも考えられる。
第三に、米中技術覇権争いの激化は、日本のサプライチェーン再編を加速させる。米国が同盟国に協力を要請する中で、日本企業は中国市場と米国市場の双方で事業を展開する上での戦略的選択を迫られる。特に、先端半導体関連技術を持つ企業は、米国からの技術流出防止要請と中国市場での成長機会との間で、より複雑な経営判断が求められる。