中国の化合物半導体大手、三安光電(Sanan Optoelectronics)は2024年4月8日、同社の林科闖・副会長兼社長が規律違反および法律違反の疑いで、国の監察機関による調査の対象となり、留置されたと発表した。同社の経営を揺るがす事態であり、中国の半導体業界全体に波紋が広がっている。

創業家支配の経営体制に激震

林科闖氏は、三安光電の創業者である林秀成氏の娘婿にあたる。現会長の林志強氏(林秀成氏の息子)の義弟でもあり、創業家の中核メンバーとして経営を担ってきた。2017年に経営陣入りして以来、林志強会長との二人三脚で同社の急成長を支えてきただけに、今回の事態は経営体制の根幹を揺るがすものだ。

三安光電は、今回の調査が同氏個人の問題であり、会社の経営に重大な影響はないとの見解を示している。しかし、発表を受けて同社の株価は急落。市場では、創業家による支配体制の脆弱性や、経営の先行きに対する不透明感が一気に高まっている。

中国半導体産業への波紋

三安光電は、LEDチップや窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)といった化合物半導体の分野で、中国国内トップの生産能力を誇る。同社の動向は、新エネルギー車(NEV)や第5世代移動通信システム(5G)基地局など、中国が国策として推進するハイテク産業のサプライチェーンに直結する。

今回の経営幹部の留置は、米中対立の激化で重要性が増す中国半導体産業の内部に、コンプライアンス上のリスクが潜んでいることを露呈した形だ。新華社通信など国営メディアも事実を報じており、当局によるハイテク企業への監督強化の一環との見方も出ている。

日本への影響と示唆

三安光電の林科闖副会長兼社長の調査は、日本企業にとって複数の具体的な影響をもたらす。まず、同社がGaNやSiCといった化合物半導体で中国国内トップの生産能力を持つことから、新エネルギー車(NEV)向け半導体サプライチェーンの混乱が懸念される。例えば、日本の自動車メーカーや部品メーカーが中国市場向けにNEVを開発・生産する際、三安光電からの供給不安定化や代替調達先の確保が課題となる。特に、日系メーカーが中国で現地生産を拡大する中で、サプライチェーンの安定性は死活問題である。

次に、中国政府によるハイテク企業への監督強化の動きは、日本企業が中国市場で事業を展開する上での新たなリスク要因となる。今回の調査が「当局によるハイテク企業への監督強化の一環」と見られているように、今後、中国に進出する日系半導体関連企業や、中国企業と合弁事業を行う企業も、予期せぬコンプライアンス調査や幹部の身柄拘束といった事態に直面する可能性を考慮する必要がある。これは、日本企業が中国における事業戦略を練る上で、従来の市場リスクに加え、政治的・法的リスクの評価を一層強化する必要があることを示唆する。

最後に、三安光電の株価急落は、中国市場における企業統治の不透明性を改めて浮き彫りにした。日本の投資家や企業が中国の半導体関連企業への投資を検討する際、創業家支配の脆弱性や突然の幹部調査といったリスクが、企業価値評価に与える影響をより厳しく見極める必要がある。これは、単なる市場変動ではなく、中国特有のガバナンスリスクとして認識すべきである。