中国の電動シェアサイクル大手、松果出行(Songguo Chuxing)がこのほど、香港証券取引所に上場申請書類を提示したした。同社は地方都市を中心に事業を拡大してきたが、業界全体の課題である低い収益性という問題に直面しており、今回のIPOは今後の成長戦略を占う上で注目される。
急成長する電動シェアサイクル市場
2017年設立の松果出行は、中国の県や市といった地方都市に特化してサービスを展開してきた。現在、422の都市で事業を行い、45万台以上の電動シェアサイクルを運営、登録ユーザー数は1億2800万人に達する大規模なプラットフォームを構築している。
同社は2021年上半期に米国での上場を計画したが、実現には至らなかった。今回、改めて香港市場での上場を目指すことになる。同社の電動シェアサイクル事業は、2024年に93.4億元(約1,870億円)の売上高を計上している。
収益性の壁と市場競争
しかし、事業規模の拡大とは裏腹に、収益性の確保は業界共通の課題だ。松果出行の2024年における電動シェアサイクル事業の売上高は前年比で微減した。広告など新規事業の開拓を進めているものの、依然として売上高の大部分を同事業が占めている。
車両の購入費用にあたる減価償却費は2020年から2024年にかけて減少傾向にある一方、人件費やメンテナンスなどの運営コストは上昇を続けている。同社のビジネスモデルは、車両1台あたり1年での投資回収を目指すものだが、コスト増が収益性を圧迫しているのが実情だ。
中国の電動シェアサイクル市場は、ハローバイク(哈啰出行)、美団バイク(美団単車)、青桔単車(青桔単車)の大手3社が市場シェアの大半を占める。新華社通信によると、松果出行は業界4位だが、上位3社との差は大きい。規模の経済を追求するIT業界の論理で各社が拡大を優先した結果、過当競争とコスト増で収益を出しにくい構造に陥っている。
日本への影響と今後の展望
松果出行の香港IPO申請は、日本のモビリティ関連企業にとって複数の示唆を与える。まず、同社が422都市で45万台以上の電動シェアサイクルを運営し、2024年に93.4億元もの売上高を計上しながらも、収益性に課題を抱えている点は、日本企業が中国市場へ参入する際の事業モデル構築に警鐘を鳴らす。特に、車両の減価償却費は減少傾向にあるものの、人件費やメンテナンス費用といった運営コストが上昇している現状は、サービス提供における人件費比率が高い日本企業にとって、中国での事業展開時に同様のコスト増リスクを考慮する必要がある。
次に、ハローバイクなど上位3社が市場シェアの大半を占める中国市場で、松果出行が業界4位に甘んじている事実は、シェアリングエコノミーにおける「規模の経済」の重要性を再認識させる。日本企業が中国のマイクロモビリティ市場に参入する場合、単独での事業展開では既存大手との競争が極めて困難である。むしろ、技術提供や共同運営といった形で、既存の中国大手企業との連携を模索する方が現実的な選択肢となり得る。
最後に、松果出行が地方都市に特化して事業を拡大してきた戦略は、日本の地方都市におけるシェアサイクル普及のヒントとなり得る。大都市圏に比べ、地方では公共交通機関が脆弱な地域も多く、電動シェアサイクルが新たな移動手段として定着する可能性を秘めている。ただし、中国の事例が示すように、収益性確保のためのコスト管理と、地域特性に合わせたビジネスモデルの確立が不可欠となる。