米国の輸出規制下で、中国が先端半導体製造に不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置なしに、既存の深紫外線(DUV)装置で7ナノメートル(nm)級半導体の限定生産に踏み切った実態が明らかになった。ファーウェイの2023年発売の新型スマートフォンに搭載されたチップは、半導体受託製造(ファウンドリー)最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が製造したとみられるが、その歩留まりは推定30%以下と低迷している。中国国内では半導体製造装置の国産化率が2023年に35%に達したとの見方(SEMI予測)もある一方、先端プロセスへの移行は依然として西側技術に依存する構造は変わらない。この歪な成長は、日本の素材・装置メーカーに成熟プロセス向け特需と地政学リスクという二律背反の課題を突きつけている。
DUV露光で挑む「7nm」の限界
米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月に発動した包括的な輸出規制により、中国企業は7nm以下の微細加工に必須のEUV露光装置を事実上、調達できなくなった。EUVはオランダASMLが独占供給する製品で、波長13.5nmの光を用いることで回路線幅を精密に描画する。これに対し、SMICが保有するのは一つ前の世代にあたるDUV露光装置だ。DUVは波長193nmのフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザーを光源とし、液浸技術を組み合わせても解像限界は物理的に38nm程度とされる。7nm級の回路を描くには、同じ箇所に複数回パターンを焼き付ける「マルチパターニング」という手法が不可欠になる。具体的には、リソグラフィー(露光)とエッチング(食刻)の工程を2回繰り返すダブルパターニング(LELE法)や、4回繰り返すクアッドパターニング(SAQP法)を多用することになる。SMICが7nmチップ製造で用いたとされるのは、このSAQP法を応用した「N+2」と呼ばれる独自プロセスだ。しかし、露光回数の増加は製造時間の長期化とウエハー上での位置合わせ誤差の累積を招き、歩留まり(良品率)を著しく悪化させる。台湾の調査会社TrendForceが2023年12月に公表した分析によれば、SMICの7nmプロセスの歩留まりは、台湾積体電路製造(TSMC)の同世代プロセスの初期段階と比較しても大幅に低く、商業ベースでの大規模生産には採算が合わない水準と見られている。
歩留まり低迷、なぜ商業生産は困難か
SMICの7nmチップが商業的に成功しているとは言い難い理由は、技術的な歩留まりの低さに加え、製造原価の高騰にある。マルチパターニングは、露光・エッチング工程の繰り返しだけでなく、その間に成膜や洗浄、平坦化(CMP)といった多数の工程を挟む。クアッドパターニングでは、単純計算で工程数が1.5倍から2倍近くに膨れ上がる。これはウエハー1枚あたりの処理時間(タクトタイム)を増大させ、製造装置の稼働効率を著しく低下させる。結果として、チップ1個あたりの製造原価は、EUVを用いた場合に比べて2倍以上に跳ね上がるとの試算もある。米ボストン・コンサルティング・グループが2021年に米国半導体工業会(SIA)へ提出した報告書では、米国の技術から完全に切り離された場合、中国の半導体製造コストは35%から65%上昇すると予測されており、現状はこのシナリオに近づきつつある。さらに、SMICが保有するASML製の液浸DUV装置「NXT:2000i」などは、2022年の規制強化前に駆け込みで輸入されたものだ。これらの装置は稼働に際しASMLの技術者による保守が不可欠だが、BISの規制は米国籍を持つ技術者の役務提供も禁じている。部品供給や遠隔保守が断たれた状態で高負荷なマルチパターニングを続ければ、装置の故障率は高まり、生産の安定性はさらに損なわれる。これが、限定的な「見せ球」としての生産はできても、大規模な商業生産に移行できない構造的な要因となっている。
国産装置は「28nmの壁」を越えず
米国の規制強化を受け、中国では半導体製造装置の国産化が国家的な至上命令となっている。上海微電子装備(SMEE)は国産露光装置の旗手とされ、2023年末には28nmプロセス対応の液浸DUV露光装置「SSA/800-10W」を出荷したと報じられた。しかし、その性能はASMLの現行機に比べて数世代前の水準に留まる。ASMLの最新液浸DUV機「NXT:2100i」のウエハー処理能力が1時間あたり275枚であるのに対し、SMEEの装置は100枚に満たないと見られる。露光装置以外でも、エッチング装置の北方華創科技集団(NAURA)や中微半導体設備(AMEC)は14nmや7nm対応の製品を開発しているとされるが、これは特定工程向けの部分的な達成に過ぎない。半導体製造は数百の工程からなる統合システムであり、一つの「ボトルネック」工程が全体の性能を規定する。特に、欠陥を検査するウエハー検査装置や、チップの良否を判定するテスターといった分野では、米KLAや日本のレーザーテック、アドバンテストといった企業が高い市場占有率を維持しており、中国勢の技術は大きく立ち遅れている。JEITA(電子情報技術産業協会)が2023年5月に発表した調査では、中国の装置メーカーによる自給率は、洗浄装置など一部の分野で50%を超えたものの、リソグラフィーや検査・計測といった中核分野では10%未満に留まる。この「28nmの壁」が、中国の半導体自給戦略の現実的な上限となっている。
成熟プロセス特需と日本の立ち位置
先端プロセスへの道が事実上閉ざされた中国のファウンドリーは、戦略を大きく転換し、28nm以上の「成熟プロセス」半導体の生産能力増強へと舵を切った。パワー半導体やアナログ半導体、マイクロコントローラー(MCU)といった品目は、自動車や産業機器、家電製品に不可欠であり、必ずしも最先端の微細加工技術を必要としない。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の2024年3月時点の予測によると、中国は2024年から2026年にかけて、世界で新設される半導体工場の約半数を占める見通しだ。この巨大な投資は、日本の半導体製造装置および材料メーカーにとって大きな事業機会となっている。東京エレクトロンのコータ・デベロッパやSCREENホールディングスの洗浄装置、ディスコのダイサー(切断装置)などは、成熟プロセスにおいても高い競争力を持ち、対中輸出の主力だ。また、フォトレジスト(感光材)で世界シェアの大部分を占めるJSRや信越化学工業、東京応化工業にとっても、中国の旺盛な需要は業績を支える柱の一つである。2023年の日本の半導体製造装置の販売額において、中国向けが4割超を占めた(SEMI統計)事実は、この構造を如実に物語っている。しかし、この特需は米中対立の激化という地政学リスクと表裏一体である。米国が規制対象を成熟プロセスにまで拡大する可能性は常に残っており、日本政府も経済安全保障の観点から輸出管理を厳格化する動きを見せている。企業は短期的な収益機会と、長期的な供給網の分断リスクとの間で難しい判断を迫られている状況だ。
日本企業が直面する選択
中国の成熟プロセス向け半導体への大規模投資は、いずれ世界的な供給過剰と価格競争を招く可能性が高い。台湾の調査会社TrendForceは、2027年までに中国の成熟プロセス(28nm以上)における世界生産能力シェアが39%に達すると予測している。これは、特に日本のルネサスエレクトロニクスやローム、東芝といったパワー半導体や車載半導体を手がけるメーカーにとって、直接的な競合の出現を意味する。中国勢が政府の補助金を背景に低価格攻勢を仕掛ければ、日本のメーカーは収益性を維持することが困難になる。この状況下で日本企業が取りうる選択肢は限定される。一つは、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いた次世代パワー半導体のように、技術的優位性が高く、中国勢が容易に追随できない分野へ研究開発投資を集中させることだ。もう一つは、製造装置や先端材料といった、半導体製造の根幹を支える「上流」での支配力をさらに強化することである。シリコンウエハーで世界シェア約6割を握る信越化学工業とSUMCO、EUV用フォトマスクブランクスで世界を席巻するHOYAとAGCなど、日本には代替困難な技術を持つ企業群が存在する。中国の国産化努力は、逆説的にこれらの日本企業の技術的価値を浮き彫りにした。米中どちらの陣営にも属さない中立的な供給者としての地位を確立できるか、あるいは西側諸国との連携を深め、技術的優位性を維持するための「壁」を高く保つか。日本の半導体関連産業は、今まさにその岐路に立たされている。