中国のオンライン旅行最大手Trip.com(トリップドットコム、旧シートリップ)に対し、独占禁止法違反の疑いが浮上している。同社は56%の市場シェアを背景に、ビッグデータを悪用した価格差別や加盟店への不当な圧力が問題視されており、地方の監督当局が複数回にわたり行政指導に乗り出していることが明らかになった。
市場シェア56%の寡占と価格差別疑惑
Trip.comは、中国のオンライン旅行市場で圧倒的な地位を築いている。2024年の市場シェアは56%に達し、市場支配的地位にあると推定される。一般的に、市場シェアが50%を超える事業者は、独占禁止法上の「市場支配的地位の濫用」が問われやすくなる。
一方で、同社を巡ってはビッグデータを悪用した価格差別の問題も指摘されている。同じ商品でもユーザーによって述べた価格が異なる「価格ターゲティング」に対する消費者からの苦情や訴訟が相次いでいるが、現時点で司法当局や監督官庁による明確な違法認定は下されていない。
地方当局による相次ぐ行政指導
こうした状況を受け、中国の地方当局は監視を強めている。2025年に入り、Trip.comは地方の市場監督当局から複数回の行政指導を受けた。貴州省市場監督管理局は、同社を含む複数のオンライン旅行プラットフォーム事業者に対し、加盟店に競合他社との取引を禁じる「排他的取引の強要」や、技術的な手段で価格設定に不当に干渉する行為などを問題として指摘した。
また、雲南省の旅行・宿泊業界団体も、Trip.comなどが市場支配的地位を濫用し、不公正な競争行為を行っているとの声明を発表。中国メディアによると、業界全体でプラットフォーム事業者の優越的地位の濫用に対する警戒感が高まっている。
日本の関連性
Trip.comに対する独禁法調査は、日本企業にとって中国市場における新たなリスクと機会を示唆する。まず、同社が56%の市場シェアを持つオンライン旅行最大手であることから、日本の旅行関連企業、特に中国からのインバウンド需要に依存する宿泊施設や観光サービスは、その動向に直接影響を受ける。Trip.comの行政指導が強化されれば、日本への送客ルートや価格設定に変化が生じる可能性があり、特定のOTAへの過度な依存は避けるべきだ。
次に、ビッグデータ悪用による価格差別や加盟店への不当な圧力といった問題は、中国市場でのプラットフォーム戦略を再考させる。日本のOTAや旅行関連企業が中国に進出する際、現地の規制強化によって、データ利用や契約条件が厳格化されるリスクがある。特に、貴州省市場監督管理局が指摘した「排他的取引の強要」や「不当な価格設定干渉」は、日本のホテルチェーンや観光施設が中国のOTAと提携する際の契約内容に、より慎重な検討を促す。
最後に、今回の動きは、中国政府がデジタルプラットフォーム企業への規制を強化する流れの一環と捉えられる。これは、アリババやテンセントに対する過去の独禁法適用と同様のパターンであり、今後も中国市場で事業を展開する日本企業は、プラットフォームを介した取引において、現地法規の遵守と透明性の確保を徹底する必要がある。特に、データプライバシーや競争法に関するリスク管理は、事業継続の鍵となるだろう。