中国で春節(旧正月)の大型連休に合わせ、新たな消費喚起策が各地で本格化している。交通機関やイベントの使用済みチケットを割引クーポンなどとして再利用する「チケット経済」と呼ばれる取り組みだ。1回の利用をきっかけに、飲食や買い物など複数の消費へとつなげ、停滞気味の個人消費を活性化させる狙いがある。
チケットが新たな消費の起爆剤に
この「チケット連動施策」は、交通機関、公演、スポーツイベント、観光地の使用済みチケットを、提携する商業施設などで特典を受けられる証明書として活用するものだ。1回のチケット利用で、複数の特典を享受できる仕組みであり、消費市場を力強く後押ししている。
この施策は、単発の支出を連鎖的な消費につなげることを目的としている。例えば、ある都市への高速鉄道の乗車券が、現地のレストランでの割引や、土産物店のクーポンとして機能する。これにより、消費者はより多くの場所で支出する動機付けを得ることになる。
貴州省や上海市など各地で独自の取り組み
施策は中国全土で多岐にわたり、地域ごとの特色が見られる。
貴州省では、2月3日から公式観光プラットフォーム「ワンコード貴州トラベル(一码游貴州)」で指定のチケットを購入した利用者を対象に、最大500元(約1万円)の特典クーポンを申請できる制度を開始した。
上海市では、恒例の「豫園ランタンフェスティバル」で「1枚のチケットで周遊と特典を享受できる」モデルを導入。入場券1枚で6つの主にライトアップエリアに入れるだけでなく、提携商業施設の無料駐車券、ショッピングクーポン、飲食割引などを得られる。
福建省厦門市では、春節期間中に指定のコンサートやイベントの入場券、公共交通機関の乗車券を持つ消費者が、130以上の優待措置を受けられるキャンペーンを展開したと新華社通信は伝えている。
専門家「低コストでエンゲージメントの高い施策」
中国商業経済学会の宋向清副会長は、この施策が消費の重要な時期に展開されている点を指摘。「交通、公演、イベント、観光といった各分野の消費を的確に誘導し、商業、旅行、文化、スポーツといった業界の垣根を越えるものだ」と分析する。これにより、単発の消費行動が、飲食・宿泊・交通・観光・買い物・娯楽を網羅する連鎖的な消費へと転換されるという。
また、中国デジタル・リアル融合50人フォーラムのシンクタンク専門家、洪勇氏は、この施策を「低コストで顧客エンゲージメントが高い消費喚起の仕組み」と評価する。春節期間に人出が集中することを利用し、既存の移動やイベント参加といった行動を、継続的に利用できる消費の証明とすることで、1回限りの外出をきっかけに、多様な場面で複数回にわたる消費行動を促すことができると述べた。
日本への影響と今後の展望
中国の「チケット経済」は、日本企業にとって新たな事業機会とリスクを提示する。まず、インバウンド市場への影響だ。中国政府が連鎖的な消費を促すこの施策を恒常化すれば、訪日中国人観光客の消費行動にも同様の「連鎖」を期待できる可能性がある。例えば、日本国内の交通機関やイベントチケットと連携した割引サービスを企画すれば、観光客が特定の地域で飲食や買い物へ支出を増やす動機付けとなる。特に、上海市が「豫園ランタンフェスティバル」で導入したような「1枚のチケットで周遊と特典を享受できる」モデルは、日本の観光地や商業施設が連携し、地域全体の消費額を底上げするヒントとなるだろう。
次に、デジタルプラットフォーム連携の重要性が増す。貴州省の「ワンコード貴州トラベル」のように、チケット購入から特典申請までをデジタルで完結させる仕組みは、中国市場でのビジネス展開において不可欠だ。日本のサービスプロバイダーは、中国人消費者のデジタル決済やクーポン利用習慣に対応したプラットフォーム連携を強化する必要がある。
一方で、中国国内消費が活性化すれば、海外旅行への支出が抑制される可能性もリスクとして考慮すべきだ。国内での「低コストでエンゲージメントが高い」消費体験が充実すれば、訪日旅行の優先順位が下がることも考えられる。日本企業は、単なる「観光」だけでなく、中国国内では得られない「体験」や「商品」の提供を通じて、訪日意欲を喚起する戦略を練る必要がある。