中国が策定に着手した「第15次5カ年計画」(2026〜30年)では、半導体の国内自給率70%達成が再び最重要課題となる見通しだ。しかし、米国の輸出規制強化により先端製造装置の導入は絶望的で、国産化への道は険しい。中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)など主要企業は成熟工程での生産拡大を急ぐが、装置・材料の国産化は壁に直面している。サプライチェーンの要を握る東京エレクトロンや信越化学工業など、日本企業の戦略が中国の技術的目標の行方を左右する。
7nmの壁、DUV多重露光の限界
2023年、華為技術(ファーウェイ)の新型スマートフォンに搭載された7ナノメートル(nm、ナノは10億分の1)世代の半導体は、中国の技術的進展の象徴とされた。だがその内実は、製造を担うSMICが直面する物理的・経済的な限界を浮き彫りにしている。この半導体は、オランダASML製のDUV(深紫外線)露光装置を駆使し、回路パターンを複数回重ねて焼き付ける「多重露光」という手法で製造された。これは、より波長の短いEUV(極端紫外線)光を用いる正規の7nm工程に比べ、著しく効率が低い。DUV多重露光は、本来EUVで1回で済む露光を3回、4回と繰り返すため、工程数が大幅に増加。結果として製造時間が長引き、ウエハー上の欠陥発生率も高まる。業界調査会社TrendForceが2023年10月に公表した分析によれば、SMICの7nmプロセスの歩留まりは30〜40%程度と推定される。これは台湾積体電路製造(TSMC)が同世代の生産を立ち上げた当初の70%超という水準に遠く及ばない。歩留まりの低さは直接的に製造原価を押し上げる。ASMLの技術資料に基づく試算では、DUV多重露光による7nm製造は、EUVを用いる場合に比べてウエハー1枚あたりのコストが少なくとも50%以上増加すると見られる。これは先端半導体の価格競争力を根本から損なう要因であり、SMICが商業ベースで大規模な供給を続ける上での大きな足かせとなる。
国産装置はなぜ先端工程に届かないのか?
米国の規制によりASMLからEUV露光装置を調達できない中国は、製造装置の国産化を急ぐ。しかし、その道のりは険しい。国産露光装置で最先端を走る上海微電子装備(SMEE)が2023年末に投入した最新機種「SSA/800-10W」は、ArF(フッ化アルゴン)液浸光源を用いるものの、その解像度は28nmプロセス相当に留まる。これはASMLが15年以上前に市場投入した「TWINSCAN NXT:1950i」と同等の水準であり、7nm以下の先端プロセスに要求される技術水準には到達していない。露光装置は「産業のコメ」である半導体を作るための「究極の工作機械」とも呼ばれ、毎秒5万回発振する強力なレーザー光源や、原子レベルの精度で研磨された独カール・ツァイス製のレンズ群など、要素技術の塊だ。これらの技術は長年の研究開発と特許網によって固められており、後発企業が短期間で追いつくことは極めて困難である。SEMI Chinaが2024年3月に発表した報告書によると、2023年時点での中国国内の半導体製造装置の国産化率は約21%に過ぎない。特に回路パターンを形成する露光装置や、欠陥を検出する検査装置といった基幹工程では、海外メーカーへの依存度が依然として90%を超えているのが実態だ。北方華創科技集団(Naura)や中微半導体設備(AMEC)がエッチング装置や成膜装置で一定のシェアを獲得しつつあるものの、製造工程全体を国産装置で完結させるには、まだ10年単位の時間が必要と見られる。
「成熟工程」特化戦略の勝算と死角
先端半導体の国産化が難航する中、中国は戦略の軸足を28nm以上の「成熟工程」へと移している。電気自動車(EV)や産業機器、再生可能エネルギー設備に不可欠なパワー半導体や、機器の頭脳となるマイクロコントローラ(MCU)などを大量生産し、世界市場でのシェア確保を狙う。中国政府および関連する国家集積回路産業投資基金は、2024年末までに成熟工程の製造能力を月産200万枚(300mmウエハー換算)規模まで引き上げる計画を進めている。これは2022年末比で約30%増に相当する大規模な投資だ。台湾の調査会社TrendForceの2024年5月の予測では、この投資の結果、2027年までに世界の成熟工程(28nm以上)における中国の生産能力シェアは現在の29%から33%に達する見込みだ。この動きは、世界的な半導体不足の緩和に寄与する一方、深刻な供給過剰と価格競争を招くリスクをはらむ。特に日本のルネサスエレクトロニクスやローム、独インフィニオンテクノロジーズなどが強みを持つ車載・産業用半導体市場では、中国勢との直接競合が激化することは避けられない。米国商務省は2024年1月の報告書で、中国の成熟半導体への巨額投資が市場を歪め、安全保障上の新たな依存関係を生む可能性について警告を発しており、米国が成熟工程に対しても何らかの規制を導入する可能性が浮上している。
日本が握る「素材」という名の急所
製造装置の国産化以上に中国にとって深刻なのが、先端材料の対外依存だ。半導体製造には、シリコンウエハー、フォトレジスト(感光材)、高純度化学薬品、特殊ガスなど、極めて高い品質が求められる多種多様な材料が不可欠であり、これらの多くを日本企業が供給している。特にEUV露光に用いられるフォトレジスト市場では、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの日本企業4社で世界シェアの約9割を握る。また、半導体の基板となるシリコンウエハーでは、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの約6割を占める(SEMI、2023年統計)。これらの素材は、単に化学的な純度が高いだけでなく、製造装置との組み合わせで最適化された「レシピ」の一部として機能する。例えば、東京エレクトロンの塗布・現像装置(コータ・デベロッパ)は、JSRのレジスト材料との組み合わせで最高の性能を発揮するよう調整されている。中国が仮に製造装置の模倣に成功したとしても、この「擦り合わせ技術」の塊である材料とレシピを再現するのは不可能に近い。2019年に日本政府が実施した韓国向けフッ化水素などの輸出管理厳格化が、韓国半導体産業に与えた衝撃は記憶に新しい。中国の半導体産業もまた、日本の素材供給という「アキレス腱」を抱えている。この構造的な依存関係は、米国の規制強化と相まって、中国の半導体自給戦略における最大の障壁として立ちはだかる。
日本企業が直面する選択
中国の第15次5カ年計画が目指す「質の高い発展」と技術的自立は、日本の半導体関連産業に複雑な問いを突きつける。短期的には、中国の成熟工程への巨額投資は、製造装置や材料の巨大な需要を生み出す。東京エレクトロンの2024年3月期決算では、売上高に占める中国向け比率は47%に達し、過去最高を記録した。ディスコやアドバンテストといった他の装置メーカーも同様の傾向にある。しかし、この活況は米国の規制強化や中国自身の国産化推進によって、いつ失われてもおかしくない危うさを内包している。日本企業は、目先の収益を追うだけでなく、地政学リスクを織り込んだ事業ポートフォリオの再構築を迫られている。具体的には、①中国市場への過度な依存を低減し、米国や欧州、インドなどでの新たな需要を取り込むための販売・生産体制の多様化、②研究開発投資を先端分野に集中させ、中国企業が容易に追随できない技術的優位性を維持すること、③経済安全保障の観点から、政府と連携し、基幹技術や材料の流出を防ぐ管理体制の強化、という3つの対応が不可欠だ。中国という巨大市場とどう向き合うか。それは単なる一企業の経営判断を超え、日本の技術的基盤と経済安全保障の将来を左右する戦略的な選択となる。
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