中国は半導体自給率向上を目指し4.8兆円規模の国家基金第3期を設立したが、米国の先端技術規制で製造能力は28ナノメートル(nm)世代に留まる。この状況下、中国最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)は旧世代の製造能力を拡張。日本の製造装置・素材メーカーは、汎用技術市場での商機と地政学リスクの狭間で難しい判断を迫られている。
国家基金4.8兆円、狙いはHBMと装置国産化
中国政府が半導体の国内供給網強化に向けて設立した国家集積回路産業投資基金、通称「大基金」の第3期が約4兆8,000億円(3,440億元)規模で始動した。2014年の第1期(約2兆円)、2019年の第2期(約3兆円)を上回る過去最大の資金投入は、米国の技術輸出規制が厳しさを増す中での中国の危機感の表れだ。今回の重点投資分野は、生成AI(人工知能)に不可欠な高帯域幅メモリー(HBM)と、国内での製造が急務となっている半導体製造装置と見られる。HBMは複数のDRAMチップを垂直に積層する高度な後工程技術を要するが、中国の長鑫存儲技術(CXMT)などはまだ開発途上にある。米国の規制により、ASML(オランダ)製のEUV(極端紫外線)露光装置の輸入は完全に途絶。7nm以下の最先端プロセス開発は事実上停止しており、資金の使い道は自ずと代替技術や成熟プロセスの強化に向かう。米調査会社ロジウム・グループの2023年12月の報告書によれば、過去の基金による投資総額約500億ドルのうち、6割以上が半導体製造工場(ファブ)建設に充てられたが、先端分野での成果は限定的だった。第3期では、装置の心臓部である光源やレンズ、精密動作を制御する基幹部品など、これまで海外に依存してきた領域への資本注入が加速する公算が大きい。
米国の輸出規制は中国の半導体産業を止められるか
米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月に導入した包括的な輸出規制は、中国の先端半導体開発に大きな制約を課している。具体的には、14/16nm以下のロジック半導体、128層以上のNAND型フラッシュメモリー、18nmハーフピッチ以下のDRAMメモリーの製造に関わる米国製装置・技術の輸出を原則禁止した。これにより、世界で唯一EUV露光装置を供給するASMLも、米国の部品・技術を使用しているため輸出が不可能となった。結果、中国の半導体産業はEUVリソグラフィー(原子サイズに近い解像度を得るための露光技術)を導入できず、7nmより微細な回路パターンの量産は極めて困難になった。SMICが2022年に限定的に7nm製品を出荷したと報じられたが、これは旧世代のDUV(深紫外線)液浸露光装置を複数回使用する「マルチパターニング」という手法に依存したものだ。この手法は工程数が大幅に増え、ウエハー1枚あたりの処理時間とコストが急増するため、歩留まり(良品率)の低さが課題となる。米ボストン・コンサルティング・グループの試算では、マルチパターニングで7nmを製造する場合のコストは、EUVを使用した場合に比べて2倍以上になるとされる。したがって、米国の規制は中国の先端半導体量産を「止めた」というよりは、「経済的に非合理な状態に追い込んだ」と評価するのが正確だろう。
国産化の最前線、SMEEとNAURAの挑戦
米国の規制強化を受け、中国国内では製造装置の国産化が国家的な至上命令となっている。その中核を担うのが、露光装置を手がける上海微電子装備(SMEE)と、エッチングや成膜装置で国内首位の北方華創科技集団(NAURA)だ。SMEEは長年、オランダASMLの牙城に挑んできたが、その技術水準は依然として大きく水をあけられている。同社が現在量産可能なのは、90nmプロセスに対応するKrF露光装置までだ。次世代のArF液浸露光装置「SSA/800-10W」の開発を進めており、これが実現すれば28nmプロセスの国産化に道が開けるが、2024年時点でも安定した量産には至っていない。一方、NAURAはエッチングやPVD(物理気相成長法)装置の分野で躍進している。業界調査会社Gartnerの2023年データによると、NAURAの世界市場シェアはまだ数パーセントに過ぎないが、中国国内市場に限れば、同社のエッチング装置は20%以上のシェアを獲得したと見られる。これは、SMICやYMTCといった国内大手が必要に迫られて国産装置の採用を増やした結果だ。しかし、半導体製造には数百もの工程があり、一つの装置を国産化できても供給網全体を自給するのは不可能に近い。特に、ウエハーの欠陥を検査する装置市場では、米KLAや日本のレーザーテックが高いシェアを維持しており、代替技術は存在しない。
規制の網を抜ける「日本の技術」への依存
中国が直面するもう一つの現実は、先端プロセスを迂回してたどり着く成熟・レガシープロセス(28nm以上)の製造においても、日本の素材・部品産業への高い依存から逃れられないという構造だ。例えば、半導体回路の原版となるフォトマスクの基板材料(ブランクス)では、HOYAとAGCが世界シェアの約7割を占める。回路パターンをウエハーに転写する際に塗布する感光材「フォトレジスト」では、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムといった日本企業が、EUV用だけでなく成熟プロセス用のKrF、ArFレジストでも世界シェアの大部分を握る。中国の国産レジストメーカーも存在するが、純度や安定性の面で日本製品に及ばず、歩留まりに直結するため大手ファブは採用に慎重だ。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の2024年3月の発表によると、2023年の中国の半導体製造装置販売額は前年比29%増の366億ドルに達し、世界最大の市場となった。この数字の裏には、規制対象外である28nm以上のプロセス向けに、東京エレクトロンやSCREENホールディングス製の日本製装置が大量に輸出された実態がある。中国は最先端技術への道を閉ざされた代償として、自動車や産業機器向け半導体の巨大な生産拠点となることで活路を見出そうとしており、その生産活動は日本の基盤技術によって支えられているのが実情だ。
日本企業が直面する選択
中国の技術的自立に向けた巨大投資と、米国の厳格な輸出規制という二つの潮流は、日本の半導体関連企業に複雑な選択を突きつけている。短期的には、中国の成熟プロセス向け設備投資の拡大は、日本の製造装置・素材メーカーにとって大きな商機となる。東京エレクトロンの2024年3月期決算では、売上収益に占める中国向け比率は47%に達し、過去最高を記録した。これは、同社が米国の規制を遵守しつつ、規制対象外の製品群で中国市場の需要を着実に捉えた結果だ。しかし、この状況は諸刃の剣でもある。中国への過度な依存は、将来的な米国の規制強化や、米中対立の激化によるサプライチェーン寸断リスクを増大させる。また、中国で大量生産される汎用半導体は、いずれ国際市場で日本企業が手がけるパワー半導体やアナログ半導体と競合する可能性が高い。日本企業には、目先の利益を確保しつつも、中国市場への依存度を管理し、次世代技術への研究開発投資を怠らないという高度な経営判断が求められる。同時に、日本政府の役割も重要だ。ラピダスが挑む2nmプロセスの国産化支援に加え、日本の強みである素材・装置分野の国際競争力を維持するための政策、そして同志国との連携による経済安全保障の枠組み構築が、これまで以上に不可欠となっている。
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