ドイツのオラフ・ショルツ首相が2024年4月、メルセデス・ベンツやBMWなど大手企業の経営幹部ら大規模な経済使節団を伴い中国を訪問した。経済的利益を優先したアンゲラ・メルケル前政権時代の対中政策への回帰を示唆する動きとして、国際社会の注目を集めている。

メルケル前政権の「政経分離」路線

メルケル前首相は、16年間の在任中に12回訪中するなど、西側首脳の中でも特に中国との関係を重視したことで知られる。前政権は人権問題などの政治的対立点には触れつつも、経済関係を切り離して深化させる「政経分離」ともいえる現実主義路線を推進。2011年には「中独政府間協定」の枠組みを立ち上げ、両国関係を強化した。この政策は、ドイツの自動車産業や製造業に巨大な中国市場へのアクセスをもたらした。

ショルツ政権の新たな対中戦略

一方、ショルツ政権は発足当初、中国への過度な経済的依存を減らす「デリスキング(リスク低減)」を掲げ、より慎重な姿勢を示していた。しかし、今回の訪中ではシーメンスやバイエルなど大手企業10社以上の経営トップが同行しており、経済的な結びつきを依然として重視する姿勢が鮮明になった。

ショルツ首相は李強首相との会談で、公正な競争条件の確保などを求めたと報じられた。これは、安全保障上の懸念と経済的利益のバランスを取ろうとする、ショルツ政権の新たな対中アプローチを示すものだ。メルケル時代の蜜月関係が完全にに復活するかは、今後の具体的な政策によって判断されることになる。

結論:日本への示唆

ドイツのショルツ首相による大規模経済団を伴う訪中は、日本企業にとって複雑な影響をもたらす。まず、メルケル前政権が16年間で12回訪中し、自動車産業に巨大な中国市場へのアクセスをもたらしたように、ドイツ企業が中国市場での競争優位をさらに確立する可能性がある。これは、特に自動車部品や高機能素材など、ドイツ企業と競合する分野の日本企業にとって、中国市場でのシェア獲得がより困難になることを意味する。例えば、メルセデス・ベンツやBMWの中国における販売強化は、トヨタやホンダといった日本の自動車メーカーの中国戦略に直接的な圧力をかける。

次に、シーメンスやバイエルなど大手企業10社以上の経営トップが同行した事実は、ドイツが経済的利益を追求する姿勢を鮮明にしたことを示す。これは、日本企業が中国市場で技術提携や合弁事業を模索する際、ドイツ企業との競合が激化する可能性を示唆する。特に、中国政府が推進する産業政策において、ドイツ企業が日本企業よりも優先的なパートナーと見なされるリスクがある。

最後に、ショルツ政権が「デリスキング」を掲げつつも、経済的結びつきを重視する姿勢は、日本政府が推進する経済安全保障戦略に再考を促す。ドイツが中国との経済関係を維持しつつリスクを管理しようとするアプローチは、日本企業がサプライチェーンの多様化を進める一方で、中国市場の機会をいかに捉えるかという課題を突きつける。中国市場の成長鈍化が懸念される中でも、ドイツ企業の積極的な姿勢は、日本企業が中国事業の再構築を迫られる可能性を示唆する。