中国が「第14次五カ年計画」(2021〜2025年)で掲げた半導体の国内自給率70%達成が、計画終盤を前に極めて困難な情勢となっている。米国の先端技術に対する輸出規制が直接的な打撃となり、特に回路線幅7ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以降の微細化工程が国内で実質的に停滞。国家主導で巨額投資を続けるものの、製造装置や先端材料といった基盤技術領域で日本や欧米企業への依存構造は解消されておらず、目標と現実の乖離が鮮明化している。この状況は、サプライチェーン上で重要な位置を占める日本の関連企業に、短期的な特需と長期的な代替リスクという二つの側面を突きつけている。

24兆円基金、投下されるも効果は限定的

中国政府が半導体国産化の切り札として設立した国家集成電路産業投資基金(通称「大基金」)は、2014年の第1期、2019年の第2期に続き、2024年には第3期として過去最大規模の3440億元(約7.4兆円)の設立が報じられた。3期の累計計画額は公表分だけで1兆元(約24兆円、1元=21.5円換算)を超える見通しだ。第14次五カ年計画では、半導体は「国家安全と発展戦略の根幹」と位置づけられ、研究開発費の対国内総生産(GDP)比率を年7%以上増やす目標が明記されている。しかし、投下された資金は必ずしも効率的に先端技術獲得に結びついていない。米中摩擦が激化する以前に設計された投資戦略は、海外からの技術導入が前提であったためだ。2022年10月に米国商務省産業安全保障局(BIS)が導入した広範な輸出規制は、この前提を根底から覆した。特に、先端ロジック半導体製造に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置の調達が不可能になった影響は大きい。中国最大のファウンドリ(半導体受託製造)、中芯国際集成電路製造SMIC)の設備投資額は2022年に過去最高の63.5億ドルに達したが、その大半は規制対象外の28nm以上の成熟プロセス向けであり、先端分野への投資は事実上凍結されたと見られる。

なぜ国産露光装置では先端半導体を量産できないのか

米国の規制を受け、中国は製造装置の国産化を急いでいる。その象徴が、上海微電子装備(SMEE)が開発を進める液浸ArF(フッ化アルゴン)露光装置だ。これは、光源とウエハーの間に純水を満たして屈折率を高め、解像度を向上させる技術であり、EUVの一つ前の世代にあたる深紫外線(DUV)リソグラフィに分類される。SMEE製の最新機「SSA/800-10W」は、理論上28nmプロセスの製造に対応可能とされるが、業界の評価は厳しい。半導体製造は、リソグラフィ(回路描画)、エッチング(回路形成)、成膜などを数十回繰り返す複雑な工程であり、一つの装置の性能だけでは成り立たない。特に重要なのが、異なる装置間でウエハー上の回路パターンを寸分の狂いなく重ね合わせる「オーバーレイ精度」と、長時間安定して稼働し続ける「生産性(スループット)」だ。オランダASML製の最新液浸ArF装置「NXT:2100i」が1時間あたり295枚以上のウエハーを処理するのに対し、SMEE製装置のスループットはその数分の一と推測される。加えて、量産時の歩留まり(良品率)の低さが課題として指摘されており、先端半導体の安定供給には程遠いのが実情である。

SMIC 7nm開発を阻む「EDAの壁」

仮に製造装置を揃えられたとしても、現代の半導体設計・製造はEDA(電子設計自動化)ツールなしには不可能だ。EDAは、数億から数百億個のトランジスタを集積する複雑な回路を、コンピューター上で設計、検証、そして製造用データに変換するソフトウェア群を指す。この市場は米国のシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、そして独シーメンス傘下のメンター・グラフィックスの3社による寡占状態が長年続いており、3社の世界市場シェアは合計で70%を超える(2023年、TrendForce調べ)。米国政府は2022年の規制で、3nm級の次世代トランジスタ構造であるGAA(Gate-All-Around)技術を用いる半導体の設計に必要なEDAツールの対中輸出を禁止した。これにより、SMICなどが進めていた7nm以降のプロセス開発は、物理的な製造装置の不足に加え、設計段階でも大きな制約を受けることになった。中国国内でも華大九天Empyrean)などのEDAベンダーが育ちつつあるが、その技術はアナログ半導体や成熟したデジタルプロセス向けが中心だ。最先端の論理合成や物理検証ツールにおける性能差は大きく、代替には少なくとも5年から10年の時間が必要と見られている。

日本が握る素材・化学品という「見えざる支配」

中国の国産化努力が最も難航しているのが、製造装置以上に「擦り合わせ技術」の蓄積が問われる先端材料と化学品の分野だ。特に、EUVリソグラフィ工程で不可欠なフォトレジスト(感光材)は、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムといった日本企業が世界市場の約9割を供給する。EUVの13.5nmという極めて短い波長の光に高感度で反応し、かつナノレベルの回路パターンを正確に形成できるレジストの開発は、高度な高分子化学と微細加工技術の融合の産物であり、新規参入は極めて難しい。同様に、半導体の基板となるシリコンウエハーも、日本の信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの約6割を占める(2023年、SEMI調べ)。ウエハー表面の平坦度や純度が半導体の性能と歩留まりを直接左右するため、中国の新興メーカーが同等の品質を安定供給するには至っていない。他にも、回路の洗浄に用いる超高純度フッ化水素(ステラケミファ、森田化学工業)や、平坦化工程で使うCMPスラリー(富士フイルム)など、製造プロセスの随所に日本の素材メーカーが「最後の砦」として存在している。これらの素材は、装置のように分解して模倣することが困難なノウハウの塊であり、中国にとって技術的依存から脱却する上での最大の障壁となっている。

日本企業が直面する選択

米国の規制強化は、中国国内で調達できない成熟プロセス向け半導体製造装置の需要を喚起し、日本の装置メーカーに短期的な恩恵をもたらした側面がある。財務省貿易統計によれば、2023年の日本の半導体製造装置の輸出額のうち、中国向けは全体の4割を超え、過去最高水準に達した。東京エレクトロンやSCREENホールディングス、ディスコといった企業は、規制対象外のDUV装置や後工程装置の中国向け販売を伸ばしている。しかし、この「特需」は永続しない。中国は国家の威信をかけて国産代替を進めており、特に28nm以上の成熟プロセス領域では、5年後には国産装置のシェアが相当程度上昇する可能性がある。日本企業は、規制を遵守しつつ巨大な中国市場とどう向き合うか、難しい判断を迫られている。先端材料分野では当面、日本の優位性は揺るがないと見られるが、中国企業による研究開発投資や人材獲得の動きは活発化している。日本の素材メーカーにとっては、顧客である中国半導体メーカーが米国のエンティティ・リストに追加される地政学リスクも無視できない。先端技術の優位性を維持しながら、リスクを管理し、次世代技術への投資を継続するという、複雑な方程式を解く経営戦略が求められている。