中国で最も伝統的な祝日である春節(旧正月)が、IT大手による大規模な商戦の舞台となっている。2015年以降、テンセントの「WeChat Pay(WeChat(微信)支付)」やByteDanceの「Douyin(Douyin(抖音))」などが火付け役となり、デジタルお年玉(紅包)をフックとした顧客獲得競争が恒例行事となった。

AI技術を競うIT大手4社の戦略

BATZと呼ばれるIT大手4社(バイドゥAlibabaテンセントByteDance)は、今年の春節商戦に合計で約50億元(約1000億円)を投じ、自社のAI技術を国民的なアプリケーションへと押し上げることを目指している。各社はこの競争を通じて、AI技術力、サービス間の連携(エコシステム)、組織力、そして戦略的な持久力を総合的に競い合っている。

ゲーム性で差別化図る各社の試み

競争の焦点は、配布する金額の大きさだけでなく、デジタルお年玉のゲーム性や革新性へと移行している。テンセントはSNSでの拡散を狙った手法を、Alibabaは自社サービス内での利用を促す仕組みを、ByteDanceは動画コンテンツと連動させた企画をそれぞれ展開した。ある業界関係者によると、これが近年のトレンドだという。

一方、バイドゥはAIによる特殊効果や対話型のストーリーの中に特典を隠し、ユーザーが自社のAIチャットボット「文心一言ERNIE Bot)」を能動的に使うことで賞金を獲得できる仕組みを導入した。このデジタルお年玉商戦は、中国IT企業のAI技術開発と市場競争を加速させる重要な起爆剤となっている。

日本企業への示唆

中国IT大手の春節商戦におけるAI活用は、日本企業にとって二つの具体的な影響と示唆をもたらす。まず、約1000億円という巨額の投資が示すように、中国IT企業はAI技術を単なる研究開発の対象ではなく、顧客獲得とサービス普及のための直接的な競争戦略の中核に据えている。特に、バイドゥが「文心一言ERNIE Bot)」を能動的に使わせることで特典を付与した事例は、AIがユーザー体験の基盤となり、サービス利用を促進するツールとして機能する段階に入ったことを示唆する。これは、日本企業がAIを導入する際、業務効率化だけでなく、顧客エンゲージメント向上や新規顧客獲得に直結するような戦略的活用を検討すべきであることを示している。

次に、テンセントの「WeChat Pay」やByteDanceの「Douyin」がデジタルお年玉をフックに顧客獲得競争を繰り広げたように、中国ではデジタルプラットフォーム上での集客競争が極めて激しい。この競争は、AI技術を駆使したゲーム性やインタラクティブな要素を取り入れることで、単なる金銭的インセンティブを超えたユーザー体験の創出にシフトしている。日本企業が中国市場でデジタルマーケティングを展開する際、単に広告を出すだけでなく、AIを活用したパーソナライズされたコンテンツや、ゲーム要素を取り入れたインタラクティブなキャンペーンを企画する必要がある。また、中国におけるデジタル決済やSNSプラットフォームの活用は、単なる販売チャネルではなく、ブランド認知向上や顧客ロイヤルティ構築のための重要な接点として再評価すべきである。